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16 辺境伯令嬢と知り合い、猫と出会う

 避難先は聖殿を管轄する領地を治めていらっしゃる辺境伯のお屋敷でした。

 当代という私の立場がどの程度のものなのか、いまだによくわかりませんし、身分と名前がなくなったと言われておりますので、ご挨拶に迷いました。


「ようこそお越しくださいました、当代様。当主のグレオンと娘のエシルです」


 辺境伯の方からご挨拶してくださり助かりました。


「娘のエシルは当代様と年が近うございますので、今後ともどうかよしなに」

「エシルと申します。十四歳になります。当代様にご挨拶できて光栄に存じます」

「こちらこそ、どうぞよろしく」


 私がそう言うと、エシルさんはにっこり微笑んで見事なカーテシーを披露なさいました。


「コホン。私の曽祖父が当時の王弟でして、この地を任されて現在に至ります。ですので、当代様とは遠い遠い縁戚関係になるのですよ?」

「まあ、そうでしたの?」


 王族の子孫である辺境伯とエシルさんは、二人とも薄い金色の髪をお持ちです。

 琥珀色の私とは大違いです。

 せめてエシルさんと同じような髪の色であったならば、陛下も「お父様」と呼ばせてくださったのでしょうか……。


「私、ずっと一人で話し相手が欲しかったのです。エシルさんにお友達になっていただきたいのですが……?」


 なぜかお世話係と辺境伯が同じようにギョッとされました。

 これは失敗してしまいました。

 お母様から言われていたことを失念しておりました。


『上の立場からのお願いは命令と同じなのよ?』


 私はそんなつもりはなかったのですが、受け取られた方が命令だと感じたならば、それは命令したのと同じです。

 どうしましょう……?


「当代様。ご挨拶が終われましたらならば、ひとまずお部屋でおくつろぎくださいませ」


 お世話係が辺境伯に目配せをしてくださり、窮地を救ってくださいました。

 結局、その後、エシルさんとお話しする機会はないままでした。






 翌日は一日中雨が降り続き、辺境伯が用意してくださったお部屋から出ることはありませんでした。

 屋敷に逗留したのは二日で、三日目にはお社に戻りました。

 雨が上がった直後ということもあり、お社の周囲はみずみずしく、炎だけでなく何かよくないものまで全てが洗い流されたように感じられました。


 自室に戻り窓を開けると、澄んだ空気が部屋を清めてくれるようです。


「みゃあ」


 トンと軽く音を立てて、出窓に小さな生き物が飛び乗ってきました。


「あら!」


 森の中でも動物を見かけたことがなかったので、初めての出会いです。

 丸っこくて柔らかそうな体。

 三角のお耳に口元のお髭……。


「あなた、もしかして猫さんかしら?」

「みゃあ」


 見れば、後ろ足を引きずっています。

 動物というものは人間に触られるのを嫌がるものだと昔侍女から聞いたことがあります。


「猫さん。あなたに触ってもいいかしら? 足を見せていただきたいの」

「みゃあ」


 猫さんが横を向いて座ったので、そうっと足を見せていだきます。


「まあ! この傷は火傷ね。かわいそうに」

「みゃっ」

「大丈夫よ。お世話係がおっしゃっていたわ。ここには滅多にお医者様がいらっしゃらないから、その代わりにたくさんのお薬を常備しているのですって。火傷の薬もあるはずだから、少し待っていてね」




 部屋の外で控えてくださっている方に、火傷のお薬をお願いしました。

 最初は私が怪我をしたのだと誤解なさって、どこかへ連れて行かれそうになりましたが、迷い猫を治療したいのだと言うと、ものすごく渋い顔をされました。

 ここは心を鬼にして言うしかありません。


「でもこのままだと私は安心して過ごせません」


 私はここで心安らかにしていなければならないそうですので、それを妨げることは、お世話係の皆様が可能な限り排除してくださると約束してくださったのです。

 ちょっと意地悪でしたが許してほしいです。




「さあ、猫さん。お薬を塗りますよ。じっとしていてくださいね」

「みゃあ」


 患部に丁寧に薬を塗って包帯を巻いてあげると、猫さんは「みゃっ」と言って、窓の外へ消えて行きました。


「あっ、まだそんな風に動いては駄目よ。戻っていらっしゃい」


 窓から覗いても猫の姿が見えません。

 帰って来てという声は届いたかしら?

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