第十七話:臆病
広い店内でやっとペット用品の場所を見つけた。
どんなドックフードがいいか迷った末、
食べやすいように柔らかく加工してあるものにした。
そして、1番小さいサイズを買った。
レジでは月本が会計をしてくれたので帰り道の途中ど半額返した。
会話も殆ど無かった為、早く河川敷に着いた。
私がチョコの頭を撫でていると月本が思い付いたように、
『ごめん、崎田。ちょっと待ってて』そういって走っていってしまった。
しばらくすると、月本が帰ってきた。
『はい、これ』
そういって手渡されたものはビニール袋で、中を見ればドックフードが入っている。
私がよくわからないと言った顔をしていると月本が付け足した。
『俺も来れない時があるかもしれないから、半分ずつに分けて持っといた方がいいかなと思って』
『そっか。わかったよ』
了解すると月本が自分のビニール袋を開けて
チョコの前に少しドックフードを蒔いた。
チョコは初めての食料を見て、匂いを嗅いだりと疑っているようだったが
月本が『食べてみな』と声をかけると、もぐもぐと食べ始めた。
その様子を見て私は心の中で安堵した。
「よかった」と。
もし、食べてくれなかったら…という恐怖があった。
チョコはゆっくりと、地面にあった少量のドックフードを食べ終えた。
『よかったね。食べてくれて』
『ほんとにな…。安心したよ』
緊張がほぐれて、お互いの口数も増えた事も嬉しかった。
チョコの体調が悪くなってからまともな会話が無かったから。
気分が良いまま、家に帰りたかった私は月本にさよならを告げた。
帰宅すると昼食を摂ってなかった事を思い出して、
リビングから調理パンを取って部屋に入った。
母がいつものように夕飯ができたと私を呼んだので、返事をしてリビングに向かった。
テーブルには父もいて、普段より少し豪華な料理が並んでいた。
食事中に父が「学校はどんな感じか」と聞いてきたので
『楽しいよ』と短く答えた。
勉強の話題が出る前にと、早く食べ終えて部屋に戻る。
入浴後、ベットに入ると昨日の涙で枕がまだ湿っていた。
今日はチョコがドックフードを食べてくれた事で充分だった。
音楽を流すと自然に瞼が重くなって眠っていた。
気持ちよく目覚めた私は朝食もちゃんと食べて、バスの時間に間に合うように家を出た。
学校でも気分よく過ごせてクラスメートとも会話が弾んだ。
放課後。
あらかじめ月本に渡されたドックフードを小分けして持ってきていた私は、
チョコのもとへ向かった。
ビニール袋から昨日より多めにドックフードをこぼしてチョコを呼んだ。
チョコはまるで亀のようなスピードでこちらにやってくる。
力が無くなってきているのがありありと伝わって来た。
辛そうなチョコを見ていられず近付いて、餌を口元まで持っていく。
が、チョコは食べてくれなかった。
私が何度も『よし』と言っても、私の顔をじっと見つめているだけだった。
数日後。
私は毎日ちゃんと眠ってご飯も食べている。
学校でも普通。機嫌がいいわけでも、悪いでもないように過ごした。
放課を告げるチャイムが鳴っても、
前のように走ってチョコに会いに行く事はなくなっていた。
チョコは餌を食べないし、みるみる痩せていった。
隣でいると、苦しそうな顔をして動悸を起こしているような時もあった。
どうして急いで会いに行かないのって、見てるだけで辛いから。
ちゃんと毎日餌は持っていく、でもチョコが食べる事なんてないから全然減らない。
小分けした時のまま。
そのドックフードの袋を見ただけで泣きそうになる。
月本とは昨日会ったけど、彼もチョコが何も食べなくなっているのを知っているようだった。
私はこうして無駄な程ゆっくり歩いて、チョコとの時間を短くしようとしている。
河川敷の横を歩きながら不吉に曇った空を見た。
もうチョコが見えてきている。
ありがとうございました。
これからも、よろしくお願いします。