プロローグ
放課後の図書室は、静かだった。
窓から差し込む光が、本棚の隙間にやわらかく落ちている。
誰かがいた気配も、今はもう残っていない。
整然と並ぶ背表紙。
古い木の匂い。
ページをめくる音さえ消えた、静かな空間。
その中で、一冊の本がそっと元の場所へ戻される。
背表紙が揃えられ、
何もなかったかのように、本棚の一部に溶け込んでいく。
――けれど。
その奥には、小さな白い封筒が差し込まれていた。
少しだけ丁寧に。
見つけてもらえることを願うように。
ふと、その本のタイトルに目が留まる。
――《まだ知らない君へ》
どこか不思議で、
少しだけ意味ありげな名前。
まるで、この場所に置かれることを
最初から知っていたみたいに。
封筒の中には、数枚の便箋。
丸くてやさしい文字で、こう書かれている。
『はじめまして。
この本を読もうとしているあなたへ――
もしよければ、私と文通しませんか?
書く内容は読んだ本の感想や日常で楽しかったこと、嬉しかったこと、悩み…何でも構いません。
同封した返信用紙に書いて、また本に挟んで返してください。』
誰が書いたのかは、分からない。
どうしてここに置かれたのかも、分からない。
ただひとつ確かなのは――
この手紙は、誰かに届くことを願って書かれたということ。
静かな図書室の中で、
その小さな秘密は、ひっそりと息を潜めている。
まだ、それに気づく人はいない。
けれどきっと、もうすぐ。
火曜日の放課後。
この図書室で――
誰かが、その手紙を見つける。




