第一話
「人には優しくしなさい」――――俺の母親が小さい頃よく言っていた言葉だ。要は優しい人間になれっていうこと。
そもそも優しい人間はなぜ優しいのか。それは周りの環境にあったんだろうと思っている。
優しい両親に育てられた。だから優しくなった。
逆に厳しかったから自分は優しくありたいと思った。
学校で○○ちゃんは優しいねと褒められた。嬉しかった。だから、優しくありたいと思った。
学校でいじめられた。自分はいじめるような人間になりたくないと思った。だから――――――
「おーい、なつ」
「・・・ん?」
考え事にふけってしまっていたようだ。
「なに?」
向かいの席でカレーを食べようとしている友人を見ると苦笑された。
「いや?何考えてたの?」
「・・・・別に何も」
そうざっくばらんに答え、俺は目の前のチャーハンをすくった。
向かいの席で今チャーハンを口に運んだいかにも不機嫌です!という顔をした友人をみて、また俺はこっそり苦笑する。目の前の友人は高校からの付き合いで同じ大学に進学した。(まあ、学部は違うからあんまり会うことはないんだが。)今日はたまたま食堂で見かけたので一緒に食べることになったのだが、ご機嫌斜めの日だったようだ。
「とりあえず機嫌悪いね?なっちゃん」
「いい加減、なっちゃんはやめないか?」
彼―――藤崎夏樹はさらに不機嫌になったようだ。
「ああ、ごめんごめん」
さすがに大学生になるとそう呼ばれるのが嫌なようで、「普通に呼んでくれない?」と言われるようになり、なつ、と呼んでいたのだがやっぱり馴染めないんだよなー。
「で、なんかあったの?」
「・・・別に何も」
話す気はないらしい。彼はクールそうなイメージがあるが、案外表情が顔に出ているので面白い。
「じゃあ、俺、次授業だから」
「ああ、じゃあまた」
藤崎は空になったチャーハンの皿をもって食堂を出ていく。
「うーん・・・」
とはいえ、あんなに表情が顔に出ているのも珍しい。
何で不機嫌なのか探った方がいいだろうか。彼は人に頼る性格ではないから自分を思い詰めすぎるのではとひそかに心配している。――――ちょっとそんな考えが浮かぶが、彼は人に必要以上に干渉されることを嫌う。割とめんどくさい性格の人だ。
「うーん、しばらく様子を見るか・・・」
カレーの残り一口を口に運んで、お茶を飲む。ごちそうさまでした、と手を合わせ俺も食堂を後にした。