もう一度
奴らがここに来てからどれくらい経っただろうか……。
ぼくの中にある緊張感が途切れることがなかった。
なんで、奴らは来た?
そもそも、なんでぼくらの住む世界を知ってた?
知ったとして、何故敵うとも知れない奴の前に現れたんだ―――――――?
分からない……。
「バカ……、逃げろよ……」
ぼそりとそう呟いた。奴らに聞こえるはずもない小さな声で。
でも、奴らは逃げなかった。一向に逃げる気配を見せなかった。
早く、逃げないと手遅れになる。父親に勝てる奴なんか、この世にはいないんだ。
ましてや、片方は人間だろ? 自己再生能力や、治癒力が皆無な劣等種がこんな所に紛れ込んで
闘ったりなんかしたら、確実に……死んじまうのに。
どうして、逃げないんだよ。
多分、もう一人は千珠だ。
ココに来るまでの道案内や、ココの世界でも息できるようになる道具を渡したのも。
千珠ぐらいの奴なら、分かるはずなのに……。
どうして、負け戦なんかしてるの?
どうして、止めなかったの?
止めてあげてれば、あの王子は……死なずに済んだのに……。
「どうして、逃げないんだよ!! 早く逃げてくれよ!!! お願いだから……逃げて……」
ぽたぽたと何かが零れおちた。その時、後ろから凄い勢いの音がした。
「悪いねー。まだ、帰るわけにはいかないの♪」
そう言って笑って手を振りながら千珠は言った。でもその隣に王子の姿はなかった。
「千珠……王子は?」
「ああ。あの人なら、闘ってるよ。君のお父上とね」
「!!!」
ぼくは咄嗟に玉座の間へと行こうとしたが、千珠に止められた。
「なっ……」
「幾ら、勝ち目のない勝負だからって、男同士の喧嘩に横槍入れるのはどうかと思うよ」
そう言った千珠の目は本気で怖かった。
「……。分かったよ。待つ」
「よろしい」
千珠の顔に笑顔が戻った。
とはいえ、状況が全て一変した訳ではない。ぼくの緊張感はさっきの話で三割増しになっていた。
もうヤダ……逃げ出したい!! それくらい胸が苦しくなった。
その様子を千珠はただ、黙って見つめていた。
良く耳を澄ますと、何かがぶつかり合う音がしていた。
多分、あの二人が闘う音だろう。
あそこに行って全てを終わらせたい。
でも、行ったところで何になるの……? 帰れって行ったところで此処まで来てしまうほどのバカが
帰るとも思えない……。
―――――じゃぁ、ここで待つしか出来ないんじゃない?
そう思って、手を握り締めた。
時間感覚も狂いだしていつのことだか、分からなくなった頃。
「――――――――!」
「へぇ」
城中にあった重い何か、がプツンと音を立てるようにして消えた。
「嘘でしょ?」
有り得ないことが起きたのだ。
「まぁ、でもやったのは事実、でしょ?」
奴はやってしまったのだ。
「それでも、信じられないよ」
何の能力ももたない劣等種の人間がやったことはほかでもない。
「……そうだよね。だって」
その世界で『最強』と呼ばれる生物に能力も使わずに
「勝っちゃったんだもんね」
勝ってしまったのだから―――――――。
コツ、コツっとゆっくり階段を上がる音がする。
こう言う時どう言えばいいのか、どういう顔をすればいいのか全く分からない。
―――お疲れ様。
―――良く頑張ったね。
―――何してんだか。
色々、言う言葉が浮かんでくるけどシャボン玉のように一瞬で消えていった。
ギギィ。とついにドアが開いた。
そこにいたのは間違いなく王子だった。全身傷だらけ。頭から血も流してるし。所々服も破けてる。
本当に、何をやってるんだか。
そんな王子はぼくを見た瞬間にゆっくりと近づいてきて、目の前に来た時突然抱きついてきた。
「!?」
「……かった」
「え……」
「よかった。。。……何してんだよ、馬鹿!! 勝手に一人で決めやがって!!!
誰が帰っていいなんて言ったよ! ホント、お前馬鹿だな!!
馬鹿の極みだよ!!! 本当に、お前は……」
そう言いながら、グスグスと音を立てながら泣いているのが聞こえた。
本当に、心配してくれてたんだ……。
そう思って、何か言おうと声を出そうとした瞬間一気に体が重くなった。
一瞬にして体重が増えたとか、そんな笑い話じゃなく、ただ目の前には……
ぐったりとぼくにもたれ掛かっている王子の姿が……
「おう……!!」
「落ち着け。ちょい、仰向けで寝かせてみ」
言われた通りにぼくは王子を仰向けで寝かせた。ちょっと診て千珠が言った。
「早くしないと、まずいわね……」
「ど、どういう意味?」
聞きたくなかったけど、その予想が外れていることを祈りながら聞いた。
でも、聞こえてきたのは何よりも嫌な音だった。
「生死を彷徨ってんぞ。こいつ。しかも、限りなく死に近づいてきてる」
そこから先は何も聞こえてこなかった。
未来が消える音がした感覚に陥った……




