第三話
すぐに思い出せもしないほど、ずっと心の奥に閉じ込めていた思い出。
小学校―――確か4年生の理科の授業でクラスごとに好きな野菜・花を育てるというものがあった。そして当番制にして野菜と花の水やりをすることになっていたのだ。
水やりをするのは面倒だな、とみんなが思いつつも、花が咲いたり、野菜がなったりすると喜んでいた。また、その野菜を料理して食べることにもなっており、なんだかんだで楽しみにしていたのだ。
ある日、僕が当番で来たとき、隣のクラスの女の子が水やりをしていた。隣のクラスも当然同じ理科の授業を受けているわけだから、僕のクラスの隣のスペースの畑に花と野菜を育てていた。
しばらくして僕に当番が回ってきた。畑に行くとまたあの女の子が水やりをしていた。偶然同じになったのかな、と
そのときは別に気にも止めてなかった。
しかし、翌日彼女がじょうろを持って畑に行くのを見かけておかしいな、と思うようになった。
2日連続で水やりなんてあることじゃない。休んでいる友達の分とかだろうか、とも考えてはみたが――――――――そのまた翌日も水が入った重たいじょうろを一生懸命運んでいく女の子を見て、僕は確信した。
彼女は毎日水やりをしているのだ。
クラスみんなでするはずの水やりを彼女だけがしているのはなぜだろう。
隣のクラスの奴に聞いてみた。
水やりって面倒だよねーーーーそう当たり障りのない感じで。
僕とはあまり親しくはないが、去年クラスメイトだった彼は答えた。
「別に面倒じゃねえよ。やってくれるやつがいるし」
「・・・どういうこと?」
そいつは、まるで大事な秘密を教えてくれるかのように僕の耳に囁いた。ニヤニヤと笑う顔が抑えきれていない。
「頼んでくれるとやってくれる奴がいるんだよ。水やりしてくれない?って頼むとうん、いいよって言うからみんなが頼んでる。だから誰が今度当番かなんて気にしてないんだよ。毎日やってくれるんだから」
――――― 水やりってクラスで交代してするんじゃないの?
――――― 一人の子に押し付けるのはおかしい。
そんな言葉は心の中で思っても口からは出てこない。
「・・・そうなんだ。」
僕はそう答えるだけだった。