表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
図書室の文通相手は…  作者: しゅり
3/10

第1章 後編 「図書室の手紙」

木曜日の放課後、私はいつもの図書室に向かう。


胸の奥が少しだけ落ち着かない。


火曜日に見つけた白い封筒――あの小さな手紙のことが、どうしても頭から離れなかった。


返事を書くかどうか、今日この図書室で決めようと思っていた。


――でも、もう答えは出ていた。


扉を開けると、いつも通り静かな空気が迎えてくれる。


午後の光が柔らかく窓から差し込み、古い木製の机や本棚を金色に染めている。


空気にはほんのりと埃の匂い。


机に置かれた古い時計の針が、静かに時を刻む。


静けさの中で、手紙のことを考えると、心臓の奥が少しだけ高鳴る。


私は本棚の間をゆっくりと歩き、背表紙に挟まれた白い封筒に手をかける。


前回、火曜日に読んだ手紙の文章が、今も頭の中に残っていた。


『はじめまして。

この本を読もうとしているあなたへ――

もしよければ、私と文通しませんか?

書く内容は読んだ本の感想や日常で楽しかったこと、嬉しかったこと、悩み…何でも構いません。

同封した返信用紙に書いて、また本に挟んで返してください。』


言葉は簡潔だった。


それでも、胸の奥に小さな勇気が生まれる。


読んだ本の感想や、日常の小さな出来事。

それを言葉にして返すことは、ただの作業じゃなかった。


手紙を前にすると、胸の奥のわずかな緊張と期待が同時に揺れるのを感じる。


私は机に座り、便箋を取り出す。


返信用紙を軽く広げ、ペンを手に取る。


何を書こう――頭の中で言葉を選びながら、ゆっくりとペンを走らせる。


『はじめまして。

火曜日にこの手紙を見つけました。


お返事するか悩んで、少し遅くなりましたが、

私でよければ――


これからよろしくお願いします。』


文字を書き進めるたび、自然と胸の奥の緊張がほどけていく。


昨日のこと、今日の図書室での出来事、小さな日常の感覚――思い浮かぶ言葉をひとつずつ丁寧に紙に置いていく。


書きながら、少しずつ自分を渡しているような気がした。

その先に、誰かがいる。


私は書き終えた便箋を封筒に戻し、静かに本を背表紙に挟み、元の場所に戻す。


手紙は白い封筒の中で、私の書いた言葉とともに、誰かの手元へ届くのを待っている。


図書室の静けさの中、背表紙の色や手触り、隙間に差し込まれた小さな封筒――それらすべてが、日常の時間を少しだけ特別にしている。


この図書室は、ただの静かな場所じゃなくなっていた。


誰かとの距離を、少しだけ縮める場所に。


午後の光がゆっくりと変わり、窓際の机に影が長く伸びる。


私はそっと息をつき、深く心を落ち着ける。


図書室はいつもと変わらない静寂に包まれているが、この小さな白い封筒と私の便箋によって、ほんのわずかに特別な場所に思えた。


帰り道を歩きながら、私は自然に笑みを浮かべた。


火曜日に見つけたあの白い封筒から始まった小さな出来事は、今日、確かに動き出した。


次の火曜日、私はまた図書室に戻る。


――今度は、返事を確かめるために。


その日が、少しだけ楽しみになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ