後一週間の命
198話
雨が降ったまま止まないのは何か不穏なことが起きているときだと思う。それは的中に終わるわけだ。目の前のスパイダースライムというモンスターを見てそれを自覚する。
スライムはブクブクと音を立てている。これが人間の持つ怒りと言うならモンスターに感情が芽生えたということだろう。
「さて、そろそろあいつも逃げれただろうし...僕も疲れた体をあまり刺激しない程度に本気を出すよ」僕はそう言い放ち、黒に包まれたナイフを掲げ、振り下ろした。その瞬間武器屋兼民家は崩壊し、周囲に真っ黒の鱗と雪を纏わせる。スライムが無い目を多きる開くかのように驚き、先手必勝と思ったのか、スライムは僕の周囲に舞う鱗と雪を恐れず、飛び掛かって来るが、僕の鱗により、行く手を阻まれる。筈だったが、スライムは僕の鱗の攻撃にものともせず消化し、突き進んでくる。僕は敢えて、スライムの攻撃を喰らった。
皮膚を溶かしながらブクブクと音を立てる。先程と違い、消化の威力が強くなっていて、僕の腕が既に肉まで消化されていた。
「この期に及んで更に上位になったか...でも、もう終わりだ」僕がそう言った瞬間スライムは弾けた。
「鱗に爆発の力を仕込んでいたんだ。スライムなら消化しながらも襲ってくると思ったからな」僕はそう言いながら赤いオーラを出し、腕を完全修復させた。
「さて、戻るか、報酬は、ナイフだけか。家を壊したのは悪いとは思うが、助かったんだから家主も本望だろ」僕はそう言い放って、宿屋へと足を進めた。
雨が頭を直撃する。僕はすぐに対処法を得る。鱗を半平らにし、頭に被せる様にする。
「この力使えるな」僕はそう言って宿屋へと急いだ。
戦闘があっても誰にも気づかれていないのは幸いしている。また、僕が壊している現場を見られれば更に犯罪者認定を受けてしまうだろうし。
宿屋に着くと店員が目を向けてきたが、すぐに下に下ろした。僕は気にせず、ラフノがいる部屋へと帰っていった。
部屋に入ると普通はいる筈のないハルとヤーズがその場に立っていた。その二人の顔と合わせ、一同全て真剣な顔つきだった。
「どうしたんだ揃って...」僕は首をかしげながら言い放った。その瞬間ラフノが牙をむきだした。
「お前なぁ!仲間が死ぬかもしれないのによくそんなことを...!」ラフノは突如前に出されたハルの腕によって止められた。
「これはレイドにはまだ話していなかったことだ...レイドは悪くない」ハルは勇ましく言い放ち、手を下げた。そしてハルは僕に向き、口を開く。
「私な...XXXXXXXX」ハルの言った言葉が聞こえない。その言葉だけ僕は拒絶反応を起こしていた。空白の言葉は僕の心を抉り、雨音が五月蠅いくらいに僕を突き刺す。
「な、なぁ、もう一回言ってくれないか?」僕は聞こえない空白の言葉を聞こうともう一度聞き出そうと思った。しかし、それがヤーズに止められることとなる。
「レイド。それはハルのことを考えて...」ヤーズは優しい声で僕にそう言った。僕はふと明後日の方向を見る。そこにはナルファが居て、僕の方をじっと見つめていた。
「教えてくれよ。このままでいるにはどうすればいいか...」僕はナルファに口を開いた。するとナルファは小さく口を開く。
「私は何も口出しできません...。これはレイドさんたちの問題ですから」ナルファはそう言って身をひそめる。
「わかった。少し一人で考えさせてくれ...」僕はそう言って再度宿屋を出た。宿屋の外に屋根がある場所にて僕は空を見上げた。空は既に暗くなっていて、星は雲に隠れて見えない。
ハルの放った言葉。実は僕は分かっている。聞こえていたんだ。でも受け入れたくない。ハルが”あと一週間で死ぬこと”を。
命あるもの死は必ず訪れることは誰もが知っている。それでもいざその場からいなくなると思うと、
「悲しいんだ...とても...」僕は身震いを繰り返しながら下唇を噛んだ。
僕が感傷に浸っているときに背後から声がした。
「レイド。そんなに悲しいか?」ハルの声だった。いつもよりもなぜか優しく思える。僕は頷く。
「泣きそうなくらい悲しいか?」ハルは再度言葉を放つ。僕は頷く。
「そうか。私はそこまで好かれていたんだな」ハルがしみじみするように言い放つ。僕は「...あぁ」と震える声で言い放った。
「とても悲しいんだ...。折角できた仲間なのに...失うことが...」僕は熱くなる眼を抑えようと手を見る。
「皆で冒険者になるんだ...。だから...僕はこの一週間以内に、魔王を殺し、ハル、ラフノ、ヤーズ全員で、冒険者になるんだ...!それで...ッ!」僕は下を向いた顔を段々と上にあげながら希望を唄っていた。しかし、それはハルの顔で唐突に終わりを迎えた。そして、ハルが口を開く。
「レイド...私は死ぬんだ...」ハルのその一言で雨がより一層強くなった気がした。僕はその無数の雨水を頭からかぶり、叫んだ。
「あああああああぁぁ....ぅ...。うわぁぁぁ...ああああ!」悲痛に叫ばれたものは言葉ではない、ただの叫びだった。
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