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6 聖殿へ遣られる王女


「国王陛下にご挨拶申し上げます。私、イザベラ・フォン・バンバサール、陛下の命により参上いたしました。陛下の恩寵を賜りまして今日まで何不自由なく暮らせてこられましたこと、まずは御礼申し上げます」


 よかった。震えずにしっかりと言えました。

 すかさず、練習通りゆっくりと膝を曲げ、視線は陛下の足元へ落とします。


「フン。面をあげよ。お前がイザベラか」

「はい」


 陛下は私の顔を見た途端にあからさまに落胆なさいました。そうさせてしまった私の方が申し訳なく思う程に。

 あぁ……お母様。私は国王陛下を失望させてしまったようです。

 何がいけなかったのでしょうか。






 私とお母様が暮らす離宮の周囲は高い樹木に覆われていて、国王陛下がいらっしゃる王宮は見えません。

 お母様との暮らしは幸せで何の不満もございませんが、お父様にお会いしてみたいとずっと思っておりました。

 それでも、お母様の口から一度もお父様の話題が出ないことを考えれば、望んではいけないことのような気がして言い出せませんでした。

 それに、一度も会いに来てくださらないということは、お父様は私に会いたくないのかもしれないと、自分の気持ちを言葉にすることは躊躇われました。




 そんな折、国王陛下からの急なお召しと聞いて、私の心は弾みました。

 お父様が私に会いたいとおっしゃっている!

 それなのに、私の手を握るお母様はとてもおつらそうで……。

 どうして悲しんでいらっしゃったのか不思議でしたけれど、その答えがこれなのでしょう。

 お母様は、陛下が私にがっかりなさることをご存じだったのですね。



「お前の母親もお前と同じ髪の色をしていたか」


 独り言をおっしゃったのか、それとも私に問われたのか、咄嗟に判断できず答えられませんでした。

 国王陛下は、光り輝く金色のお(ぐし)を肩に垂らされています。

 陛下はお母様のことをお忘れなのでしょうか?

 お会いなさらずとも心の奥深くにしまわれただけで、お母様のことはお忘れではないと信じておりましたのに。

 それはあまりに――あまりに冷た過ぎるのではないでしょうか……?

 この謁見は一言一句記憶して、離宮に戻ったらお母様にお伝えしようと思っていましたけれど、もうできそうにありません。




 もしかして――。

 お母様と私は、陛下のお目汚しを避けるために離宮に離されていたのでしょうか。


 国王陛下への謁見にお母様は同席できないと聞かされて、あまりの心細さに震えてしまいましたが、お母様に心配をかけたくなくて、精一杯気丈に振る舞っておりましたのに。

 全部無駄だったのでしょうか。

 せめて私の髪の色が金色だったならば、少しは違ったのでしょうか?




 私が返事をしなかったせいでしょうか、陛下もそれ以上はお話になりません。

 どうしましょう……?

 この空々しい謁見の終わりが見えません。

 もはやここにいてもいいことはなさそうです。

 早く離宮へ戻りたいです。



「コホン。聖母様は美醜など気になさいません。誠の心でお仕えされれば必ずや応えてくださいます」


 見たことのない服装の男性が、この場の沈黙を破られました。

 


「フン。イザベラ。お前には北へ行ってもらう」


 陛下が私を見てそうおっしゃいました。

「北」? 陛下がおっしゃる「北」とは、方角以外に何か特別な意味があるのでしょうか?



「十二歳だそうだが、よいのだな?」

「はい、陛下。物心ついた年齢であれば問題ないと伝わっております。十二歳であられるならば十分務まりましょう」

「フン。あの地は聖教会の管轄であるゆえ、この者の処遇はそちらに任せる」


 陛下と男性が私のことをお話しされているようです。

 それにしても、「聖教会に関係するところ」とは教会のことでしょうか?

 私は教会に行ったことがありません……。


 …………え? 待って!

 そんなことよりも。

 私が北へ行くということは、お母様と離れ離れになるということでしょうか?

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