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必要なもの  作者: 雨妣
19/19

第十九話:思い


 

 ━私はあの公園の前をゆっくりと歩いている。


 チョコとの思い出のなかにもある木…。


 花びらはまだ殆ど散っていない。遠目で見ると樹木全体がピンク色のようだ。


  もう見えて来たよ。君といたあの場所が。




  


   チョコが死んだ翌日、私は頭痛と精神的なショックとで学校を休んだ。


 一日充分に休息をとった私は、次の日はちゃんと学校に 顔を出して授業を受けた。


 帰りにチョコのいた場所に行こうか迷った末、足が勝手に河川敷に向かっていた。


  少し遅れた為か、月本が先に来ていて何やら穴を掘っていた。


   一生懸命穴掘りに没頭している月本に声をかけた。


 『何してるの』  と、大方予想していた答えが返って来た。


 『チョコの墓…いっぱい残ったドックフードも一緒埋めようかと思ってる』


月本の話を聞いた私は思い付いて河川敷から歩き出す。


  私が用を済ませて帰ってきた時には穴を掘り終えた月本が座っていた。


 私が帰ってきた事に気付くと、


  『お帰り。今からチョコ埋めるから、手伝って…』


 返事をすると月本がチョコを抱き上げて穴にそっと置いた。


  その隣に月本がドックフードを置いた。


 月本が土を被せようとした時、私がそれを止めた。


 『ちょっと待って』と行ってさっき買いにいっていた物を取り出す。


  そして月本が置いたドックフードの横に添えた。


   チョコの大好きな缶詰。


 『もういいよ』と待ってくれた月本に言って


  私自身も穴の中に入ったチョコに土を被せていった。


   意外とすんなりと終わったそれは、味気ないものだった。


 『月本、これまで一緒にチョコの世話してくれて本当にありがとう。私はもう帰るから』


  私が月本にそう告げたのを最後に、彼とは一度も顔を合わせていない。




 ━私はチョコに恋してたんだね。


 だって君の傷ついた姿を見た日は眠れなかった。


  元気な日には喜びで胸が弾んだ。


  今更気付くなんて遅いって分かってる。


  私は[失う]ということに何度も悲しみを覚えてしまう。 そして多分これからも。


 お祖父ちゃんが死んだとき、あれだけ「もう感情は捨てよう」と思ったのに。


  もしかしたら人間自体辛い感情に慣れることなんてできないのかもしれない。


  幸せなことは、いとも簡単に当然になってしまうのに…。


 きっと以前の私は、悲しみや苦しみから逃げて


 その時感じていた気持ちを無視して「何も感じない」と高をくくっていたのだろう。


 

  でも今なら素直に受け止めれる気がする。 自分のなかの感情を。


  私をこんなふうに変えてくれたのもチョコ、君だよ。


 大切に大切に、もっと大事に君といる時間を過ごせばよかった。



  そして私はこれからの目標ができた。それは「生きる目的を探すこと」。


  私は前々から、生きる意味を知りたがっていた。


  でも、それは一人一人違う。


 私はこの一度限りの人生でそれを見つける為に生きていこうと思う。


 もしかしたらそれは私が死ぬまでに見つけられないかもしれないけど、


  私は探すことに意味があると信じてる。


 

  チョコ。君や未だ私に無関心な家族、月本や学校のクラスメート達、


 私がいつも当前のように接してきた人やもの達は全然当たり前なんかじゃなかった。


 その「当たり前」の中に居たはずの君がいない今、私は悲しみでいっぱいなんだよ。


  きっと皆気付いてないだけで失ったら苦しむものがたくさんある。


 だから、この[当たり前のように見える]現実の中で自分自身の大切な、


 必要なものや人々を見落とさずに大切にして生きて行きたい。


  これも君を失って気付けたこと。


 

 今のこの気持ちをいつか忘れて過去を繰り返してしまいそうで怖い。



 私のまだ短い人生のなかで大きな光を放って照らしてくれた


 君を思うと、また弱さが出てきてしまいそうだよ。

 

君がいなくなり、私の心は明かりが消えかかっているけど


 いつかその光は自分の力で取り戻すから。


 


 ━ 私は、また泣いてる。


  君の事を思うと、どうしても目頭が熱くなってしまうんだ。


 そしてこの涙一粒一粒にチョコへの思いが詰まってる。


 

  この涙がやがて風になって君に届くといいな…。




  

  『チョコ、聞こえてる?  私は今、君を思ってる』




 

 

 


  

 長い間お付き合い頂いて本当にありがとうございました。

 これで終わりとなります。

 なかなか伝えたいことを文章にできない自分の無力さを悔やんでいます。

 なにはともあれ、本当にお疲れさまでした。

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