22 お友達
『レイモンドの瞳は、蝋燭の炎のように優しくゆらめく時もあれば、メラメラと燃え上がる炎に見える時もあります』
『レイモンドが花を摘んできてくれました。どうやら私があまりに野の花を知らな過ぎて、自分自身にがっかりした様子を見ていたからでしょう』
「はっ」
えぇぇ? 私、また夢を見ていたの?
久しぶりに飛び起きた気がする。日記帳には触っていないのに。
……それにしても、最近の夢の中の王女様はレイモンドのことばっかり。
まあ、彼はものすごく格好いいもんね。
なんだか、しばらくはレイモンドと話したことばかり夢で見させられそうだな。既にちょっぴり食傷気味なんだけどなー。
夢を端折るとかできないのかな……エシルさんに聞いてみようか?
「ごめん、母さん。今日もちょっとだけ出かけたいんだけど?」
「おや? またかい?」
「うん、ちょっとね」
「はいはい。ちょっとね!」
もー。母さんはニヤニヤしているけれど、出かけられるのはありがたい。
昼食後、エシルさんの家に行ったら、彼女は留守だった。
そりゃそうだよね。いつもいるとは限らないよね。
これまで約束もせずに来て、いつも話を聞いてもらえた方がおかしいくらいだ。
まあ溜めてから見せてって言われていたし、今日のところは帰ろう。
王女様が幸せそうな夢だから見るのは苦じゃないし。
日記帳はそのまま持って帰って机の上に置いた。
一瞬だけ開こうとして思いとどまったけれど、なんとなく今夜も夢を見る予感がした。
◇◇◇ ◇◇◇
お世話係のおっしゃる、「お心のままに」は、ただの言葉ではなく、そのままの意味だということが最近わかってきました。
何気なく言ったことが、悉く実現するのです。
私の我が儘を全て叶えてもらってよいのでしょうか。
あまり無責任なことは言えないと反省する毎日です。
それでも……。
レイモンドが三日経っても姿を見せてくれなくて寂しくなり、つい甘えてしまいました。
数少ないお友達のエシルさんを、この前の避難のお礼にお茶の時間にお招きしたいと伝えたのです。
すると、どうでしょう!
その日の午後にエシルさんが私を訪ねて来てくださいました。
お茶会の招待は日にちに余裕を持って行わなければならないと、お母様から教わったことがあります。
招く方の準備はもちろんのこと、招かれる方の支度にも時間がかかるためです。
エシルさんには申し訳ないことをしました。
これからは、うんと先の日にちを指定してお招きしたいとお伝えしなければなりませんね。
反省しましたので、今日ばかりは許していただきたいです。
「当代様。お招きいただき光栄です」
「エシルさん。突然無理を言ってしまって申し訳ありません」
「そんな、どうかおやめください。お誘いいただけて本当に嬉しいのですから。私からはお誘いできませんもの。こうしてまたお話できる機会を与えていただき感謝しておりますのよ?」
「本当ですか? ではこれからもお誘いいたしますね」
「ええ」
聖殿には面会室なるところがあるそうですが、レイモンドとはいつも自室で会っていましたので、エシルさんとも私の部屋でお話することにいたしました。
エシルさんは手土産に王都で流行っているという焼き菓子を持ってきてくださいました。
私は王都で暮らしておりましたのに、流行に触れたことがありません。
お母様からは、「夜会に出席する歳になったらその知識も必要になる」としか伺っておりません。
「エシルさんはもう王都の流行をつかんでいらっしゃるのですね。恥ずかしながら私はまだ疎くて……」
正直にそう申し上げましたら、エシルさんの方が申し訳なさそうな顔をなさいました。
「何だか自慢した形になりお恥ずかしいですわ。流行ばかり追いかけるのははしたないことだと理解しておりますけれど、皆様に人気のある物が気になってしまうのです。当代様のように流行に振り回されないようになりたいものです」
「へー。そりゃまた、たいそうなごたくだな」
本当に驚きました!
いつの間にかレイモンドが出窓に腰掛けています!
「レイモンド。見ての通りお客様がいらっしゃるので驚かせないでくださいね」
「客ねえ」
……あら?
そういえば先ほど、レイモンドが何気に失礼なことを言っていたような。
いつもくだけた話し方をされますが、今日は何だかわざと乱暴な口調でお話しされているように感じます。
あっ。いけません。ホステス役がご紹介しなくてどうするのです。しっかりしなくては。
「エシルさん。ご紹介いたしますね。こちらはレイモンドさん。私のお友達です」
エシルさんがレイモンドを見て随分と驚かれているので、どうしたのかと思いましたら、
「レイモンド様? もしや、聖騎士のレイモンド様でいらっしゃいますか?」
どうやらレイモンドの名前だけはご存じだったようです。
レイモンドは聖協会の方ではないと思っていましたが、騎士だったのですか?
「そんな大層なものじゃないさ。ただの騎士、レイモンド。様なんて付けられたら気色悪くていけねーな」
「そうおっしゃるならレイモンドと呼ばせていただきますわ。私のことをもエシルとお呼びになって」
エシルさんとレイモンドは、互いに笑顔で親しく自己紹介なさいました。
きちんと紹介ができてよかったです。
これで私たち三人はお友達同士ですね。