第6話「魔族の種と、畑の決戦! 野菜で王国を救えるか?」
のんびりと畑仕事をしていたユウトに緊急の呼び出しがかかる。王宮の北にそびえる塔――古くから“封印区画”として立ち入りが禁じられていた場所で、異常が発見されたのだ。
「塔の地下で、魔力反応……それも、王女様を蝕んだ呪いと同質のものだと……?」
現場に到着したユウトの《収穫適期》は、地下に根を張る“何か”の存在を確かに感じ取っていた。
それは植物のような、魔物のような、命を食らう“魔の種”。
「……放っておくと、あれがまた誰かを呪う」
呟くユウトの横には、レオナが剣を携えて立っていた。
「妹を狙う奴がいるなら、姉として……騎士として、斬り伏せるまでだ」
そして、ユウトは鍬を担ぎ、軽く笑った。
「じゃ、行きますか。野菜の力、見せてやりましょう」
* * *
北塔の地下は、魔力の瘴気が立ちこめる異質な空間だった。
地面は濡れたように黒く、天井からはまるで血管のような根が垂れ下がっている。
中央に鎮座するのは、巨大な――“魔の種母体”。
膨れ上がった果実のような球体が脈動し、まるで心臓のように音を立てていた。
「これが……呪いの源……!」
「命を吸い、魔力を生む“呪果”だ。王女の命は、これの“肥料”にされかけていたのだ」
現れたのは、元宮廷魔導師長、オルグだった。
「王家の“命の魔力”は強力だ、それを無能な小娘が持ってるせいで、腐らせるには惜しい。だから私が使えるように“育て”たのだ。魔族と手を組んでな!」
「ふざけんな……育てるってのは、そういうことじゃねえ!」
ユウトは鍬を握り直す。
彼の背中には、育て上げた“野菜の結晶”――三つの秘蔵作物が背負われていた。
太陽の祝福を受けた【聖陽トマト】 毒気を吸い浄化する【清風バジル】 魔力に反応して変異した【反魔ゴボウ】
「俺の育てた野菜は、誰かを傷つけるためのもんじゃない……誰かを“生かす”ためのもんだ!」
「ならば、その理想もろとも、喰われて果てるがいい!」
* * *
戦闘が始まる。
地下に生え広がる蔓がうねり、瘴気が王女を狙う。
「レオナ様、後ろに!」
「大丈夫! 見えている!」
レオナの剣が魔蔓を断ち切り、粉砕していく。
だが、呪果の本体はびくともしない。
「くっ!魔力が肥大しすぎて……切り崩せない……!」
そのとき、ユウトのスキルが閃く。
「《収穫適期》――見えた。コイツの“弱点”、ここが……収穫のポイントだ!」
ユウトは三つの野菜を並べ、背中から“収穫の印”を出した。
「さあ行くぞ、野菜たち……これが、農家の力だ!」
――スキル発動!
《最終収穫:ラスト・ハーベスト》!!
トマトの光が魔蔓の進行を抑え、バジルが瘴気を中和し、ゴボウの根が敵の動きを封じる。
ユウトの鍬が、魔の果実へと突き刺さる。
闇を引き裂くような音と共に、種母体が崩壊した。
「ば、ばかな……貴様のような……農民がああああああ……!」
オルグの絶叫と共に、呪いの源は消え去った。
* * *
静寂が訪れる。
地下の空気が澄み、植物たちが生えてきて、まるで安堵するように葉を揺らした。
「……やった……!」
レオナは剣を納める。
「農民、よくやった」
「はは……農業の力、なめんなよ……!」
力尽きて座り込んだユウトの隣で、聖陽トマトの苗が、ぽんっと芽吹いた。
* * *
数日後。王都にて。
王女の快癒、魔の種の完全排除が報じられ、英雄・ユウトの名は国中に広まった。
だが――
「おい農民、浮かれてんじゃないぞ。今日も畝立てだ」
「ユウトさん、午後は新しいサラダ菜の実験畑ですよ?」
「え、あの、英雄の扱いってこんなブラックなんですか……?」
王女姉妹の間で翻弄されながら、ユウトは苦笑する。
けれどその表情は、どこまでも晴れやかだった。
土の匂い。命の芽吹き。そして、隣にある笑顔。
それが何より、彼にとっての“報酬”だった。
~完~