~六~
山田は激怒していた。
霊能者がまったく無能であることにだろう。
ずかずかと森の茂みに進んで行く。
「どこ行くんすか師匠!」
岡部が慌てて追いかけるのを俺たちは見送っていた。
「呼ばれておるな」
如月さんがぽつりとそう言うと何やらどんよりとした空気が流れた気がした。
「呼び戻しますか?」
「いや、行かせておけばいい。腹が減ったら戻ってくるじゃろ」
どこか突き放した物言いで俺は少し戸惑った。
ここは森の中で道を外れれば何がどうなっているのかさっぱりわからない。
山田があまり遠くに行って戻ってこられないなんてこともあるのかもしれないと心配した。
「放っておきましょうよ。もうくたくたなんだから」
草葉が自信のペースで軒下に腰掛けた。
スカートの上に手をおいてぱたぱたと片手で顔を仰ぐ姿は少しほっとするものがあった。
「五十鈴は?」
「なにが?」
「大丈夫か? 暑いだろ」
俺の言葉が聞こえないように五十鈴は草葉の横に腰掛ける。
それから男のようにずてんと天を仰ぐように横になって対比が面白い。
老婆が俺の方にやってきた。
「飯の用意をするから手伝っておくれ」
「え、俺がですか?」
「あの嬢ちゃんたちといるとこっちまで取り憑かれそうなんでな」
確かにと思った。
午後1時。
飯の炊き方から味噌汁の作り方まで教わった俺らは少し遅すぎるブランチ(朝食兼昼食)を頂くことになった。
草葉は途中から様子を見に来てあれこれと指示する度に如月老婆に邪険にされていた。
五十鈴はどこにいったか知らない。
飯時には戻ってきていて、食べた後は特にすることもなく如月老婆に村のことを聞いたりしていた。
「鎮魂といえば鎮魂じゃよ」
如月老婆はとある人物の頼みでここにいるという。
分家の末裔で霊能者として活動しているのは寺の依頼であって、本来は寺の住職に頼まれない限りはお祓いをしたり何かすることはないという。
「人には縁がある。その縁を動かすのは人の行動。
間違った心を持って動けば、当然間違った縁にたどり着く。
儂なんぞの元にやってきたお前さんたちはあまり良い縁を持ったとは言えんの」
なんだか途中から説教臭くなり草葉は話題を変えた。
「ここに山田先輩が言うような心霊スポット、もっといえば何か縁起の悪いものがあるんですか?」
「ない」
その言葉はどこか凄味があった。
重く放たれたその言葉に俺は息を呑み、草葉もはっきりとその違和感を感じ取ったようだった。
「明日になったら大人しく帰りなさい」
それから少し優しい口調で如月老婆はそう言った。
俺はその通りにしようと思った。
山田が何もしなければ――。
昼も下がり始めた頃、山田が疲れ果てた顔をした岡部と一緒に帰ってきた。
「ばあさん、飯」
まるでこの家の孫みたいな口調で山田が言った。
もはや礼儀知らずを通り越している。
「儂はあんたの方が怖い」
如月老婆は何の抵抗することもなく残った飯を差し出した。
それを怒りに任せるようにして掻き込む山田。
岡部は首を振りながら老婆に詫びを入れていた。
懐から取り出した岡部の諭吉は軽く10を超えている。
岡部はそれを迷惑料だといって老婆に差し出した。
老婆は遠慮することなく受け取った。
俺はなんだか居たたまれなくなって岡部に近づいた。
本来なら俺たちも払わなきゃいけない気がしたからだ。
あれほど岡部が払っては俺たちがはした金を払ってしまう感じで何だか変だ。
「岡部さん、なんかすみません」
「ああ、いいんすよ。自分これくらいしか役に立てないんで」
さすがに気になった俺は食事中の岡部に聞いてみた。
「あの、こんなこと聞くのもどうかと思うんですけどどうして山田さん、師匠に付いて行くんですか?」
岡部は驚くほどしんと動きが止まった。
まるで聞いてはいけないことを聞いたかと思った気がした。
それから岡部はニコッと笑って「そっすねえ」と言ってはぐらかす。
そのうち、と煙に巻かれた俺はもやっとした気持ちのまま日暮れを迎えた。
結局老婆に明日まで居間で自由に過ごせと言われた。
客用の布団もないからと女だけは老婆と同じ部屋で寝ることを許可されたが五十鈴が断ると草葉も断った。
それからは山田が少しうきうきとして寝るのを見て俺は嫌な予感がしたように黙っていた。
この男が嗤っているのを見ると何かろくでもないことが起きるような気がした。
「もう寝るんすか師匠」
「お前らも寝とけよ。1時に起こすから」
俺たちは観念したように眠った。
抵抗しようという気も少しはあったが、五十鈴が珍しく大人しく従うので俺も従った。
そうして1時になった。