~四~
電車を乗り継いで降りた先はかなりの田舎だった。
霊能者に会うという名目はあれど、山田はずっと不機嫌な様子で草葉や岡部もあまり口数は少なかった。
まったく仲の良さそうに見えない3人と俺と五十鈴、この組み合わせは夕陽に染まる田んぼの中にあって青春とは程遠さを感じる。
水面を朱く照らす陽の光は俺たち5人をこれから向かう異世界に誘うようだった。
「この先だ」
山田がスマホの地図を見てそう言った。
脇を小学生らが走り抜ける。
自分にもああいう時代があったかと思い出そうとしてもないことがわかる。
「石妙君ってさ、いつから彼女と知り合いなの」
彼女とは五十鈴のことだろう。
「小学生のときからだよ」
「ふうん、付き合ってるの?」
「いや……」
「そ」
ここにいる五十鈴と俺は少なくとも人並みの子供時代を過ごさなかった。
それは草葉にも分かるのか、それ以上は聞いてこない。
自分たちの身近にはいつもこの世のものではない何かがいてそれは周囲の人や自分を傷つけた。
俺と五十鈴はそんな力を前に折り合いを付けながらなんとか必死に生き延びてきただけである。
だからこそ、五十鈴は俺に自分を語らない。
俺も五十鈴に自分を語ったことはなかった。
お互いに他人という部分を残したかったのだと思う。
そうしなければ俺たちは自分たちの中にある感情に掻き毟られるように苦しむだけだからだ。
その感情をかたちにすることはない。
互いに惹かれあっていようと互いに憎しみあっていようと、そこに感情の一切を持たないことでしか関係を保てない。
もしどちらかが一歩踏み出せばもう2度と引き返せない。
その確信がお互いにあるからこそ、俺たちは語り合わない、共感もいらない。
そうすることでしか、自分たちは世界に人としていられない気がするのだ。
「私があんたのパートナーでもいいのよね?」
「は?」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。
五十鈴の顔は伺えない。
「冗談よ、ただあんたは普通じゃないみたいだからそういう道もあるのかなと思っただけ」
草葉は可愛い方だと思う。
同年代の女子に比べれば下手な美少女よりも魅力がある。
奥に秘めた剣呑さや冷めたような美しさは同年代のどの女子も持たないものだろう。
それだけに俺なんかに浮いた冗談を言ったことが信じられないという気持ちもした。
「山田がとろくさいからちょっと焼きが回ってるのかもね」
「んだと」
逃げるように草葉が俺から離れた刹那、なんだかつんとした甘い香りがした。
五十鈴がいつの間にか隣を歩いていて俺はその横顔を覗き見た。
表情はいつもと変化がないが、なぜかいつまでも五十鈴が隣にいることを普通のことだと思う自分に驚く。
もしも俺が五十鈴に告白するようなことがあれば五十鈴は笑うのだろうか、悲しむのだろうか。
ただ淡泊に「そうか」と言うかも知れない。
それはなんだか寂しい気もするし、それで断られたら俺は一生誰にも告白しなくなるだろう。