第十三話:驚き
空は薄暗く雲って、肌寒かった。
最近勉強が難しくなったのもあり、チョコに会いにいく回数は減っていた。
ようやく定期テストが終わって、勉強も一段落ついた私は
チョコに会いに行く前夜コンビニで犬用の缶詰を買った。
それも、ごくたまに財布がリッチなときにしか買わない贅沢な缶詰を。
チョコはどんな顔をするだろうか。 考えただけで、口元が緩んでしまう。
学校でも、チョコのおかげか明るく振る舞えるようになり、
私に距離をとっていたクラスメート達も少しずつフレンドリーになりつつある。
強がっても、一人でいることは辛かった。
テストが終わった直後なので皆少しだらけているように見える。
そんななかで私は放課後を待ち侘びていた。
掃除も、ホームルームも終わって皆が教室から出て行く。
人込みで溢れている廊下の中を私は、はや歩きでくぐり抜けた。
そのスピードはチョコを見つけるまで変わることはなく、
久しぶりに見たチョコは少しやつれているように見えた。そして横には月本がいた。
特に骨が浮き出ているとか、ガリガリに痩せているようではない。
最近餌をやってもらってないのかな、と心配したが、
今日はチョコのお気に入りのあの缶詰がある。
きっと元気になってくれるはず。 そう思ってチョコの傍に駆け寄る。
月本はなぜか私服だった。
『あぁ。崎田さんか。久しぶりだね』
こちらを見て普通な顔で言ってくる。
『どうも。てか月本君、なんで私服なの?』
久々だった為少し緊張してしまう。
『んー。今日熱があって学校休んだんだ』
『そうだったの』それなら私服にも納得がいく。
それ以上は何も言わずに、ごそごそと鞄から缶詰を出す。
『チョコ。チョコの大好きな缶詰だよ。食べな』と蓋を開けて差し出す。
「無理だよ…」
小さな囁きが聞こえた。
チョコを見ると、いつもなら喜んでがつがつ食べるのに、ほんの少しずつ食べているだけだった。
『チョコ?どうしたの?おいしくない?』
私が話しかけるように、チョコに言う。
するとチョコは、あろうことか缶詰を目の前に食べるのをやめてしまった。
『月本君。もしかして、さっき何かチョコにあげた?』
月本は黙っている。目を合わせようとしない。
もう一度『月本君?』と言うと、黙ったまま首を横に振った。
『なんで、チョコ食べないの?大好物の缶詰なのに…』
もはや、月本に言っているのか独り言なのかわからないように私は呟く。
月本が口を開く。
『崎田さんは知らないと思うけどチョコ、最近ほとんど何も食べないんだ』
『どういうこと?』意外な程に冷静な自分の声に驚いた。
『わからない…。でも、食欲だけじゃなく体の調子も良くないみたいだ』
思考が止まった。
私の目線の先には殆ど口が付けられていない缶詰がある。
『は…。病気ってこと?』
『だから、俺にもわからないって言ってるだろ!』
怒鳴るように月本に言われて、私はハッとする。
まずは、チョコを病院に連れていかなければ…。
でも近くにある動物病院なんて知らない。
もう家に帰って調べるしかなかった。
私は缶詰を置いたまま、何も言わずに鞄を持って走った。
ありがとうございました。
どうか見捨てないでやってください。