交渉の条件
206話
グエンという名はレイドが魔王城に着き、始めて殺した幹部の名だ。
僕は意識がありながらも勝手に口を動かし、別人格が自分の身体を支配していることを理解する。その時サンドラが口を開く。
「グエン...?そんな...まだいたというの?いや、そんなわけない!その力も奪ってあげるわ!」サンドラはそう言って左手を前に突き出し、グッと握り、引っ張る。それと同時に僕の身体の獣人の毛が前へと靡くが、何も起こらなかった。
「そう焦んなよ!レイ!今から俺の力を見せてやるからよ!」僕の身体を操って言い放ったのはグエンだ。
その言葉が放たれると次の瞬間身体が横になり、四つん這いの様になる。
そして、獣の様に駆け出した。風の切る音が激しく鳴り響く。そしてサンドラの腹に頭が到達する。その瞬間サンドラは人形の様に綺麗なほど曲線を描きながら飛んでいく。
「そんな!グエンは死んだはず!」サンドラが頭から血を流して言い放つ。「うるせぇな...」とグエンが言葉を継ぎ、
「俺はまだ暴れたりねぇんだよ!」グエンはそう叫んでもう一度サンドラに照準を合わせ、突撃する。
恐らく今のサンドラには嘗ての仲間が自分を殺しに来ているようにしか見えないのだろう。
「どうして...!?」サンドラはそう言いながら膝を着いて頭を掻きむしっている。それを見てもグエンはスピードを落とすことなく、サンドラは弾けた。
「な...んで...」サンドラは最後にそう言い放ち、身体は赤いバラを咲かすように弾け、跡形もなくなった。
「さぁ、気は済んだ。この身体は返そう」グエンは冷静な口調で言い放ち、僕が身体の所有権を得た。それと同時にグエンは全く僕の中に居なくなった。
「よくわからないが、まぁ、先に進もう...」僕はそう言って駆け足で魔王城内へと急いだ。
「また破られたか...二人も...」魔王はそう言ってため息をつく。そこにスーツの男が入る。
「魔王様?私が行ってまいりましょうか?」スーツの男はそう言って微笑んだ。しかし、魔王は「要らぬ」と言葉を継ぎ、
「次はお前が行け...。”オクス”」魔王はそう言って指をさす。その先には本を片手で器用に読み、男らしい雰囲気が漂う少女だった。
少女は魔王の言葉を聞いた途端に本を閉じ、ドアから出ようとする。すると魔王の側近が口を開く。
「魔王様の御前だぞ!せめて返事をしたらどうだ!」しかし、その声に少女は反応せず、部屋を後にした。
「魔王様の御前ばっかりだ...。昔は遊んでくれたのに...いや、今は命令を全うしなくては...」少女はそう言いながら宙を浮いて本を握りしめ、魔王城の外へと向かいだした。
馬車が町のど真ん中で止まり、周囲に騎士が並ぶ。その間から出てきたのは黒い帽子に左手には杖を持った男だった。その横を歩くのは立派な髭を持った男だった。
「私はルル・アエロ!アエロの町で代表をしている!この町で反乱があったと見受けするが...どうだ!?これで満足か?」ルルは目を大きく開き、ラフノとアルドリスに言い放った。その言葉を飲み込み、アルドリスが口を開く。
「私の名はアルドリス。この獣人たちの長だ。私は戦争をしたいわけじゃない。既に犠牲も出ているが、市民は全て傷も与えていない。狙ったのは訓練された兵だけだ」アルドリスはゆっくりと言い放ち、次の言葉を出すために息を吸う。
「私はここに獣人族解放を要求する。呑まなければ...」
「要求を呑まなければなんだね...続けてみたまえ」アルドリスの言葉に割って入って来たのは立派な髭をした男だった。
「呑まなければ、強引にでも解放させてもらう。そうなれば、流血が免れない...」アルドリスは顔を歪ませて言い放った。すると、ルルが手を上げた。それを合図の様に代表が乗ってきた馬車のもう一つ後ろの馬車に被せられていた布がはだける。
「......ッ」皆が皆同じような反応をした。
その馬車には強固な檻が施されており、獣人がそこに収容されていた。
「良いだろう。要求を呑もう。こちらの提示したことを守ってくれるのであればな...」ルルはそう言って帽子を少し深くかぶる。そして続けて口を開く。
「この檻に入っている獣人がすべて殺されるのを見届けたら、この場にいる獣人は永久解放を約束しよう。しかし、途中何かしようとすれば、要求は呑まぬ」ルルは微笑を浮かべながら言い放った。
アルドリスが拳を握る。がどちらの手も太ももについている。
「承諾したことでいいな?では...」ルルはそう言ってラフノ達に背を向け、手を掲げる。その時、アルドリスの足に子供の獣人族が泣きながらしがみ付いていた。アルドリスは顔を歪ませ、汗を流す。そして、次の瞬間ルルの手が振り降ろされる。筈だったが、それは止められた。それはラフノがルルの掲げた手を握ったからだ。その周囲にはハルとヤーズが兵を全て睨むように構えている。
「これはどういうことかな?アルドリス殿」ルルは困惑した様子で頭だけ振り返り、横目でアルドリスを睨む。
「これは俺が個人で動いていることだ。アルドリスは関係ない」ラフノはそう言ってルルを睨む。それに気づいた兵がラフノに近づいていく。それにラフノが反応し、光を瞬かせた。その瞬間兵の大半が地面に倒れた。
「な、なにが...」
「なぁに...少し眠ってもらったんだよ...」ラフノの口から放たれたのは悪魔の言葉だった。ラフノからは無数の光の剣により、兵が倒れているようにしか見えていなかった。
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