9.やっぱり!
どこに行くかもわからないまま、私は手を後ろに縛られて連れて行かれていた。
「あの、いったいどこへ……」
「何を言っている。不法退出者は死あるのみだ」
「死……」
なんで、私こんなところ知らなかったのに……
「ま、待ってください! 私、ここにきたのも今が初めてで……」
「そんなことがあるか。お前の名をこの登録名簿で確認している。さらにこの外で見つけたという証言もな」
「そんな……」
人違い?
どうして私が……?
「しかしお前も運がなかったな。よりによってシューンと一緒とは」
「シューン?」
「まさか、お前記憶喪失なのか? シューンは魔法を使って俺たちを貶めて破滅させられかけたんだぞ。それを偉大な王、ニド・ヘッグファスト様が追い払いこのグズミアを堅牢な都市にしてくださったのだ」
へ、へぇ……
私の知らないこと色々話してくれるけどよくわかんないよ……
エリサさんやお父さんや村長さんがこの街にそんなことを?
そんなことするわけない……!
でもそれならさっきなんで助けてくれなかったんだろう……
やっぱりそうだから?
優しくしてくれたのも一緒にいて楽しかったのも……?
もうわかんない、わかんないよ……
痛いよ……
「おい、どうした。おい……」
いつの間にか外の音が遠くなって目の前が真っ暗になった。
「おい、くそ女。覚えとけよ」
……覚えてる、全部この言葉から始まった。
小学校入ってすぐの頃。
私がクラスのことをわかってなかった頃。
クラスで一番強い男の子に反論しちゃったことがあって……
次の日から。
「おはよ!」
「……」
「え、ねえ……」
「ねぇねぇ昨日の……」
「……あ、そういえばさ」
「なんで……」
「一緒に帰ろ〜」
「……あ、一緒に帰ろ!」
「え、ねぇなんでよ……」
徹底的に無視されるようになっちゃって……
友達も誰も私のこと見てくれなくて……
寂しかった。
私は本当はいないんじゃないかって怖かった。
怖かったけどお母さんにもお父さんにも心配かけたくなくて相談できなかった。
だから私はみんなと……
1人になる子がいないようにしないと……
ふと目が覚める。
目が覚めると目の周りが濡れてた。
そっか、夢……
って、ここどこ!?
「独房よ」
「独房……?」
「そうね、犯罪者を閉じ込めておく場所って感じかしら」
「犯罪者って……私なんにもしてません!」
「でしょうね、私もしてないもの。でもこの国はニドのエゴだけでここに入れられるのよ」
また難しそうな話……
「いい? この国の技術はシューンから奪ったものなの。侵略も嘘、ただニドが迫害するために流した噂よ」
「で、でもエリサさんは私を助けてくれなかった……」
「エリサ……っていうのは外、それもシューンなのかしら?」
私はうつむきながら頷く。
「それなら仕方ないわね。あなたにはかわいそうだけど、この街でシューンが何かをすれば一瞬で警備隊がやってきて射殺されるわ」
「射殺……」
そっか、殺されちゃうなら無理だよね……
私はもしかしたら助かるかもだけどエリサさんは……
「ふふっ、でもちゃんと助けに来てくれたみたいね」
「え……」
一緒に入ってる人がそういうと大きな音で何かが鳴り始めた。
「な、何!?」
「これは警報機よ。エジックの発動を感知した時に鳴るの。エリサが来るわね」
「セレちゃん! あと……お母さん!?」
「はぁい、久しぶりね、エリサ」
え、ええ! お母さん!?
確かに言われてみれば似てるけど……ええ!
「お母さん、良かった……」
「エリサ、私も嬉しいけど話は後。とにかくここを出ないと」
「う、うん。今壊すね」
エリサさんはそういうと床に手をついて力を込めた。
すると突然柵が壊れた。
「今のって……?」
「ごめん、セレちゃん。話は後! とにかくグズミアを出るよ!」
「わ、わかった!」
廊下を走って外を目指す私たち。
「止まれ!」
「エジスト!」
たくさんの人が銃を構えて私たちに撃ってきた!?
落ち着いたようにエリサさんのお母さんが前に出て声を出すと撃たれた銃弾は壁で止まったように落ちて……た?
「え、エリサさん、今の何!? 魔法!?」
「あれはエジック。私たちが使える魔法だよ。このせいで私たちは……」
なんだろ……
私、なんか悪いこと聞いちゃったかな……?
「私が後ろから行くからエリサはその子を守りながら先に行きなさい!」
「わかった! セレちゃん、行くよ!」
「うん!」
走る。
迷路みたいな廊下を走り回ってお外を目指す。
「止まれ!」
「止まらないよ!」
エリサさんが敵をどんどん何かで弾き飛ばしてくれてるから安心できるけど!
でも魔法ってすごい!
私も使えるようになるのかな?
聞いてみたいけどさっきのエリサさんの反応見てると聞きづらいなぁ……
「セレちゃん!」
「え?」
撃たれた銃弾が私に近づいてくる。
怖い……
思わず強く目をつぶる。
撃たれたくないよ……
目を開けると後ろに銃弾が刺さってた。
あれ、もしかして……
「セレちゃん、大丈夫だった!? 良かったぁ……」
「大丈夫だよ、エリサさん」
私はエリサさんの前に出る。
「セレちゃん!? 何してるの! 早くこっちに!」
「そんなに死にたいなら殺してやる!」
『撃たれたくない!』
私がそう思うと撃たれた銃弾はやっぱり私から逸れて後ろの壁に刺さった。
「なっ……!」
やっぱり!
前、私の能力が何もないと思ってたけど、きっと私がいやって思ったことがなくなるんだよ!
【いやっ!】って名前の能力でいいかな?
なんかかっこいい名前思いついたらそっちにしよ!
ってそうじゃなかった。
「エリサさん、私には当たらないと思うから気にしないで!」
「え、でも……」
「大丈夫!」
「わかったわ、セレちゃんのこと、信じる」
エリサさんにどんどん敵をとばしてもらいつつ、撃たれたのは私の【いやっ!】で避けてなんとか外に出る。
「いたぞ、撃て!」
「もう! キリがないよ!」
「セレちゃんと私で上手くかわして壁の外に行こう」
「うん!」
私を頼ってくれる。
それが嬉しくて頑張ってるうちにいつの間にか壁を抜けていた。
「はぁはぁ……セレちゃん、大丈夫?」
「う、うん、私は……エリサさんとエリサさんのお母さんは?」
「私も大丈夫。お母さんは……」
「私も大丈夫よ」
「わ、わあ! びっくりしたぁ……」
また急に出てきた……
本当にびっくりしたよ……
――ドォーン
突然、遠くで爆発するような音が聞こえた。
「あの煙、もしかして村から……!」
エリサさんの村から!?
「確認しに行きましょう!」
私たちは急いで村に向かった。