第四話
「ねえ、毎日水やりするの嫌じゃない?」
俺に当番が回ってきたある日、彼女に聞いてみた。
彼女は一瞬驚いた後、困ったような顔をして、
「うーん、でもね、野菜とお花が見られるのは嬉しいよ。大きくなったなー綺麗に咲いたなーって」
でも、その優しさを利用して他の奴らは彼女に自分の当番を押し付けている。彼女はそれでもいいと思っているのだろう。
小学生が思いついた無邪気な悪意のない、悪意。
名前も知らない彼女はきっと優しいのだろう。けれども――――――優しすぎた。
そして、優しいだけではただ利用されるだけなんだ。
幼いながらにそう思った。
家に帰っても誰もいない。お父さんもお母さんも仕事だ。しばらくするとお母さんが帰ってきて、「今から、ご飯作るからね」と台所で料理を始めた。
トントントン、規則正しく包丁で野菜を切る音が聞こえてくる。それを僕は食卓のテーブルに座り、じっと母さんの背中を見ていた。
お母さんは人には優しくしなさいってよく言うけど、
「ねえ、優しいだけではだめなんだよ」
そう突然切り出すとびっくりしてお母さんは僕を見た。
「どうしたの?いきなり」
「優しい子がいるんだ。水やりの当番をクラスのみんなから押し付けられて毎日水やりをしている。クラスの子はみんなその子に頼んでいるんだ。」
脈絡のない話し方だったが、お母さんはいつの間にか料理をやめて、僕の向かいに座り、話を聞いてくれた。
「うーん、そうね、ただ優しくするのが優しさじゃないの
―――――その人のために優しくありなさい。」
「優しくすればいいの?」
「その人のためになるならね」
「うーん、分かった」
そう答えはするが、分かったような分からないようなそんなもやもやしている僕に、
「まあ、そのうち分かるわ」
お母さんは優しく微笑んでいた。