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21 【レイモンド視点】

 久しぶりに訪れた聖協会本部は、記憶にあるままの姿だった。

 入ってすぐのホール中央に巨大な聖母像が設置されており、その台座を一周するように献金箱が等間隔で設置されている。


 金、金、金。

 献金する奴らはどう思っているか知らないが、献金箱の中身は高価なワインや宝石に変わるんだぞ?

 後はオレみたいな奴への支払いとかにな。




 関係者用の通路の一番奥にあるアイツの部屋。

 約束の時間より少しだけ早いが、嫌なことはさっさと終わらせたい。

 アイツからの呼び出しなんて、どうせ(ろく)でもないことに決まっている。


 ふう。

 息を整えて仮面を被る。

 アイツは腐っても聖教会を牛耳っている権力者だ。

 ノックをすると、「入れ」と声がかかった。

 表情が崩れないよう気をつけて中に入る。


「お呼びだそうで」

「ああ。今回は楽な仕事だ。楽過ぎて暇を持て余すかもしれんがな」

「……」

「相変わらずだな。人の言葉の裏ばかり読もうとする奴だ」

「褒め言葉としていただいておきます。それで仕事とは?」

「おいおい。女とはたっぷり時間をかけるくせに――まあ、よいわ。新しい当代が聖殿に行ったことを聞いているな?」

「はい。第二王女が行かれたと」


 まさか当代に関することなのか?


「王女とは名ばかりの、離宮に閉じ込められて育った何にも知らない十二歳の娘だ。まあ世間を知らないということは当代にはうってつけだがな」

「確か、当代が心を乱せば聖母像が陰り、この国に災いがもたらされる――でしたっけ? 十二歳の子どもに、心を乱さず平静を保つなんて真似、できるんですかね?」


 国の未来がそんな子どもにかかっているなんて、この国の民はよく不安にならないものだ。


「寂しがるくらいは問題ないのだ。だが、突然母親と引き離されて寂しい思いをしているだろうから、お前が慰めてやってくれ。なあに相手は子どもだ。あの娘が望む言葉の一つでもかけてやれば喜ぶだろう。お前は少女から老婆まで虜にする男だからな。はっはっはっ」

「……承知いたしました」


 相変わらず人を人とも思わない傲慢な奴だ。

 オレも大概だが、人の心がわかる分、オレの方がマシだな。



   ◆◆◆   ◆◆◆



 十二歳の子どもなんだから、話し相手に同じ年頃の少女でも見繕ってやればよいものを。

 『女には顔のいい男を当てがってやればよい』――それしか思いつかないとは、馬鹿の一つ覚えだ。


 まあ、さすがに色仕掛けは早いだろうから、ちょっとした暇つぶしの遊び相手にでもなってやるか。

 当代の世話係たちには、オレの邪魔をしないよう連絡がいっているはずなので、オレはオレのやり方で自由にさせてもらう。

 まずは自己紹介がてら顔を見に行こう――そう思って訪れた当代の部屋は、この国の最重要人物の部屋とは思えないほど質素な部屋だった。

 質素? いや違うな。

 これくらいでいいだろうという薄情さだ。装飾品どころか花すらなかった。

 母親と引き離されて、知らない大人たちの中に放り込まれた少女を思いやる気持ちが全くないらしい。

 

 聞けば離宮も似たようなものだったらしいが。

 まさか当代となることを見越して、早く馴染むよう純粋培養されていた訳じゃないよな?




 聖教会の奴らは言葉だけ「当代様」と敬うような口ぶりで、その実、最低限の衣食住を与えておけばいいだろうという非情さが透けて見える。

 王家と聖教会の一部の人間以外は、この国に王女が二人いたことを知らなかった。

 当代として差し出されたということは、おそらくは王女としての扱いは受けてこなかったのだろう。

 まあ、ほどほどの生活水準で隔離されていたとはいえ、他人の悪意に触れなかった分、離宮での暮らしの方が幸せだったんじゃないか?


 逆に世話係のせいで当代は心を曇らせるんじゃないか?

 歴代の当代はどうしていたんだろう?






 当代と話して驚いた。

 本当に何も知らない無垢な少女だった。

 平民の子どもが普通に暮らしている中で感じる些細な幸せすら経験していなかった。



 あんな世間知らずの少女を当代に差し出した王家も、ただただ自分たちが安穏と生きるためだけに聖殿に縛り付けておく聖教会も、どっちもクソだな。

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