3 日記帳に書くと思うだけで夢の内容を思い出せるらしい
「よく来てくれたわね。さあ、そこにかけて」
今日は前々から約束していた通り、エシルさんの家にお邪魔している。
なんとエシルさんは占い師だそうで、私のことがずっと気がかりだったと言う。
どおりで雰囲気のある格好をしていると思った。
顔を隠すようにショールを巻いているのも何か意味があるのかもしれない。
「何だか申し訳ないです。普段はお仕事をされている時間ですよね? それなのに、ただで相談に乗ってもらうなんて」
「いいのよ。私が言い出したことなのだし。気になったことはそのままにしておけないたちなの。それで――夢を見るんだったわね?」
「はい」
エシルさんとの何気ない会話の中で、たまたま夢を見て飛び起きることがあるという話をしていたんだけど、まさかこれほど心配されているとは思わなかった。
「ねえ、イリヤ。夢っていうのは馬鹿にできないものなのよ? 『夢なんてただの願望だ』とか、『荒唐無稽な妄想だ』とか言われているけれど、私は聖母様からのお告げである可能性もあると思っているの」
「聖母様からのお告げ?」
「ええ、そうよ。仕事柄、これまで大勢の話を聞いてきたけれど、夢で見た通りのことが起きたという人もいたのよ?」
「え? でも私、何にも覚えていないから、何が起こるのかわからないし……」
何だか怖い。何かよくないことが起こるのかな?
私――聖母様に叱られるようなことしたっけ?
ただ夢を見るだけなら私だって悩んだりはしない。
どんな夢なのか覚えていないのに、なぜか同じ夢を見続けているという確信がある。
自分でもおかしいって思うけれど……。
「まあ、私ったら! 脅かすつもりはなかったのよ? お願いだから、そんなに萎縮しないでちょうだい。ただ、どうして夢を見続けるのか、そしてその夢がどういうものなのか、イリヤだって知りたいでしょう?」
「うん」
確かに。どうして夢を見るのか――その理由を知りたい。
「子どもの頃からずっとっていうことは、やっぱり聖母様が何かを知らせようとしているんじゃないかしら? そうでなくても、どういう意味があるのかわかるだけでも救いになると思うのだけれど」
「それは、もし意味がわかれば嬉しいです。でも、そもそも夢の内容がわからないのに、どうすれば……。覚えていようって思っても忘れているんです」
それこそ寝る前にいつも、もし夢を見たなら絶対に覚えておいてやる! と意気込んで寝ていた時期もあった。
それでも駄目だった。この前の少女のお茶会の夢以外は――。
どうしてあの日だけ覚えていられたのかな?
「イリヤ? 聞いてる?」
「あ、はい」
この前、ボーッとしないって母さんと約束したばかりなのに。
「はい、これ。そのために、これをあなたに貸してあげるわ」
そう言ってエシルさんは一冊の本をテーブルの上に置いて私の方へ押し出した。
「その本を読めばいいんですか?」
「え? あら、いやだ。これは本じゃないのよ。ほら」
エシルさんが本を開くと、真っ白なページが現れた。
「これは日記帳よ」
「日記帳?」
「そう。朝起きて、もし夢を見た気がしたら、この日記帳を開くの。夢の内容を書き留めておこうと思うだけでいいの。最初のうちは思い出せないかもしれないけれど、続けていくうちに書けるようになると思うわ」
日記に書くのだと思うだけで思い出せるものなの?
私は半信半疑ながらも、優しいエシルさんの心遣いを無下にする訳にもいかないので、日記を書くことを承諾した。