天使と悪魔を秘める者
215話
力をはぎ取る。スーツの男は確かにそう言った。ハルの時間操作の力が失われば有利に動くことができないだろう。
「ハル。ここで一気に攻めるか...慎重に動くか、どうする?」ラフノがスーツの男を向きながらもハルにしか聞こえない声量で言い放った。ラフノの言葉を聞いたハルは剣をしっかりと持ち、構えながら口を開く。
「今ここで最大限のダメージを与えよう」ハルがそう言った瞬間背後から声がした。
「今から死ぬ順番の相談ですか?でも残念ですね。あなた方は全てアンデッドに変わるのですよ」スーツの男はそう言って鎌をハルの首に掛けた。ハルの首が刃に刺されそうになったときヤーズが口を開いた。
「ハルを殺しても私たちは勝てる...殺すなら殺せばいいでしょ!?」ヤーズがそう言い放つと同時に両手から衝撃波が訪れる。ヤーズはその場で両手を頭上に構え、手を合わせてグッと握った。そして、もう一度衝撃波が訪れ、地面に向かって両手を叩きつけた。その瞬間周囲に空から無数の稲妻が訪れ、地面が赤に染まりだす。その地面からも無数の火柱が立つ。
「でも、殺すのは許さないよ」ヤーズは地面から手を離し、雷と炎が荒れ狂う中、静かに言い放った。
刹那、スーツの男に火柱と雷が同時に直撃した。スーツの男は狼狽えた。それと同時にハルとラフノがその場から距離を取る。スーツの男は体中から溢れ出る煙を黒い霧を上書きすることによってかき消した。
「それくらいの攻撃で死ぬとでも?」スーツの男は黒い霧を纏いながら言い放った。死ぬわけないとわかっていても今はこうするしかなかった、と脳内でヤーズが考える。
「こっちも命がかかってるんだ。手加減とかは期待するなよ」ラフノが言い放った。そして、剣を構えていた身体をだらけさせながら、再度口を開く。
「魔王を殺すまでこれはやりたくなかったが、やるしかないよな」ラフノはそう言いながらスノイヤの町で買った腕輪を付けたまま、腕輪を付けていない空いている手で腕輪を人差し指と親指で握りしめた。その瞬間空気の流れがラフノの方へと向かいだす。
その間、スーツの男は不敵に微笑んでいるだけだった。
「この腕輪は魔力でも身体能力でも簡単に解放できる。ここで俺は限界をなくして...お前を討つ!」ラフノはそう叫び、叫ぶと同時に肉眼では直視できない程の光が瞬く。
次の瞬間見えたのはラフノの背に純白の翼が生え、頭の上に光の粒が円を描く様に回っている。それ以外は外見に変化があるわけではなかった。
「この姿がわかるか?俺は天使のようだ」ラフノはそう言いながら微笑を浮かべた。それと同時にスーツの男は初めて誰にも見えぬように、忌み嫌う顔を一瞬した。
「天使だからなんです?それで勝った気になっているのであればそれは慢心で...」
「正直もう勝利を確信している。俺は誰よりもつ...ぅ...なんだ...頭が...」スーツの男が話しているときにラフノはスールの男の首元に手を付け、勝利宣言をした。それと同時期に襲ってきたのは頭が割れるように痛い何かだった。ラフノは痛みに耐えられず、スーツの男の首から手を離し、頭を抑える。それをチャンスだと思ったのかスーツの男は背後からラフノに鎌をかけようと寄った刹那、ラフノが腕を背後に出し、スーツの男はラフノの拳により、飛ばされる。そして、ラフノの声音が変わる。
「何してる...ラフノ...」ラフノは自分を客観的に呼んだ。
痛い。皮膚がただれてきた。熱い。痛い憎い。嫌。何もしていないじゃないか。魔族は悪いものだと本に書いてあった。でも間違いかも知れない。理性のはっきりしている魔族なら、平和を愛する魔族ならこの渦も止めてくれるはずだ。お前の正義は殺すことで形を成すのか、教えてくれよ。
「やっぱり、止めてくれるわけないか...」僕はそう言い放ちながら目をゆっくりと閉じた。その瞬間声が聞こえた。
「どうしてかき消さない...!?」トライネの声だった。僕は目を閉じたままいることにした。その瞬間僕の腕に小さく細い手が触れ、掴まれる。目を開くとそこには渦に揉まれながらも傷つきながらも、僕を渦から脱出させようとしてくれていたトライネがいた。
トライネが助けてくれようとしているところを見て僕は辺りの空気の流れを止め、渦を止めた。
「これがお前の望む平和か?」
「私の意志に従っただけ...」僕が止めた空気の中、トライネはふてたような顔で言い放った。その横顔が実に子供っぽく思えた。
「これで魔王様は私の敵になるのかも...でも悔いは残さない。行こう。魔王城へ...」トライネがそう言い放つ。僕はその言葉を聞いて口を開く。
「多分仲間が魔界に来ているだろうから、先にそっちに行ってもいいか?」僕がそう言うとトライネは口を尖らせた。
「別にいいけど?」トライネは不満そうに言い放つ。仲間が多いほうが有利だろうに。
「魔王様...これは...」魔王の側近が口を開く。
「あの者なら平和的に条約を結べるやもしれん」魔王はそう言い微笑を浮かべた。
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