囲まれる生活
翌日。朝起きると、王子はどこかへ出かける準備をしていた。
どこへ行くのかと質問してみた。すると、
「リロスは武術に興味はないか?」
と聞いてきた。全くないと言えば嘘になると答えておいた。
「では、稽古場に行かないか?」
「稽古場? 武術のですか?」
「そうだ! 興味ないわけじゃないんだろ?」
「そうですけど~」
「なら、行くぞ! さっさと支度しろ!」
半ば強制的に部屋から出され、朝食を食べ終わるのとほぼ同時に城を出て行った。
数分歩くと、すぐに半分壊れかけの武道会場みたいなところに着いた。
「ここ……ですか?」
「ここだな」
そう言って、ぼくの腕を引っ張って引きずりこむように連れて行かれた。
部屋は外見からは予想できないほどに綺麗だった。
中には既に王子と同い年くらいの男の子が沢山いて、軽く準備運動してみたりとか結構色々してた。
その中の一人が王子とぼくの存在に気がついた。
「おっはよぉ~! マンク♪ あとリロスだよね?」
「オッス! ちょっと連れて来たんだ!」
「……ど、どうも」
なんと反応をしたらいいのか分からなくなってしまい、そっけない反応をしてしまった。
そんなことを気にもしていないらしく、王子に話すようなテンションで
「リロスって、武道に興味あったんだね」
と言って笑ってた。どうやら昨日の人ごみの中にいた一人のようだ。
「え、ええ。まぁ……」
曖昧な返答で苦笑いしてたら、他の子供も次々話しかけてきて
「リロスって、強いの?」
「リロスは武術を学んでたの?」
などなど、ここでもまた質問攻めにあったが、
手合わせすればわかるだろと、一言で全ての質問を片付けた。
この国の人たちって最初から相手のこと呼び捨ての上に
あたかも古い友人のような感じで話してくるんだな。
と話しながら思った。
数分後、武術の先生らしき人が来て今日はペアで実践練習をするとだけ伝え
部屋を出ていってしまった。
どうしたんだ? と聞くと皆当たり前のことのようにこう答えた。
「先生はやることだけを伝える人なんだ」
そう言うと周りのやつらは次々にペアを作り闘いだした。
それって、意味あるのか? と疑問には思ったが何となく口には出さなかった。
まぁ、ぼくは見物客だし端っ子に座って見ようと思い荷物の前らへんに体育座りした。
そしたら
「リロス、なにやってんの?」
と、王子に声をかけられた。
「え……? 何って、見物」
「お前、今日は体験入門なんだぞ? 呑気に座ってる場合などじゃない!」
そう言って半ば強制的に王子とペアを組まされ、手合わせする羽目に。
「リロス、気をつけろよ!」
と、手合わせする前に近くにいた男の子に話しかけられた。
「どういう意味ですか?」
「マンク、強いうえに手加減ってものを知らないから」
そう言うと目の前にいる相手に向かって言った。
「今の話は本当だ。どうする? 逃げるか?」
「人間のレベルを知るにはいい機会です。逃げたりしませんわ!」
「良かったよ! お前が弱虫じゃなくってよ」
そう言って一気に対戦ははじまった。
けど、終わるのも一瞬だった。
「ぐぅ~」
「人間は、やはり強いと言ってもこのレベルですか」
そう、呆れたような声を出してぼくは言った。
「スゲー! マンクを倒したのってウィリスと国王の2人だけだったのに!」
「どんな技つかえば、一瞬で……」
「おれにも教えて!!」
「あ、テメェ! 抜け駆けすんなよ!」
等々ワイワイと、みんなぼくの周りに集まって騒いでた。
「いや……。いいけど、ひとりずつで、お願いします」
初めて、こんな「憧れ」みたいな視線を感じた。
ぼくは武術に関しては「落ちこぼれ」だし、勉強は「優秀」ではあったけど、
みんなから感じる視線は必ず「不信」だった。
正直、ちょっと嬉しかったのもある。
城に帰る途中、王子が言った。
「あ、俺これからちょっと街の奴と逢いに行ってくるな!」
「じゃぁ、先に帰ってますね」
そう言って、二手に分かれた。
王子は、本当にみんなから愛されているんだね。
羨ましいよ。
王子とぼくとの間に権力を除いても、天と地ほどの差があるようにしか感じられなかった。
母が、死に父には捨てられ、子供にはずっと虐められてきたぼくには
今の世界はまるで夢みたいな世界だった。
ぼくの本性を知っても関係ないって。言ってくれるみんな。
こんな生活、永久的に続けばいいのに。
この時、ぼくは忘れていたんだ。
こう言う絶頂の幸福のあとには、地獄しか待っていないということを―――――。




