魔王の住処
199話
「レイド。今日は眠ろう。明日になったらまた旅に出よう。私は最後までそうでありたいんだ」ハルはそう言いながらずぶ濡れになった僕に優しく声を被せた。僕は宿屋の外の玄関辺りに座り、雨宿りをするように俯いて座っている。髪から滴り落ちる雨水がまるで涙を流しているように錯覚させる。
吐く息が白く丸みを帯びている。口から這い出る生暖かい息が視界に見える。
ハルが死ぬことは僕にとって死ぬよりも辛い。僕は何度死んでもいい。でも、そうじゃないんだ。まだ一か月半だ。でも、道化師に仕組まれた分断を数えれば二か月は仲間なんだ。
「どうすればなんて考えている場合ないよな...」僕は頭を乱暴に掴み、グシャグシャにしながら呟いていた。
ずぶ濡れになったからだを鱗を操るようにして水を飛ばし、乾燥させ、宿屋に入り、部屋に戻った。部屋に戻るとラフノがドアの直ぐ傍に立っていた。僕はラフノと目を合わせる。その沈黙は時間をおいてラフノが口を開いた。
「お前は今から魔王を倒しに行くんだよな?もしそうなら俺も...」
「連れて行かない」僕はラフノの言葉を遮り、言い放った。その言葉にラフノが牙をむく。
「何言ってんだ...。今まで一緒に戦ってきたじゃないか...!」ラフノがそう言うと僕は息を吸い、思いっきり吐き出す。
「邪魔なんだよ...!全僕が終わらす...。魔王なんかも...」
「明日の朝。明日の朝お前がもし魔王を倒していたら俺たちは何も言わない、が、倒していなければすぐにお前の元に行き、戦いに参戦する」
「何言って...」
「それが、ハルの望みだろ...」僕の反論の言葉をラフノが押さえつけた。今一番僕に効く言葉で突き刺した。僕はその言葉に胸をグッと掴み、口を開く。
「分かった。それでいい...」僕はそう言い放ち、ラフノに背を向け、部屋のドアを開いた。
宿屋を出て僕は雨を見る。そして脳裏に何かを思い浮かべる。
ガラスナがこの前言っていた言葉『司書の恩恵』というものが僕に付与されているらしい。司書の恩恵というものが本当にあるのなら、僕は今この場で開ける筈だ。
僕は脳裏に言葉を出し、何もない空気中をドアの様に押し、勢いよく開いた。
光が瞬く。そして、目を大きく開くとそこは見たことのあるところだった。
「ここは、図書館...」僕はそう呟きながら一歩踏み出した。その瞬間背後のドアは閉まり、僕を閉じ込めた。そして前から声がした。
「やぁ、僕はラナ。ここの...って知ってるかな?」ラナと名乗る少年はそう言いながら僕に聞いてきた。
「あぁ、なるほど...」僕はラナと図書館を見て言い放った。その様子を見て微笑むのはこの図書館の司書であるラナだ。
「さて、君がここに来た理由を当ててあげようか?」ラナはそう言って微笑むが、僕は少し微笑んで口を開き、口を開く。
「そんなこと言って僕を驚かすつもりかもしれないが、お前は司書だ。全部知ってるはずだ」僕は微笑みながらも強い口調で言い放った。
「やっぱりわかってるよね...はは...」ラナはそう言って苦笑する。そして途端に真剣な顔つきになる。
「君は今から魔王を倒しに行くんだよね?」ラナの言葉に僕は頷く。するとラナは宙に浮き、無数とある本を一つ手に取った。そしてラナはその本を丁寧に僕の前に差し出した。
「この本を」ラナはそう言って中々手に取らない僕に押し当ててくる。
本には何か文字が書かれているが何を書いているか分からなかった。
「この本は?」僕がそう聞くと、ラナは口を開く。
「この本は君が魔王を倒すときに渡そうと思っていた本だよ。この本には隠された力がある。それは...自分で確かめてみてね」ラナはそう言って僕を後ろに向かせた。
「じゃあ、行っといで!」ラナは満面の笑みで言い放ち、ドアを開き、僕をドアの外に誘った。
僕の足は自然と一歩を出し、外の世界に足を踏み入れた。
歩くとそこは空が黒ずみ、霧が黒く漂っていた。
「ここが魔王の住処...」そう呟いた僕の目線の先には黒っぽいレンガで造られた要塞の様な城が立ちはだかっていた。要塞の様な城は所々に白色の火が点った灯篭が置いてあり、不気味感を味合わせてくる。
「さぁ、やろう...」僕はそう言って魔王城に歩き出した。
「ケッ!チマチマしてっから噂の人間が”こちら側”に来ちまったぞ?」椅子に腰かけ、机に脚を乗っけ、幹部の男が言い放った。すると、そこに高い声が紛れてくる。
「あらあら。また机に脚を乗っけて...」暗がりから歩いてくる女はそう言い放ちながら男に歩いていく。そこに更に声が混じる。
「黙れよカス共。今おれは本を読んでる」男勝りな女はそう言って本を片手で器用にめくって読んでいる。机に脚を乗っけていた男がその態度を見て口を開く。
「何が本だ!そんなの面白くねぇよ!」男がそう言うが、女は気にせず本を読み進める。その行動に苛立ちを覚えた男が立ち上がろうとした瞬間に杖が弾かれる音がした。
「止めろ。魔王様の御前だぞ」男はそう言って玉座の隣に立っている。そして、その玉座には魔王が座り、口を開く。
「あの人間にこの城を壊されれば世界に平和は来ない。決して通すな...」魔王はそう言って頬杖をついた。
それを影から誰かが見つめる。黒いスーツを身に纏った人型の影は一度レイドが見たことのある人物だった。
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