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近々、死のうと思います。  作者: 逆竜胆
第一章・一輪の花の茎を折る
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帝都は目に騒がしく

おはようございます、逆竜胆です。

今回は説明ばかりになります。そして説明と言うと、これまた恥ずかしいことに国名や名称など、作者の厨二病度の試される場になります。一応、この国を造り上げていく上でのモチーフはありましたので、なるべくそれに寄せるように努力はしております。足りない努力ですが。

寄せているだけで稚拙なことには変わりございませんので、温かい目で見ていただければ幸いです。


 そのあと、事後処理を終え、報告へやってきたライリーの言葉から、私は今回の死者の数を知った。フィンチを含め、今回は八人が脱落したようだ。人の生き死になんぞ、今まで気にもしていなかったが、触れあった人が殺されると妙に気になるらしい。私も存外人間らしいところがある、と自嘲を飲み込む。そしてまた襲撃があるかも知れないとして、今回は馬車に被害がなかったからと、その場から移動したところで、雨が止んだため、ルーカスに借りたスーツを着て、一夜を明かした。スーツでも寝られるなんて、本当に図太い神経をしている。


 襲撃から二日後の今日、私は石を伐り出して高く積み上げた外壁を潜っていた。ようやくソフィの目的地であるグレートランド帝国、帝都ソートフルリードに到着した。帝都の名前の由来は、古代に実在したという統一帝国の哲学者が残したものが由来だと言う。パスカルの「人間は考える葦である」と言う言葉は、有名であるが、世界が違えど同じようなことを考える人はいるらしい。

 それにしても偉大なる地(グレートランド)やら、思慮深い葦(ソートフルリード)やら、どうにもこの帝国人は、尊大な物言いが好きなように思えた。この今通っている大通りも、謁見へ続く道(オーディエンスストリート)と呼ばれているようで、そのなだらかに登った先にある優美で巨大な宮殿は、白百合宮殿(リリィパレス)だとか。

 帝都は初めて訪れたと言うと、ソフィもルーカスも色々と自慢気に話してくるのだから、彼らのプライドを上手く刺激しながら、言葉を返せば、情報も集まる集まる。この帝国は、古代統一帝国の唯一の後継国であり、世界最大の領土と文明を誇っているだとか、それはもう帝国の自慢話を聞かされた。誇りを大事にするお国柄なのかもしれない。

 私たちは馬車に乗りながら、会話を弾ませる。私はそれでも初めての都市に浮かれ、外ばかりを見ていた。石を伐り出して都市が造られており、地震が少ないことが分かる。屋根も傾斜がきつくはないから、雪や嵐といった災害も少ないように思えた。

 そして人々も活気がある。服飾が発達しており、男性は近代スーツに近いものを、女性はヴィクトリア朝の絵画でよく見る、ゴシックドレスの原型みたいな服装が多く見られた。どうも流行っているらしい。この中では、私が最初着ていたサン・キュロットは浮いただろうことは明白であった。ルーカスに予備のスーツを借りていて良かった。

 ソフィが市民にもファッションを楽しむ権利をと、この国の皇帝陛下に進言し、設立した商会から安い価格で売り出したらしい。そして多くの服飾関連の商会を潰し、吸収したのだと怖いことを言っていた。サーの称号を名乗っていた割には、大物過ぎやしないだろうかと、彼女の来歴を邪推しようと思ったが、知らぬが花と言ったことわざもあるので、過去の偉人の言葉に従っておくことにする。

 彼女もどうやら私に自分の背景を語る気はないようである。そうして進んでいくと、内門に着く。外壁から内門までの区画を、市民区と言い、内門から宮門までの間を貴族区と呼び、宮門の内側が、王族の居住スペースたる白百合宮殿になる。こういう風に住み分けをしないと、問題が多発するらしいのだ。

 そして内門を通り、貴族区にやってきた。市民区とは違い、人が歩いておらず、時折馬車が通るのみである。どの馬車も豪奢な装飾と家紋を掲げた旗があり、この旅路で襲撃を受けたソフィの乗る馬車は、周りに比べるとみすぼらしく見えた。それでもソフィは堂々としていたが、私は日本人らしく周りの目が気になったが、車内にいるのだから、顔は見られないから大丈夫だったと安心する。

 貴族区の住居は、位によって屋敷の大きさが決まっており、宮殿へ近づくほどに上級貴族が住む屋敷になるとソフィは言う。そしてすれ違う馬車を牽引する馭者や、屋敷の目の前にいる門番に不審な目を向けられながらも進み、宮門が見えるところまで来ると、その前にある一軒の屋敷とは言いたくなくなるほどの、巨大な邸宅の前に、馬車が停まった。

 あまりの大きさと、洗練された装飾の付いた門を見て、若干顔を引き攣らせてしまう。まさか、そこまでのお嬢様だとは思っていなかったのだ。有名な公、候、伯、子、男の五等爵で考えるならば、彼女は最高位の公爵ではないのだろうか。今までのことは無礼講と言うことで許していただけないだろうか。……よく考えたら、無礼講って言葉ほど信用出来ない言葉もない。

 無礼講怖いな、とか思いながら運命の時を待つと、馭者が門番に話しかけているのが小窓から見えた。そして門が開き、広い庭園を抜けると、屋敷の入り口の前に召使いが並び、お辞儀をして出迎える。そしてリリー、ルーカスの順に降り、ルーカスの手を借りてソフィが降りる。そして最後、車内に残っていた私に向かって、ソフィはにこやかに笑みを浮かべながら、こう言った。

「ようこそ、マクドナルド公爵邸へ。臆病な私の命の恩人さん」

本当に良い笑顔で、そうソフィは言った。

 公爵と言ったら、五等爵の中で最上位に当たる貴族の中の貴族ではないか。私のような平民が来るところではない。断じてない。いや、私はこの国の市民権すら持っていないのだ。平民ですらない、身分ピラミッドの最底辺に生息する私の命運は、この目の前で微笑むソフィが握っているのだと思うと、恐怖でしかなかった。貴族と知っていながらも、それだけ無礼なことをしてきたと自覚があるのだ。どうせ騎士爵や高くとも男爵程度だろうと、高を括り調子に乗っていた過去の自分の正気を疑う。頭に穴を開け、正常に戻るまで、何度も脳味噌を捏ね繰り回したくなる。

 馬車から一向に降りず固まっている私を見て、ソフィはまるで悪戯が成功したかのように笑う。蛇に睨まれた蛙が如く、その笑みにも反応を返せずいると、

「早く降りなさい。歓待の準備を整えさせておりますから」

後戻りの出来ない周到さを彼女は見せる。市民権も持っておらず、実質平民以下の身分しか持ち合わせのない私では、ここで逃げても碌なことにはならないだろう。そしてそれを断るだけの理由など、この国に来たばかりで行く当てのない私には持ち合わせいなかった。

「……ありがとうございます、マクドナルド閣下。有難く頂戴したく思います」

私には他の選択肢がなかったのだった。

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