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True Diary 〜消えたはずの想いは願いとなって〜  作者: もーりんもも


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13 聖母様をお慰めする役目

 お社にある応接室へは私と聖教会の男性だけが入りました。

 お世話係の女性が二人分の紅茶を持ってきてくださいました。

 トレイを持ったその女性が部屋から出ると、向かいに座られた聖教会の男性が(おもむろ)に話し始められました。


「当代様はこの国の(おこ)りをご存じでいらっしゃいますか?」

「はい。聞いております」

「それは初代王様と聖母様が互いに手を取って争いを平定された物語ですね?」

「はい。その通りです」

「実は、そのお話には続きがあるのです」

「続き――ですか?」

「はい。代々直系の王族にだけ伝えられているお話です。聖教会でも一部の人間しか知らされていないお話です」


 そうおっしゃって、じいっと私の顔を見つめる聖教会の男性は、口元は一文字に引き結ばれているのに、目の奥の方ではニヤリと笑っているように見えました。

 いえ、きっと私の見間違いでしょう。


「聖母様は神様であらせられるので、人間と違い悠久の時を生きられます。ほんのいっときとはいえ、心を通わせた初代王様とお別れするのはお辛かったようです」

「この国の王となられた初代王様と聖母様は、平定後もずっとご一緒だったのですね」

「そのように伝わっております。コホン。そして、いよいよ初代王様が身罷(みまか)られる時、聖母様が『寂しくなるわね』とこぼされたのだそうです」

「それは――お気の毒です」


 親しい方が先に逝かれるというのは、とてもお辛いことでしょう。


「ええ。そこで初代王様は、聖母様を残して先立たれることをお詫びし、こうおっしゃったそうです。『私と同じ血を持つ子孫たちをあなたの元へやりましょう。この国を守ってくださるあなたを慰めるために』と」

「聖母様の元へ?」


「はい。さようです。それ以降、王家の血を継ぐ者が『当代様』として、この地にお住まいになり、先ほどお会いされました聖母様のお側に侍られているのです」

「つまり、ここで暮らして聖母様に寄り添いお祈りを捧げるのが当代としてのお役目なのですね?」


「さようでございます。この地は、初代王様と聖母様との約束の地と言われております。神聖なこの場所を荒らされることのないよう、特別な『聖殿』へは初代王様と同じ血が流れている方のみが入れるよう、扉にはまじないが施されているのです」

「まじない……扉に触れた時チクリとしたのは血を確かめられたのでしょうか?」


「はい。『血の盟約』と呼ばれております。正当なる方が当代様に就任されますと、扉に血の紋様が浮かび上がります。あなた様は聖母様に認められたのです」


 何やら大役のようです。

 初代王様を亡くされた寂しさを私がお慰めできるでしょうか?


「もう一つだけ。とても重要なことをお伝えしなければなりません」

「はい?」


「聖殿は、初代王様と聖母様とがお二人だけで過ごすことができる場所として聖母様が作られたのですが、初代王様の後を継がれた王様が、約束の地である聖殿に聖母像を奉られたところ、聖母像の手の上に球が出現したそうなのです。そして、跪いた王様に、聖母様からお告げがあったそうなのです。『我もまた約束しよう。初代王と変わらぬ清廉潔白な人物がこの地にいる限りは、初代王の愛したこの国を、初代王の一族を我が守ろう』と」

「清廉潔白な人物……」

「はいっ!」


 突然大きな声を出されたので、思わずびくりと体をこわばらせてしまいました。


「もし約束を違えたならば――当代様のお心が曇ったならば、あの球が曇るのだそうです。それは凶相であり、災いの前兆となるのです」

「そ、それでは――」

「はい。どうか、くれぐれも、()()()()()お暮らしくださいませ」

「はい」


 何という大変なお役目でしょうか。

 お母様。お母様がおっしゃっていたお役目とは、このことだったのですか?


「私の……お役目……」


 いったいどのような生活を送れば、あの球を曇らせることなく、この国の安寧を維持できるのでしょう?



   ◆◆◆   ◆◆◆



 ふう。とりあえず王女への説明は済んだので、後はお社の者たちに預けるとしよう。

 それにしても、まさか当代様に側室が生んだ王女があてがわれるとはな。

 王女――いや、もう元王女か。


 皆まで話さずとも、あれだけ言っておけば大丈夫だろう。

 邪な心を持った者が聖母様に近づけば、あの球が曇る。

 それはつまり、聖母様への裏切り。

 球が曇ったなら、約束を違えた王族に不幸が訪れるらしいが……。

 まあ今となっては真実かどうか定かではないし、そうなった場合はもう手遅れなのだ。


 当代様は人と接してこられなかった分、人の機微に疎く、悪意を向けられてもピンとこないのではないか。

 それくらい鈍感である方がよい。ここではよい方に働くだろう。

 心が動かなければ、怒りや憎しみも生まれないのだから。

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