新たな旅立ちの日 エリエント歴336年 弥生(3月)
太陽の光が暖かい。まだ・・・寝ていたい・・・
・・・いや、おかしいな。
俺の自室は、こんなに陽が当たらないし、俺の身体の上に掛け布団も掛かっている感じもしない。
ここって・・・外・・・?
そこまで思考が回転した瞬間、俺は、勢いよくパチリと目を開けた。
まず俺が見た光景は、雲ひとつない青空と眩しい太陽だった。
太陽の位置を見る限り、だいたい午後の2時といった所か。
そこで俺は、気付いた。自分が自室のベットの上にいるのでは、なく芝生の上で寝ていたことを。
こんな場所、来たこともないし、記憶にもない。
しかも服装も俺が持っていた服ではなく
簡素なズボン、チュニックは、腰あたりに黒いベルトが巻いてある。
焦りつつある俺の頭を落ち着かせ考える事にした。
まず、記憶喪失になってさまよってここまで来たという可能性を考え覚えてる自分の情報を口に出していた
「俺の名前は、榎本 叶多(えのもと かなた)」
「歳は、16で家族構成が俺は、一人っ子で父さんと2人暮らしをしている。」
ここまで思い出して、俺は、記憶喪失の可能性は、消した。
だってここまで覚えているのだから。
俺は、改めて周りを見回した。
「ここは・・・どこなんだ・・・?」
思わず口に出てしまった。
どうやって俺は、ここに来たのか?それがまったくわからない。
俺は、俺が覚えてる最後の記憶を思い出そうとしていた。
「そうだ。確か寝る前にふと、夜空を見上げたらすごい量の流れ星が見えたんだ。そしてその流れ星を見てたら、急に地震が起こって・・・!」
そこから先の記憶は、ない。
思い出そうとすると底なし沼にはまっていくような変な感覚が俺を襲う。
おれは、とりあえず考えるのをやめて行動する事にした。
まず、情報収集だ。
この広大な草原に1日中いたら何が起こるか分からない。
町や村などを探すため俺は、歩き出した。
しかし、なんと美しい所なんだろう。
今まで俺の見た景色の中で一番美しいと感じているんじゃないだろうか。
空は、澄み切った青空。見渡す限りの草原。透明度が高い小川の水。
すべてが美しい。
そんな悠長なことを考えながら歩き続けて何分たっただろうか・・・
突然何かが喋っている声が聞こえた。
俺がいる位置の右側からだ。
俺は、喜んだ!
よし!事情を話して近くの町だの村だのに連れて行ってもらおう!
そんな事を考えながら俺は、声がする方に走って行った。
しかし、近付くにつれその声が日本語を話している事が分かり喜んだ!
話が通じる!帰れるんだ!っと
嬉しさのあまり気付かなかったんだ・・・
後ろから急接近している奴に・・・
嬉しさが少しずつ収まり周囲の事を気にかけるようになった瞬間、急に後ろから足音が聞こえて来たんだ。
後ろを振り返ると、そこには、俺からしたら仮想の中だけのやつだと思ってた奴がいたんだ・・・
肌は、赤色。目は黄色。布を腰に巻いており、右手には、蛮刀を持っている。腰になにやら短剣を持っている。鞘はなく、剥き出しの真っ白い刃が太陽の光を反射している。
この外見は、いわゆる『ゴブリン』という奴だ。
実在しないはずの存在。ゲームなどにしか出てこない存在が目の前にいるんだ・・・
「チッ、コンナヒンジャクソウナヒューマンノガキカ・・・マァイイ・・・コロス!コロス!コロス!」
俺を・・・殺そうとしているのか・・・?
そうと分かっても身体がいうことを聞かない。
俺は、実際のゴブリンが怖すぎて動けないんだ。
「なんだよ・・・ゴブリンって超弱い最初の魔物じゃないのかよ!」
俺はそう叫んでた。
ゴブリンは、蛮刀を振りかぶると、
「シャッ!」
空気を切り裂く音がした。
ゴブリンが、蛮刀を振り抜いたのだ。
俺は、咄嗟に身体を左へ捻り直撃を避けたが右腕に攻撃が擦り地面に刺さった。
致命傷は、避けれたがそれでもすごい出血量だ。
痛みがひどく次の攻撃を避けられないだろう。
「俺は・・・死ぬのか・・・?こんなどこなのか・・・分からない場所で・・・?」
「オワリダ。ヒューマンノガキ。」
ゴブリンが、地面に突き刺さった蛮刀を引き抜き、そう言った。
「ふざ・・・ける・・・な・・・こんな・・・ところ・・・で・・・」
「アァ?ウルセェガキダナ。ビョウドウナイノチノヤリトリダロウガ。」
平等な命のやり取り・・・?この状況で・・・?
俺は、武器1つもない子供なのに?
「シッ!」
ゴブリンの蛮刀が振り下ろされている最中に俺は、呟いた。
「この世界は、理不尽で残酷なんだ・・・」
自分達が生き抜くために他種族を犠牲にして生きている。弱者は、喰われるだけの世界だ・・・。
なら俺が死ぬのも仕方ない事なんだ。
俺は、静かに目を閉じ死ぬその時を待った・・・。とか
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急に周りの草木の揺れるカサカサという音が聞こえなくなった。
俺は、おそるおそる目を開けると、そこは、病院だった。
俺の目の前には、苦しんでいる女性がいた。
あれは・・・誰だ・・・?
「サキさん!がんばってください!もうすぐですよ!もう頭は、見えてます!」
(サキ・・・!?サキって・・・まさか!)
俺の母親、榎本 咲(えのもと さき)は、とても身体が弱く、俺を産んだ時に力を使い果たし、死んでしまったと、父さんが悲しそうに言っていたのは、知っている。
(じゃあこれは、俺の産まれた時?という事は、この後母さんは・・・)
「おぎゃー!んぎゃー!」
「咲さん産まれましたよ!元気な男の子です!」
そういい助産師は、産まれたばかりの子をタオルに包み母親の横に置いた。
「元気に産まれてくれてありがとう・・・」
その時、ピー!ピー!と機械が音を立て出した。
「心肺機能がどんどん低下しています!」
万が一の時のために立ち会っていた医師が対応の準備を始めている間も母は、しゃべり続ける。
「あなたの名前は・・・叶多よ・・・叶う・・・・夢が・・・多い・・・ようにという意味よ・・・。」
ピー!という心肺が停止した音が鳴り響いた。
自然と涙が止まらなくなり、俺は目を拭った。
目を開けるとそこは、不思議な場所だった。
俺が立っているのは、雲の上で目の前に母がいる。
母は、にこっと笑うとこう言いかけてきた。
「私は、あなたを産んで死んだけどね・・・
あなたを産んで後悔は、してない。
俺は、生きてやる・・・生き抜いてやる・・・
この理不尽で残酷な世界を生きてやる!