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わたし

まだ咲かぬ花は散る

作者: 水岡きよみ

ジェイケー、と呼ばれていた時代が終わる。

ひっつめた黒髪ノーメイクで電車に乗ることがなくなる。

今日で、制服を着ることも、黒のローファーに足を通すことも、ばかでかくて重い鞄を持つことも、そのせいで左肩がとてつもなく痛むようなことも、スカートの上のほうの帯状になっている硬い部分を折って何人ものおじさんやおばさんに怒られることも、最後だ。

私は今、黒くてばかでかいサテン地のリボンと裾に上品な緑色のラインをあしらった紺のプリーツスカートを翻しながら、地下鉄の階段をトトントトンと降りている。


私の12年間の「学校生活」は、雨で始まり、雨で終わることとなった。

小学校の入学式は、雨だった。

卒業式も雨で、中学校は入学式も卒業式も晴れていたが、それに反して学校での生活は、雷の前の曇り空よりも暗く醜く、濁っていた。

高校は、入学式は晴れていたので会場から近い枝垂桜が有名な庭園で花見をした。苔色をした池では、カルガモが何羽も悠々と泳いでいた。


そして今日は、3月と思えないほどのつめたい風とじめじめとした雨。長すぎて巻いた前髪が、早くも元に戻りそうである。このままでは、卒業証書を戴く瞬間がホラー映画のお化け登場シーンになってしまう。



地下鉄のホームにまで押し寄せる、扇風機とうちわを同時に使ったような強い風。コートは、フォーマルスタイルの制服にホコリを付けたくないので着てこなかった。式のときに着用してはならないので、セーターも鞄に入っている。貼付けるカイロは第一志望の大学の入試の時に切らしてしまったし、手に持つカイロはあまり温かくないので嫌いだ。


…などと、こんなことに気を取られるのもきっと今日が最後だ。今日、式を終えて、クラスメートらと最後の食事を済ませ、母の勤務先の写真館で卒業写真を撮り、帰宅してジャケットを脱ぎ、スカートとリボンのホックを外し、ブラウスのボタンを全部取ってしまったら、私はもう光り輝く女子高生ではなくなるのだ。


今日で、女としての、黄金時代が終わってしまうような気が、なんとなくした。


2015.03.07.08:24

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― 新着の感想 ―
[良い点] いやー。自分が古くなっていくみたいで嫌だなぁって思うときはありますよね。ほんとうは、十七歳と十八歳くらいのあいだをいったりきたりするのがちょうど良いんだけどね。
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