第2話
「おう逸瀬。今日も仲良く登校か?」
「まーな。どうせ駅まで一緒だし」
「俺も妹駅まで一緒だけど、そんなん考えたこともねーわ」
挨拶もそこそこに自分の席に座る。
学校に着くのはいつもギリギリで、すぐにHRが始まってしまうような時間帯だ。それでもこうやって結城みたいに話しかけてくるバカもいるけど。
「逸瀬、今日放課後ヒマ?」
「悪い。今日夏央んとこに飯食いに行くんだ」
「あー、そっか。じゃあまた今度な」
最近、ということもないけど、何だか気分が乗らない日が多くなった。落ち着かないというか、何というか。別に誰の所為とかそんなことじゃない。でも、思わなかったことが無い訳じゃない。
原因なんて、分かっているから。
「HR始めるぞー」
担任が入ってきて、教室内のざわめきが小さくなる。また始まる1日が早く過ぎることを、頭の中で願った。
授業中、考えていたのは学校が終わってからのことだった。久しぶりに一人じゃない晩ご飯。帰りに何か買ってった方がいいのかな。後で夏央に聞いてみよう。何だかんだで楽しみにしてんだ、俺。そう考えると、思わず顔がほころんだ。
「逸瀬、急に笑うな。気持ち悪い」
「うるせっ」
コツコツと黒板をたたくチョークの音。あの時計の長針があと何周かすれば、夏央に会える。
◇
本日最後の授業終了を告げるチャイムが鳴った。夏央のところに行くことを知っていた結城は、掃除当番を代わってくれた。それについては、ほんの少しだけ感謝してる。後ろから聞こえた
「今度飯おごれよー」
という呼びかけに小さく手をふり、校舎をあとにした。さっき夏央から『卵買ってきて』というメールが届いた。今日はすき焼きらしい。久しぶりだからってそんなに奮発しなくてもいいのに。そんなことを思いつつも、スーパーの袋をぶら下げながら、夏央に電話をかける。
『もしもーし』
「卵、買ったよ」
『ありがとー。もうすぐ着く?』
「うん、今酒屋のとこ」
『分かった。準備しておくね。沙和さーん、逸瀬もうすぐだってー』
『夏央ちゃん、これ持って…』
『きゃー!沙和さん!』
ガシャーンと食器の割れる音がした後に、電話はプッ、と切れた。さっきの様子じゃ、もう少し時間がかかりそうだ。歩くスピードを落として目的地を目指した。