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祓い人~五十鈴編~  作者: 左武小路
12/12

~八~

 きっかけは小学1年生の頃でその時両親の仲が悪かった岡部は虐待も受けていたという。


 命が危ないと思った岡部は両親から逃れようとしたが、うまくいかず偶然夜の公園で知り合ったのが山田。


 山田と岡部が知り合ったのはその時で、山田は岡部に呪いの観音像を家に置けば両親が仲違いすると聞かされその観音像を置くと見事に両親は岡部の前から消えたという。


「消えたというか、両方とも死んじゃったんですけどね」


 両親が事故死し、遺産金がたんまりと手に入った岡部はそれから医者の親戚の養子となり現在に至るという。


 岡部はそれから山田に心酔し、自分の命があるのは山田のおかげであると本気で思っているらしかった。


「まあ、そんなわけで師匠は本物なんですよ」


 そう思ってるのは本人だけと思った矢先、南京錠がぱちっと開くのを聞いた。


「開いたぞ」


 山田が先陣を切って中に入るとその中には台座が1つだけあった異様な空間だった。

 台座は中央にあるわけでなく、長屋の手前にあり奥は謎の空間になっている。

 窓もなければ電気もなく、ただその箱の置いた台座だけがあった歪な部屋だった。


「んだよこれ。封印か?」


 山田が箱をいじくりまわす。

 俺はその光景を尻目にコンクリートの壁を見ていた。

 すると随所になぞの紋様が描かれているのが分かった。

 矢印のような、線の集合体で特に幾何学的でもなければ規則性も感じない。

 まったく見たことのない封印の仕方だった。西洋のものかもしれない。

 

「ちょっと、電池が切れたんだけど」


 入り口を張っていた岡部の隣に草葉の顔があった。

 結局乗り越えてきたのかと思った矢先。

 突然、リン――と鈴の音が聞こえた。


 キーンと耳鳴りがして生臭い匂いが漂ってきた。

 ヤバいと反射的に感じたとき咄嗟に草葉が叫んだ。


六根清浄ろっこんしょうじょう急急如律令!」


 不意に音が戻った。

 それから入り口にいた岡部と草葉が外に吹き飛ばされて扉が閉まった。


「はは! そういうことかよ!」


 山田は箱のからくりを見たのか何やら弄っている。

 それから扉が開くと山田は俺を抜いて外へと繰り出した。


 追いかけると岡部の目の前に何かがいた。


「こいつは……」


 そこにあったのは巨大な蛇の尾だった。

 1.5メートルはあろうかというほどの蛇の体が20mのフェンスの回りをぐるりと取り囲んでいる。

 そいつがうねりながら動くとチリリリと鈴のような音がしていた。


「山田ァ! 逃げるぞ!」


 俺は叫んだ。

 直感が逃げろと言っている。

 こいつは人の手に負えるもんじゃないと。


「ああああああ!」


 山田の鞄の中で何かが弾けるような音がぱんぱんと断続的に聞こえていた。

 岡部がよじ登ったフェンスへ走り出した。

 俺は咄嗟に五十鈴を探していた。


 フェンスの外なのか中なのか。


「草葉、五十鈴は!?」


 手を引いて身を起こした草葉は指を差した。

 気づけばあれだけ五月蠅かった蛇がいなくなっている。


 フェンスの内側にいた五十鈴が後ろを向いていた。

 山田や岡部たちが向かう方向とは真逆のフェンスに五十鈴は立っていた。


 色のおかしな巫女装束で背中を向けて立っている。


「五十鈴、こっちに下りて――」


 その時、得も言われぬ圧力で近づけなかった。

 五十鈴とは何かが違う。そう思った。


「――え?」


 やっぱり何かが違う。

 そう思ったとき、ふとライトの光が後ろから差して手を引かれた。


「それじゃない」


 五十鈴の声だった。

 草葉もいた。

 

 振り返ると五十鈴のようなものはいなくなっていた。

 それから俺たちは静かになったフェンスを乗り越えて帰ろうとした。


 俺が見たのを最後に怪奇現象は収まっていた。


「あんた私が五十鈴のいる方を指差したのに真逆に走っていくんだもの。心配したわよ」


 周りからはそう見えていたらしい。

 岡部は真っ青になっていて、山田は興奮した様子だった。


「あれは姦姦蛇螺かんかんだらだ! 間違いない!」


 帰り道の途中で山田が突然叫んだ。


「ナーガが喰った巫女の話だったかしら」

「お前ら知らねえようだからいっとくが、神話の時代で蛇っつたら人間じゃない人間のことだ。

 だから姦姦蛇螺の正体は人間と亜人のハイブリッドってことだよ」


 山田はいつにも増して意味不明なことをのさばった。


「アダムとイヴにリンゴを食べろと勧めた蛇がいたろ。あれが、こいつだ」


「へえ、じゃあ僕たちは神話の生物に遭遇したってことですか」


 岡部は震えながら山田に尋ねる。


「本人かどうかは知らねえが間違いなく始祖の系統だろ。

 封印が独特だったからピンと来たが、日本の中でもすげえもん飼ってやがるぜ」


 そういうと不意に山田が吐いた。

 

「あんた、見たんじゃないの。姦姦蛇螺の顔」


「マジで日本版メデューサってところだな。全身がはち切れそうなくらい痛くなってきた」

「石化の魔眼って筋繊維の硬直って意味だもんね。馬鹿としか言いようがないわね」


「俺が担ぎますから」

 

 岡部が山田を背負っていると五十鈴まで倒れだした。

 急にもたれかかるようにしてきたので事なきを得たが、五十鈴がここまでになるなんてよほどのことをしたに違いない。


 後日、それから結局山田は岡部の親戚が経営する病院送りになった。

 なぜあの現象が不意に収まったのかと思ったが、五十鈴のせいだと分かった。

 五十鈴がまだ眠っている間、草葉が帰りにぽつりと漏らした。


「私も初めて見たわよ。古今逆転の法。過去と現在を入れ替えて事象を棚上げするなんて滅茶苦茶な力を使ってまであなたを守ろうとした……。この子はあなたのために1回死んだのよ……私には真似できないわ」


 五十鈴がいなかった数分間。

 確かに彼女はあの蛇になっていた。


 助けようとした者に裏切られ、立ち向かったものに呑み込まれた憐れな少女。

 そんな人生を経ても尚、また何かを助けようとする。

 俺が彼女にしてやれることは何だろうか。

 

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