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17 【エシル視点】※15年前

 誰も彼もが、『聖殿』と『当代様』を(あが)(たた)える。

 この地を統べる辺境伯家の私たちなど存在していないかのようだ。


 お父様に王族の血が流れているといっても、今ではただの辺境伯。

 先祖を辿れば王族にいきつくとしても、私たちが王族として扱われることはない。


 そもそも王族のスペアとして機能していたなら王都に公爵家として残っていたはず。

 『聖殿』の管理などという大層な名目でこの地に追いやられたということは、切り捨てられたのだ。

 皆がそう考えている。

 王都のお茶会に参加しようものなら、本来ならば格下であるはずの侯爵家の令嬢に田舎者と馬鹿にされる。


『あら! 辺境の地からわざわざいらっしゃったの?』

『そのドレスはご領地でお仕立てになられましたの? よろしければ王都の流行りの店をご紹介いたしましょうか?』


 取り巻きの伯爵家の令嬢にまで嫌味を言われる始末……悔しい!






 先代の当代様は長く伏せっておられたが、顔を見せずとも領民たちは勝手に尊敬と畏怖の念を抱いていた――ただ『当代様』というだけで。

 先代の当代様に続いて、後を継がれる予定の公爵家の令嬢まで急逝した時は、さすがに不吉な予感がしたが、その時のお父様の言葉に私は心臓を鷲掴みにされた。



『もしかしたら……もしかするかもしれない……』

『何のことですの?』

『人ごとではないぞ。もう公爵家には未婚の令嬢がいないのだ。何代も前から王家からは当代様を出していない。わかるか? もしかしたらお前に命が下るかもしれないのだぞ?』


 私が当代様に……?

 何それ……何なのそれ! 素敵じゃないの!

 お父様は何を畏れているの? 我が家が王家の末裔だと高らかに宣言できるのよ?

 ……それに。

 当代様の要求ならば、全て叶えられるじゃないの。


 当代様が、「毎日、日替わりでお客様をお招きしてお茶会を開きたい」と言えば、あの侯爵家の

令嬢も伯爵家の令嬢も、我が領地に滞在してお社詣でをするしかない!

 あははは!

 私――喜んで当代になるわ!




 陛下からの厳命が下るのを、今か今かと待っていたのに。


『エシル! 当代様が決まったぞ。何と王家には隠されていた第二王女がいらっしゃったらしい』


 何よ……それ……王女ですって?

 私より身分の高い人が、最高の身分に就くっていうの?


『まさか陛下がこのようなご決断をなさるとはなあ。王家としては、王女を当代にすることで国民の不安を払拭なさりたいのだろう。隠されていた第二王女の存在は神秘的だし、話題としてはおあつらえむきだ』


 お父様は私の落胆をよそに喜んでいた。






 当代様は基本的に社交はされない。

 この地の領民ならずとも、この国の民ならばみんな知っている。

 当代様のお心を乱すことのないよう、聖殿やお社には近づいてはならないのだ。

 だから当代様が領地に入られても、我が家からはご挨拶には伺わなかった。


 それがまさか、山火事という災害が縁で当代様と知り合うことになるとは夢にも思わなかった。

 しかも幼い当代様は私と友達になりたいなどと言っていた。



『どうぞよろしく』

『お友達になっていただきたいの』



 ……何が、「どうぞよろしく」よ。笑わせる。

 元王女というからには、輝く金髪の持ち主だと思っていた。まさか黄ばんだ茶色の髪だったなんて!

 容姿も凡庸で本当に王族なのかと疑問に思うほどだった。

 私の髪は薄いけれどれっきとした金髪。

 二人並べば、きっと私の方が王女に見えるわ。


 それでも、この国ではどんな身分よりも『当代様』の方が偉い。

 当代様がお心を乱されるだけで、国内が荒れると言われている。

 とても信じられないような言い伝えなのに、誰も迷信と笑わない。それが不思議でならない。



 お社に戻られた当代様から、「お礼がしたい」と二人だけのお茶会に招待された時は、どういうつもりなのか、あの子の真意がわからなかったけれど、お父様が上機嫌で承諾していた。

 あの聖教会の人たちに見張られながら当代様と話をするのかと思うと気が進まない。

 それでも当代様が望んだこと。私たちに断ることなんてできない。

 ――なんて憎たらしいの!


 でも……待って。

 これってチャンスなんじゃないの?

 向こうが私のことを友達だというのなら、友達として他の友達を招こうと提案すれば、あの生意気な令嬢たちを呼び寄せることができるんじゃない?

 当代様はほんの子どもだった。きっと簡単に私の言うことを聞いてくれるわ。



 …………!

 何もあの子を介してやる必要はないわ。

 あの子が――十二歳の子どもが役目をまっとうできないとしたら?

 ぐずって心を乱したならば、すぐに次の当代様に引き継がれるはず――この私にね!

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