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近々、死のうと思います。  作者: 逆竜胆
第一章・一輪の花の茎を折る
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これからの先行き

こんにちは、お久しぶりです。逆竜胆でございます。

本当はもっと早く今話をあげる予定ではありましたが、所詮予定は未定でございますね。いえ、言い訳させていただけるならば、梅雨明け前から夏バテを引き起こしておりました。

食事も喉を通らず、身体は重く、胸焼けして気持ちが悪いときました。そこに重なる仕事ですっかり意気消沈。パソコンに向かっても頭が回らず、文章が出てこない。夏バテって怖いなと感じた十日間でございました。

虚弱体質でごめんなさい。それでは、お楽しみください。


 私は今、床に敷かれたカーペットの上を歩いていた。ソフィの指示により、私は客人として当分の間、個室を与えられるらしい。その客室までの道のりを、召使いのアリーヤと言う年下の女性に案内されている。しばらくの間、彼女が私の世話を焼いてくれると言う。男のロマンの詰まった専属メイドだ。ちなみに、その身を欲望のままに使うと、お縄を頂戴することになるだろう。公爵家ともなると、ほとんどの使用人が他家から紹介された貴族の末席に連なる者になると、本で読んだことがある。前の世界の本であるから、こちらの文化と差異はあるだろうが、何も参考にするものがない以上頼りにする他ない。

 そして入り口から遠いところにある部屋まで案内される。中々に意匠の良い部屋に通された。天蓋付きのベッドと、爬虫類の皮を鞣して作られたソファが、テーブルを囲むように配置された、広い部屋に通された。前の世界での私の部屋が二つは入りそうな大きさである。それだけ私を重要視しているのだろうかと思うが、何か裏を感じて仕方がない。ここは人間として正しく素直に受け取ろうと思う。裏があると思い、びくびくと怯えながら過ごすには、相手が大物過ぎた。

 そんなことを考えながらも、ソファに座り寛ぐと、アリーヤが頭を伏せながら

「紅茶のご用意をして参ります。もう少しで湯浴みのご用意も整いますのでお待ちください。では失礼致します」

と言い、一礼して退室した。頼みますと言う隙すら与えずに出ていくものだから、私のことが嫌いなのかと勘違いしてしまうではないか。他人が他人のことを嫌いになるほどの興味を向けることなんてないのだから、ただの勘違いだろう。心当たりがないので勘違いであってほしいなと思います。

 リリーに引き続きアリーヤと来た。私はメイドに素気無く(すげなく)扱われる才能の持ち主なのかもしれないと、そんな下らない戯言を考えながら、ソファを撫でる。爬虫類の冷たい感触と中のクッションの弾力を指で確かめつつ、私はこれからの先行きを考えた。

 もちろん、考える議題は、このままソフィのお世話になって良いのかと言うことである。貴族へ作る貸しほど怖い物はない。やはり伝え聞いた話が、ヤクザ商売と重なって仕方がない。右の小指を立てながら頬をなぞり、このままここにいると取り返しの付かないほど、大きな貸しになりそうだと思った。借金は返せないほどに膨らませてから利子だけを摘み取った方が稼げるのだ。貸しももちろん、そういう風に作らせるものだ。私ならそうする。

 金、金がないのである。今手元には元の世界の一円硬貨すら持っていないのだから。今回の報酬で幾らもらえるか分からないが、金はあればあるだけいい。世の中、金だ。社会的地位も信用もない。身分の証明も出来ない。

 そして馬車で来るときに、ちらと見たがどうやら表音文字のようで、その文字の形から意味のある言葉を表しているようには見えなかった。英語のように単語単語で意味を作っているようだ。ちなみに英語は、日常会話に支障をきたす程度である。今から新しい言語を覚えられるだろうか。

 覚えたくないなと、ぼやきながら帝国臣民の識字率はどれくらいなのかが気になった。二人に一人読めない程度なら、その一人でも良いかなと妥協が心を縫うように泳ぐ。しかし帝都内であれだけ文字を見たのだから、都市部では識字率は高いのだろう。

 その嫌な普及率の予想に辟易とし、ぐったりとソファに身体を投げ出していると、ノックとアリーヤの声を聞いた。どうやらお茶の準備が出来たらしい。私は気を取り直し、扉の向こうへどうぞと声を掛け、気持ち姿勢を正す。

 キュルキュルとワゴンを押したアリーヤが紅茶の香りを立たせながらやってきた。これはダージリンの香りかなと知ったかぶりをする。しかし私はダージリンが何かを知らなかった無教養人であった。ダージリンは好きなんだけども。紅茶は嫌いであるから、多分ダージリンとは気が合わないだろう。

 目の前で紅茶を淹れてくれるアリーヤを見ながら、現実逃避をしていると彼女から声が掛かる。

「こちらラックロイド領産のものになります。ミルクが良くお合いになりますが、いかが致しましょうか?」

「ミルクをください」

ラックロイド領の紅茶がどんなランクの物かは分からなかったが、紅茶の味の分からないため、私がそう適当に答えると、

「畏まりました」

と真面目に答えられるものだから、少々居心地悪く感じた。

ティーカップが置かれ、ミルクとティースプーンが添えられる。アリーヤの楚々とした一連の動作に、作法に則ったものがあるように見えた。流石、千代田区にいるメイドさんとは出来が違う。あそこは一度冷やかしに行けば、それでもう満腹である。

 さて、目の前の紅茶をどうしようか。そう考えながら、とりあえず自分からほしいと言ったのだから、ミルクくらいは入れることにする。そして音を立てて混ぜた方が良いのか、立てない方が良いのか迷いながらも、何とかミルクで赤を侵食する。そして飲めないものを出されても断ることの出来ない、奥ゆかしき日本人の精神に則って、無理にでも口に含むことにした。

 そして当然の如く、その紅茶の味を私が知ることはなかった。やはりこれを美味しいとは思えなかった。遠い未来にでも美味しいと思えるだろうか。遠い未来を望まない私には関係のないことかも知れないが。

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