3/8 ボルドー〜パリ観光
昨夜のトムは「この時間のトラムに乗ってくれ! 中で合流する!」とどう考えてもすれ違いフラグな発言をかまして去って行ったのだが、結局早めにホテルに来てくれた。いやはや有り難き哉友情也。
早速チェックアウト。日本と同じく鍵を返せば終わりであるのだが、まずフロントに人がいない。
これまた日本と同じくベルがあったので鳴らしてみると、朝食担当なおばちゃんが「今行くからそんな慌てないで頂戴〜」的なことを言いながらのんびりと歩いてきた。ちなみにフランス語なので、雰囲気による意訳である。
さらっと流したが、こちらのおばちゃん、のんびりと歩くのである。客が待っていようが何だろうが、お待たせいたしました! 的な空気は欠片もない。寧ろ、せっかちねえ貴方達状態である。
……日本人って恐縮しすぎなのではなかろうか。
さて、トラムへ乗り込みボルドーの中央駅へ。駅はなかなかに美しかった。そして、誰かがピアノ(日本と同じくショーウインドウ的なものだった模様)を演奏していた。確かショパンだった、お見事。
朝から良いものが聴けたのだが、出発30分前になってもプラットホームが表示されないのはこれ如何に。トムがカスタマーサービスで聞いてくれたのによると、9時にならないと表示されないぞよ、との事。
ご想像の通り、列車の出発予定時刻は9:20である。素晴らしいゆとり営業であった。
さて9時に表示されたプラットホームに向かい、早口すぎてフランス人でも聞き取れているのか怪しい(トム談)放送が幾つか流れた後、列車がプラットホームに滑り込んだ。そこで私達はトムと別れを惜し——
「君達荷物重いんだから早く乗せないと!」
——むより前にトムの尤もな指摘を受け、20キロクラスのスーツケースをよいせと運び込んだのだった。別れを惜しんだのだろうか、私達は……
(注:一応列車がくる前にお礼他挨拶は済ませていた。あっさりしてはいるが情が無い訳ではないので念の為)
ヨーロッパの列車は荷物置き場が各車両と車両の間にあり、そこに大きな荷物が置ける。が、ここは平和大国日本ではなくスリ大国フランス。そのまま放置なんて危険な真似はなるたけ避けたいのだが——
吾桜「チェーンロック持ってきた人ー」
N嬢「はーい」
その他「…………」
——備えあれば憂い無し、という言葉の似合わない面子だった。
その後N嬢が試行錯誤してなんとか3人分の荷物を繋ぎ、S子の分だけ座席に持ち込んで足場扱いするまでなかなか時間がかかった。他のお客様の通行の邪魔になっていたのは少々心苦しい……と思いきや、彼等は日本人女子に優しかった。他に置かれていた荷物を位置替えし、その上で軽々とスーツケースを持ち上げておいてくださったりと大層面倒見が良かった。無口だったけど良い人である。……まあ、結局は並べておかないとチェーンが届かず、N嬢が下ろしてしまったのだが。
さて、3時間半列車の旅である。窓の外はひたすら田園風景が広がり、風車も多く見られた。のどかで美しい光景である。
座席が回転しなかったので吾桜とN嬢、AちゃんとS子で席割りを行った。最初の方こそ4人で到着後の予定について話し合っていたのだが、一通り決まった後は——
「……(すーすー)」
「……(先を越された……)」
——N嬢が海外にもかかわらずぐっすりと寝オチしてくれた為、吾桜は睡魔と負けられない戦いを繰り広げることとなったのだった。海外の公共乗り物で寝オチしたら荷物どーぞ、というのと同義だ。
(実はこのタイミングで日本にいる空目緋色さんとTwitterで会話していた吾桜である。眠気晴らすには会話大事、Wi-Fiレンタルサービスは大層良い仕事をしてくれたものだ)
余談だが、Aちゃんは私も爆睡だと思っていたらしい。後で「起きてたよ」と言った所、「じゃあスーツケースが転がり出たのちゃんと直してよ」と叱られた。失敬、気付かなかった。
さて、昼頃にパリに到着。ホテルのチェックインが14時だったので、ひとまずお昼を食べる事にしたが、パリは物価が高かった。
カフェがとてもお昼な値段ではなかったので、近くのパン屋でサンドイッチ(当然フランスパン)と菓子パンを購入。駅構内のベンチでランチタイムとなった。ここのリンゴのガレットのようなものがなかなかに美味だった。
その後、ホテルへと移動。一応地図では駅近い筈だったが……
Aちゃん「調べてみたんだけどー、この辺り治安がよろしくないみたい」
……ツアーデスクで頼んだ女子4人旅のホテルだとゆーのに、些か物騒な場所を予約されてしまった私達であった。
まあ、そもそもパリは治安はそこまでよろしくない。まず間違っても日本と同じ調子で歩いてはならない。
例えば、リュックサック厳禁。肩掛けバッグも前に回すべし。掏られるかひったくられる。
例えば、地下鉄のチケットを購入する際は要注意。「買ってやる」と親切心を見せたように見えた少年が実はお金目当てだったりする。
……「その機械違う、こっち」と言われて付いてった先、やり取りがちょっと妙だなと思った瞬間に隣の機械でチケット購入中だった老婆が凄まじい剣幕で追い払ってくださった。お手数をお掛けいたしました。
どうも日本人はかもらしい。いや、日本はそんなの滅多にいないので警戒度が違うのは当然だが。
女性4人、それも大きな荷物持ちと言うことでカモネギ状態だったらしく、老婆にもその後わざわざ話しかけてきた若い夫婦にも「あの子供達は気を付けて、お金見せちゃダメよ」と言われた。実は別の子ども(タカリ)が最初気付かず不用意に接近許しました、ごめんなさい。
さて、無事回数券を購入し、地下鉄に乗車。いざ出発——
——フランスのバスがスポーツなら、パリの地下鉄はベリーハードモード(S子命名)だった。
急発進は、まあよい。スーツケース保持がとても大変だったが、まあ良い。
問題は、停車である。あちらの地下鉄は自動ドアではなく、中外からボタンを押すことでドアが開くのだが……完全に止まりきる前に開くのである。振り落とされたらどうするつもりなんだろうか。
パリのヒトビトは逞しく、止まりきってなくても降車していた。危ない。
カルチャーショックの連続だった私達だが、最寄り駅に着いてからも大変だった。地上に出たら、音叉に横棒足したような路が広がっていたのである。
……ホテルはどこだ。
「なんかー、方向的にあっちっぽいけど……路が狭いし怖い感じがするからちょっと行きたくないしホテルあるように見えないよねー」
道の端によって地図を確認していたAちゃんの指摘にそうだねと頷き、その隣の大きな道を試しに歩いてみる事にした。さて行くぞと地図の確認は任せて周囲警戒のみを行っていた吾桜が道路を渡ろうとすると、隣にいた黒人男性に話しかけられた。
英語を話せるのかと聞かれて警戒度MAXで頷くと、
「この界隈はスリが多い、周りに気を付けろ。バッグもポケットも気を配るんだぞ」
……忠告をいただいた。
どうやらよっぽど危なっかしかったようだ。吾桜的には話しかけてきたおにーさんが怖かったのだが、そんな人にまで注意される程だった。
(ところで、話しかけられたのが他ならぬ吾桜だったのはしっかりして見えたからと判断して良いのだろうか。よもや最年長者に見られて先導者なんだから注意しろよ、といわれたのではなかろうなとやや疑心暗鬼である)
その後警戒心MAXで路をごろごろと突き進むも、ホテル見つからず。仕方ないのでスマホの地図アプリで位置情報を確認してみると、大幅に遠のいていた。
というか最初の怖い感じな路が正解だった。ツアーデスクにはちょっと苦情を入れたいレベルの飲み屋通りである、どういうことだ。
そんな迷子モードを発揮してやれやれと辿り着いたホテルは、名誉の為に言っておくがとても親切なおばちゃんが営業していた。にこやかに受付をして、ホテルのWi-Fiパスワードを設定し、タクシーの案内までしてくれた。そして、
「女性4人旅? 今日はレディース・デーね」
と言われて思わず顔を見合わせる吾桜達。なんだ、それは。
「あら知らないの? 今日、3/8は世界中でレディース・デーと決められているのよ」
知りませんでした。
日本ではあまり知られていないが、どうやらそういう事らしい。豆知識だ。……役に立つのだろうか。
さて、4階らしいのでエレベータを呼ぶ。ボルドーはあれだったがパリはどうかな、となんだか古風なボタンを押すが……ランプがつかない。
「あれ? つかないよ?」
何度か繰り返し押すが、やはりつかない。壊れているのかと思ったら、いきなりドアが開いた。つかないのがデフォらしい。
そして、中は……壁が木製だった。中に入ると閉じ込められた感が強かった。
「4人乗れるかなー」
「うーん……無理っぽい」
そして狭かったので、スーツケースがあると2人が限界だった。吾桜とN嬢が先に乗る。中のボタンを押すも、やはりつかない。
「あれ? 閉じるボタンが反応しない」
「え」
N嬢の言う通り、閉じるボタンを押しても反応しない。またも何度か押していると、勝手にしまった。ボタンの意義……。
登り始め終わりにがったんと揺れる上に、昇る途中もガタゴト言うエレベーターを経由して辿り着いたホテルの部屋は、ごく普通だった。シャワーも段差付きにクラスアップしていた……カーテン仕切りでせっまいが。
さて、荷物を置いたら観光へGO。
スリへの最大限警戒モードを発動しつつ、地下鉄を乗り継いで、かの有名な凱旋門へ。今はガイドマップや地下鉄案内図も丁寧なのでほぼ困らない。
S子「フランス語読めないけど次Aのつく方向!」
Aちゃん「それ1番確実な見方だよねー」
……もしかすると私達が無駄に逞しかっただけかもしれない。フランス語読めるのは私とAちゃん(しかも音だけで意味は分からず)だけである。
さてともかく着実に到着した吾桜達。駅から外へ出れば凱旋門が視界に飛び込んできた。何はともあれ写真撮影。
「エクスキューズミー」
いきなり話しかけられる事本日2度目。警戒しつつ応じると、女性が割合高そうなカメラを示して、写真を撮ってくれとのこと。
……日本人は「平和ボk、もとい荷物の持ち逃げしない善良な民族」と認識されている為、写真撮影を頼まれる率が高い。海外を旅行される方はそのつもりで。
「てか、そーやって頼む人に頼むと安全なんだけどね」
「あ」
Aちゃんに指摘されてよーやく気付いた。もう1つ4人で記念撮影という発想の足りない吾桜であった。
まぁともあれ、シャンゼリゼ通りへ。勿論歌ってみた。
が、ブランドものは何も買っていない。
スワロ○スキーとル○ヴィトンのお店を冷やかし確か更にもう一ヶ所冷やかしたが、文字通りのただの冷やかし。一通り見て回って出て行った。……一応Aちゃんは目的のものがあったらしいが、見つからなかった。
だが、たった1つ、吾桜達が長居した場所がある。
本屋である。
シャンゼリゼ通りの端に存在した本屋で、吾桜達は異様な程長居した。それはもう、これぞ女の子のお買い物なレベルで。
一体何を買ったのかというと、雑誌である。日本の雑誌をフランス語で、あるいはフランスの雑誌。まあ、割と一般的な外国土産であろう。一応。
特にN嬢はさんざ悩み倒してレシピ本だの雑誌だのを大量に買っていた。というか、他の3人が買い物終えているのに全く構わず1人ふらふらと店内を彷徨い続ける始末。
「このメンバーで買い物をして待たされることなんて織り込み済み!」
S子の潔い言葉は尤もだが、単独行動ではぐれたら連絡手段はないし、後の予定もある為、流石にちょっぴり焦った吾桜である。
ちなみにN嬢、散々迷った末に雑誌2冊にレシピ本数冊を購入していた。一般的な外国土産であるこれは、同時に預け手荷物重量制限との戦いとなるのだが……まあ、これは後々お話ししよう。
さて、その後日本人のサラリーマンのおじさまに4人で写真を撮って貰った。あと、互いの写真の撮り合いもした。
「パリ行きましたーって報告用!」
身も蓋もついでに洒落っ気も無かった。
それから再び地下鉄に寄り、ガイドブックに載るエッフェル塔写真スポットに移動。流石の人混みだったので、写真撮影時もバッグ保持。
だが、ここで多いのは観光客だけでない。
S子「あの人に声かけられるの怖い」
吾桜「noって言っておけばいいんじゃない?」
両手にたっぷりとエッフェル塔ミニチュアを持つ黒人男性が複数人いて、当たって砕けろ方式で「買ってくれませんかー」と突撃していた。
……その売り子さんの黒一色な服装、金ぴかのエッフェル塔、歩く度にエッフェル塔同士がぶつかってちゃらちゃら鳴る音が印象強すぎた為——
「私あの人を『御利益さん』って呼ぶ!」
——哀れ、身も知らぬ日本人女子大生(S子)に愉快なあだ名を付けられる羽目になったのであった。
さて、エッフェル塔でも勿論写真撮影。Aちゃんは悪戦苦闘してN嬢がエッフェル塔をつまんでいるような写真をこさえていた。ちなみに、あちこちで皆トライしていた。
その後、N嬢はほぼ一瞬でAちゃんのエッフェル塔つまみ写真を成功させた。無駄な超スキルは健在であった。
折角だからとエッフェル塔の真下まで歩き、そこから地下鉄に乗ることに。道中路上イベントが開催されていて、大層賑やかだった。面白かったけどスリが怖かった。
夕陽が映えるエッフェル塔を横目に、地下鉄で大急ぎでノートルダム大聖堂へ。案内時間、あと1時間以下である。強行軍バンザイ。
滑り込みで到着した大聖堂、流石に威容ある風体の入口から入ると、凄まじく広い内部。(多分)ゴシック様式の装飾の中は……ミサ真っ直中だった。
「わあ、すごーい!(小声)」
信仰迷子な日本人でも、その荘厳な雰囲気は分かるというもの……といいたいが、普通にカメラオッケーだった為全力で観光客モードで写真を撮りまくった吾桜達である。
一通り見て回り、外に出ると見事な夕焼け。空も上手く写しつつ、大聖堂の裏側へ。……いや別にマイナー所を狙った訳じゃなく、天井アーチが見所の1つなのである。
ただ、
「……何かいきなり人通りが減ったね……」
「いや、1本入っただけで減りすぎ(笑)」
海外の人気のない場所なんて流石に物騒にすぎるので、写真を撮るだけ撮ってそそくさと元の人通りの多い場所に戻ったのであった。
大聖堂お隣のカフェへ。軽く食べようという事で、S子以外がパスタ、S子はクロックムッシュを注文した。
クロックムッシュは、ざっくり言うなればハムとチーズを挟んだトーストサンドである。まさに軽食、フランス名物だ。
……が。
「……ポテト?」
S子の元に来た皿は、ポテトが山盛りになっていた。
正確には、クロックムッシュの上から埋もれさせる勢いでポテトが乗せられていたのだが……これはもう、ポテトがメインだろう。
「ええ、私お腹すいてないからクロックムッシュなのに……ポテトこれ食べなきゃ駄目?」
さしものS子も弱音気味だったのだが……結論から言えば、ほぼ完食だった。少しAちゃんに食べて貰ってはいたが、最終的にお皿は綺麗になった。
曰く、
「ポテトはあると食べちゃうの!」
と。AちゃんとS子のポテトっ子コンビは今後大活躍する。
ちなみに吾桜は大苦戦だった。最終的にN嬢に食べて貰った程である。
「うん、お腹いっぱいにはなるけど入るよ〜」
「N嬢食べるねーいいなー」
「むしろ紫苑ちゃんが食べる量減っててびっくり」
Aちゃんのツッコミはもっともだった。……年齢重ねて胃袋小さくなったのだろうか。
それから、どうでもいいのだがパリの飲食店は水が高い。なんとお酒の方が安いのだ。
流石に700円近いミネラルウォーターを頼む気にはならないので、吾桜とN嬢はワイン、AちゃんとS子はジュースを注文していた。……いや、折角お酒安かったので。
「ごちそーさまでした!」
海外だろうと自重なくそう挨拶し、吾桜達はカフェを離れた。……なお、カフェの癖に4人で80ユーロ持って行かれたことをここに記しておく。
大分プラットフォームや行き先の確認に慣れてきた——相変わらずの乱暴運転は全く慣れない——地下鉄を駆使し、吾桜達4人はホテルに戻った。
ホテルの通りは、予想通り夜は思いっきり飲み屋街だった。……しかも日曜だからか、あまり店も開いていないのに人はたむろしているという恐ろしさである。
「なんというか、駅からホテルまでが一番緊張するねー」
無事ホテルに到着した吾桜がぼやくと、S子は妙にきりっとした口調で言った。
「私、このパリにいる間、無事にホテルに戻ることが最大のミッションだと思います!」
その時は笑いながら同意した私だが、実際本当にその通りだった。
今日からは吾桜とN嬢、AちゃんとS子の部屋割りで宿泊。吾桜とN嬢の部屋は……会話が酷く散発的だった。それぞれ思い付いたタイミングで発言してそれぞれのタイミングで自分のことに集中するという、言葉のボールが投げられるだけ投げられてキャッチされない時間を過ごした。
……正直、吾桜としては大層楽であった。N嬢は気にする様子も無く、ご満悦で本日の収穫(雑誌、レシピ本)に目を通していた。
Aちゃん達の部屋がどうたったのかは知らないが、こちらがWi-FiをオンにするとすかさずFacebookに今日の出来事をアップしていたから、きっと向こうのほうが女子部屋らしかったのだろう……多分。
そうして、移動日にしては盛りだくさんなパリ初日を終えたのだった。