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虚栄の人  作者: 北川瑞山
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 更にその後の話。私はカニケンと話した通り会社を辞めずに、とりあえず簿記一級の勉強を少ししたものの、すぐに馬鹿らしくなって止めた。あんなことは私のやりたい事ではなかった。まして会計士などもってのほかだ。全ては元の木阿弥である。

 それから私は毎日、会社を辞めてどこかでアルバイトでもしながら、作家志望ですなどと言って駄文を書き連ねて気ままに暮らそうかと空想し、時々は食う為に働くくらいなら食わなくても済むように死んだ方がいいなどという自殺願望に駆られ、もう全てが虚しくなって読む事も書く事も止め、ただ空虚に会社と家を往復していた。そうこうしているうちに、いつの間にか会社で昇格してしまった。そのことを上司の小峰から告げられたとき、心の底から湧き上がってくる喜びに心底落胆した。私の望んでいた幸福というのは、畢竟こういう平凡な喜びだったのだ。そしてその事を認めた私はもう正真正銘の平凡な会社人間である。平凡さに裏切られ、平凡さを軽蔑してきた私は、危機に瀕して平凡さにすがりついたのだ。自分の卑劣さが、この時ほど身に沁みたことはない。

 ああ、私は一体、どうすれば迷いなく正しい道を進めるのか。どうしたらこんな凡俗な幸福感から抜けられるのか。しかし、こういう悩んでいる状態も含めて自分の人生ではないかと、今の苦しい状態も決して間違いではないと捉える事ができることもある。自分の人生は失敗だったかも知れないが、それを認めてもなおかつよく生きる余地が残されているのではないかと、そんな時には思う。よく生きるとは何か?それはまだ分からない。

 それと、カニケンはやっぱり苦手だ。来年は一人で旅行に行こう。


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