第十五話:告知
予想していた事態が起きた。
チョコがある程度歩くとあの時のようにその場に座りこんでしまったのだ。
私がどうしようか迷っていると、月本がチョコを後ろから抱き上げた。
チョコは嫌がって暴れようとしたが、
月本がちゃんとチョコを強く捕まえていたのでどうにか大丈夫だった。
私はチョコがいつ逃げるか分からないことが不安になり、急いで案内した。
病院は思った程遠くなく、10分ぐらいで着いた。
昼過ぎなので客数も少なく、私達は速やかに診察を受けることができた。
獣医らしき人は、もうおじいさんでベテランの雰囲気をかもし出していた。
その獣医に、症状を聞かれたので[最近食欲もなく、元気がない]と話した。
獣医は続けて
『ドックフードはどんな種類を?』と言う。
今度は月本が『ドックフードはやっていません。ご飯の残り物をやっています』と答えた。
獣医は驚いた顔をしている。『君達、この犬が何の病気かわかったよ』
『え。チョコは何の病気なんですか?』私はつい大きい声を出してしまう。
獣医は言いにくそうに、
『推測でしか…ないんだが。腎臓病ではないかと。
今からいろんな検査をするから、まだわからないがね』
二人共言葉を失っていた。そんな二人を気にせず目の前の医師は続けた。
『君達はこの犬に残り物を与えていると言っていたね。
人間の食べ物は、犬にとっては塩分などが高すぎるんだ。
それが続くと、体に異常が出てくる。 そして何も食べれなくなってしまうんだ。
今からまず血液検査をするから、この犬を押さえてくれるかな』
そう言って獣医は注射器の針をチョコの足に刺した。
瞬間、チョコが『キャン』という悲鳴をあげた。
痛がるチョコを抱きしめて針が抜かれるのを待った。
横から月本が辛そうな顔でチョコを見ていた。
獣医は血液検査には少し時間がかかるから、と椅子にでも座って待っててくれと言った。
注射器の針が抜かれた所には、消毒液の染み込んだコットンが月本によって押さえられている。
「今度は何をされるの」というように怯えた表情をしているチョコの頭を優しく撫でた。
腎臓病…。この子がそんな病にさらされているなんて信じられない。
きっとあとで先生が訂正してくれるはず。
嫌な考えばかりが頭をよぎる。
早く、早く検査の結果を言って欲しかった。
月本はも何も言わない。私もこの状況では何を話せばいいか分からないかった。
永遠のように長く感じられた時間も、獣医の声によって消える。
チョコを月本が連れ、私も診察室に入った。
獣医は、私達に酷い事を告げた。
『腎臓病に間違いはないでしょう。
ですが…フィラリアと言う別の病気にもかかっているようです』
『…じゃあ二つもチョコは病気にかかっているんですか』私の掠れた声が響く。
『そういうことです。フィラリアは蚊に刺される事でかかる病気で、
夏場に蚊にさされた場所から幼虫が体の中で繁殖して犬の体を段々と蝕んでいくのです』
残酷な事をすらすらと述べる獣医に月本が半ば怒ったような声で
『で、その二つの病気はどうやったら治るんですか』
『フィラリアはまだ幼虫ならば薬の投与が可能ですが、
この犬の中には既に成虫がいます。腎臓病は、専用の食品はありますが…』
そんな事ものともせず、医者は言葉を並べてゆく。
『じゃあ、どうしたら…』
私の言葉には意志なんて無く、すぐに空気のなかに溶けてしまいそうなものだった。
『病気の進行を遅らせることなら点滴で可能です』
『その点滴はいくらぐらいかかるんですか』
必死で聞く私。
獣医が口にした金額は、今の私ではとてもたりないようなものだった。
顔を覗かせていた希望の光は呆気なく消えた。
ここに居ても何もならないので月本がチョコを連れて診察室を出た。
私も獣医に礼を告げ、会計を済まして二人と一匹で病院から出た。
ありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。