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15 お母様へお手紙を

 聖殿での生活は、お母様がいらっしゃらないだけで離宮での生活とそれほど変わりはありません。

 聖教会の方々が侍女と同じようにお世話をしてくださいます。


 普段は私の部屋には入らず、廊下で待機してくださっています。

 お母様にお手紙を書きたくて、ドア越しに、「あのう」と声をかけると、ドアを開けて応じてくださいました。


「何でございましょう? 当代様」

「お母様にお手紙を書きたいのです――が、書いてもよろしいですか?」

「お心のままに」


 お手紙を書こうと思い立った時に確認したのですが、引き出しには何も入っていませんでした。


「その――」

「すぐに用意いたします」


 お世話係が察してくださいました。


「お願いいたします」






 お母様にお手紙を書くのは、六歳の誕生日にお母様からとても綺麗な便箋をもらって以来です。

 お別れのご挨拶ができなかったお詫びや、私は元気にしているので心配しないでほしいというようなことを書きましたが、それだけでは足りない気がして悩みました。


「馬鹿ね。思いついたらその度に書けばいいのだわ」


 お世話係が用意してくださった便箋はただの白い紙で、お母様を楽しませるような物ではありませんでしたが、我が儘は言えません。


「では、こちらをお母様に届けてください」

「お預かりいたします」


 ……お母様。

 どうしていらっしゃるかしら? 王宮の方はちゃんと説明してくださったのかしら?






 それからは、お母様からのお返事を待ちながら過ごしていました。

 すぐにお返事を下さると思っていたので、五日目にお世話係にお尋ねしました。


「お母様からのお返事は届いていませんか?」

「申し訳ございません。わかりかねます」

「そう……届いたらすぐに持ってきてね」

「かしこまりました」


 そうお願いしたからには待つしかありません。

 お母様がお返事に困るようなことは書いていないと思うのですが……。






 離宮ではほとんど室内で過ごしていました。たまにお庭に出るくらいしか外には出ませんでした。

 ですが、ここ聖殿では、毎日外で一定時間を過ごすよう促されます。


「この森には聖母様のお力がそこかしこに宿っております。当代様も、直接大気に触れ、大地を歩くことで、そのお力を感じられるはずです」


 お世話係がそのようにおっしゃったので、私は午後の散歩が日課となりました。

 最初は建物の周辺をうろうろしていただけですが、徐々に範囲を広げ、今では森の中に入ることもあります。 

 お散歩をしていて気持ちがよいのは、聖母様のお力を浴びているからでしょうか。




 今日もお世話係と一緒に森へ向かいました。

 一緒に――というのは少し違いますね。

 お世話係は私の後ろをついて来られるだけで、話しかけてもほとんど応えてくださいません。

 たまに、「それ以上はお勧めできません」とか、「そろそろお戻りになりませんと」とおっしゃるくらいです。


 こちらに連れて来てくださった聖教会の男性が帰られる際、「必要な物があれば申し付けてください」とおっしゃってくださったのですが、さすがに「話し相手がほしい」とは言えません。


「当代様! お待ちくださいませ!」


 お世話係が急に大きな声を出されたので驚いて振り向くと、「すぐにお社に戻りましょう」と、腕のあたりを軽く掴まれました。

 そして私の腕を掴んだまま急いで引き返し始めました。


「え? あのう……?」


 理由をお聞きしたかったのですが、「もう少し早く歩けますか?」と怖い顔で尋ねられたので、「はい」と返事をして急ぐほかありませんでした。






 お社が見えてきたあたりで、何だか変な匂いがしてきました。

 そのお社では馬車が何台も並んでいて、お世話係の方々が荷物を運び入れていらっしゃいます。


「当代様をお早く先頭の馬車へ!」


 どうやら私も馬車に乗ってどこかへ行くようです。

 さすがに気になるので私の腕を掴んでいる方にお聞きしました。


「何事ですか?」

「ご心配には及びません。さあ、どうぞ馬車へお乗りください」


 どうやら教えてはくださらないようです。

 私が馬車に乗り込むとすぐに走り出しました。

 ここにくる時もそうでしたが、どうして馬車に乗り込む時というのは慌ただしいのでしょう。


 馬車が向きを変えた時に森の様子が見えたのですが、白い煙が立ち昇り、何本かの赤い筋が見えました。


「……え? あれは――火ですか?」

「はい。乾燥した日が続いていたところに強い風が吹いたせいでしょう」

「あんなに火が連なって――」

「聖殿が燃えることはございませんからご安心ください。お社も森から離れておりますのでおそらく大丈夫だとは思いますが、念の為、火が消えるまで離れた場所に避難していただきます」

「まあ! お母様の元へ帰れるのでしょうか?」

「いいえ」


 お世話係はそれから避難先に到着するまで顔を背けたまま一言も発しませんでした。

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