第5話「姉妹戦線、異常あり!? 王女たちの恋と嫉妬と野菜サンド」
王都に朝日が差し込むころ、王宮の一角にあるユウトの仮設農園では、今日もトマトとレタスが仲良く育っていた。
「よし、今日のサラダはレタス多めで……昨日は王女様たち、ちょっと張り合ってたしな……」
そんなことをぼやきつつ、ユウトは畑で野菜を摘んでいた。
だが――
「ユウトさん、今日もお手伝いさせてくださいね」
パタパタと音を立てて現れたのは、セリシア王女。白いドレスに麦わら帽子、何か、ずれてるが、今日は“農業モード”の服装らしい。
「えっ、い、いいんですか? 王女が土まみれになっちゃうかも――」
「構いません。だって、あなたと一緒にいると、私……元気になるんです」
その笑顔は朝日よりまぶしかった。
が――
「……なるほど、妹よ。朝から攻めるとは、やるな」
低く落ち着いた声が背後から届いた。
「レ、レオナ様!? いつから!?」
「夜明け前からな。ちなみに、今日の任務は“農園警備”だ」
「誰がそんな任務出したんですか!」
「私が出した」
「自作自演!!」
そして二人の王女が、同時に声を上げる。
「ユウトさん、朝食をご一緒にどうですか?」
「農民、朝飯に付き合え」
「「えっ……?」」
二人は思わず互いを見つめる。
沈黙。
空気がピリッと張り詰める。
――そして次の瞬間。
「ユウトさんには、私の作った野菜スープを!」
「いや、私の特製“野菜サンド”を食わせる!」
「譲れません!」
「譲る気などない!」
「「えぇぇぇぇっ!?」」
野菜スープvs野菜サンドの仁義なき王女ランチ対決、勃発!
* * *
その後、王宮の食堂にて。
「で、なぜ俺は両手にスプーンとフォーク持たされてるの……?」
目の前には、姉レオナ作のシャキシャキ野菜サンド。そして妹セリシア作のぽかぽか野菜スープ。
どちらも、野菜のうま味を生かした丁寧な味付け。ユウトは額に汗を浮かべながらスプーンとフォークを動かす。
「ど、どっちも……お、美味しい……です!」
「ふふ、当然だ。私のは栄養のバランスを考えた軍用配給式だ」
「私のは胃に優しい配合で、女性にも人気なんですよ?」
「……で、農民。どっちが“好き”だ?」
「それは料理の話ですよね!?」
「“料理の話”ですよ……」
「(怖い……王女様たち、圧が怖い……!)」
* * *
その後も王女姉妹のバトルは続いた。
・レオナ、鍬の使い方でユウトに直接指導(実はさりげなく手を握る)
・セリシア、自作の農作業用エプロンをプレゼント(ほんのりラブ刺繍入り)
・レオナ、特製プロテイン野菜ジュースで「お前の体を強化する」
王宮の使用人たちは噂した。
「……最近、王女様方が妙に畑に出入りしているようですが……」
「何故でしょうね?」
「まさか、恋……?」
「まさか……」
「!!!」
* * *
その夜。
畑の隅で、ユウトは一人、トマトに水をやっていた。
「……まさか、のんびり農家をしようと思ってた俺が、王女様たちに好意持たれるとは……しかも、姉妹両方って……ヤバくね?」
だが、その顔はどこか嬉しそうでもあった。
(農業で人を救える。王女様の笑顔を見られる。……こんな幸せ、あっていいのか?)
ふと視界の端に、小さな花が咲いていた。
昨日までは蕾だった“聖光ハーブ”。
《収穫適期》を使うと、ふわりと命の気配が漂った。
それはまるで、二人の王女と過ごす日々が“育っている”ことを示すように――