第07話 喫茶店での『部活』っ!
そんなこんなで、私たち3人は一緒に歩き始めた!
とりあえず活動場所を探すべく、3人で公園を出ていく。
この地域全体は、新しいものや古いものがぐちゃぐちゃに混ざったようなところだが、今歩いているのは新しい場所らしい。 立ち並ぶ店などは新しいものばかりだ。
私は辺りを眺めながら言った。
「うーん、どこかある?」
しかし探せど、良さそうな場所は見つからない。 鼻に突くほどお洒落すぎる喫茶店はキツいし、表面だけ極限まで綺麗にしたような料理店にも入れない。
私は、基本的に自分を汚物だと思ってるので、綺麗すぎるところに入るのは抵抗があるのだ。
葉月と二見さんの2人は、なぜか黙って私についてくる。 あの店がいいかもとか、ここに行きたいとか、何も言いださない。
葉月も周りの景色を見ているだけで、何も言わない。 まったく、あなたが言い出しっぺじゃないの? ちょっとは考えてよ。
なぜか誰もどこに入ると言い出さないまま歩いているうち、私は自分で決めなければならないような義務感を感じ始めた。
「じゃあ、ここで……」
そう言って入ったのは、結局チェーン店っぽい喫茶店である。
中に入ると、普通のファミレスみたいな感じだった。 デザインは精神がごちゃ混ぜになっていて、何を表現したいのかよく分からないが、まあこれぐらいならいいでしょう。
私たち3人は、適当な席を探して座った。 窓際の、4人用のブロックを見つけて入っていく。
私が窓際の席に行くと、葉月が私の隣に座ってきた。
びっくりするぐらい自然に隣に来て、私を追いかけるように、ズンズンと間を詰めてくる。 まあいいけどさ。
二見さんは向かいの席の窓際に座り、私と面する形になる。
席に落ち着くと、私たちは各々適当に注文を頼んだ。
「えーっと……」
それで、部活みたいなことをしたいと言ったっけ。
横を見れば、葉月はすでにスマホを取り出していて、黙々と文章を書き始めている。
ちょっと、何やってんの葉月っ! こういう時は、まずは少し話をするものではないのか?
この子はやはり、社交性が変に感じられる。
私は少し呆れながら、前に向き直って頬杖をついた。
しかし、小説の部活って何をすればいいんだろう。
文芸部だから、文芸部らしいことをすればいいのか?
私が高校1年の時に入った文芸部では、最初の方に、自分が作った小説があるなら持って来いと言われた。
持っていった小説の読み合いをしていたわけだが、それ以降は何をしていたかは不明である。
私はどうしようかと考えていると、目の前の二見さんはカバンを探って、ノートパソコンを取り出した。 私はそれを見て、少し驚く。
「へぇ、パソコン持ち歩いてるの?」
二見さんはめっちゃ普通の女の子っぽい仕草で頷いた。
「はい。 持ってきた方がいいかなって思って。 私、ネット小説部に所属してるし」
「え、ネット小説部なんてあるの?」
「そうです。 私の学校、あそこなんですけど」
二見さんはそう言って、窓の外を指さす。
さっきの公園の辺りにある、ガラス張りの未来的で新しい建物を指しているようだ。 公園内からも見えていたけど、あれ学校だったんだ。
遠くからだが、かなり新しい学校に見える。 ネット小説部なんて、そんなハイカラな部活が今どきあるんだ。
私がぼうっと窓の外を見つめていると、二見さんは、今度はこっちに質問してきた。
「黒縁さんは、小説書いてるんですか?」
「え? あぁ、はぃ」
私は口ごもりながら、必要最低限しか喋らず頷く。 二見さんは気にしていないのか、動じずにさらに突っ込んで話をしてきた。
「教えてもらっても、いいですか?」
二見さんは自分のノートパソコンを反転させて、私の方に向けてくる。 そこには、私が普段利用している大手小説投稿サイトのトップページが表示されていた。
なるほど、ここで私の小説を検索しろと。 OK、それぐらいならできるわよ。
「$●¢ぁ。 えっと……」
私は変にドモりながら、差し出されたパソコンを操作し始めた。
うわー、他の人のパソコンで自分の小説を検索するって、新鮮だ。 私は変な感覚を感じながら、自分の小説を検索した。
私は手汗が多いから、汚さないようにね。 軽やかに、ごまかしながら優雅にタイピングをして、今まで書いた中で一番出来の良い小説を表示させる。
「ぇっと、これ……ですぅ……」
パソコンを再び反転させて、画面を向こうへと向ける。 二見さんは再び自分のパソコンに向き合うと、さっそくクリックして読み始めているようだ。
ぎゃーっ!!ww なんか恥ずかしいっ!
別にふだんから大勢の人が呼んでるんだから、これぐらい理屈としてはどうってことないはずだ。 いつも私の小説をこんな風に読んでくれてる人が、一定数、この世のどこかにいるのである。
でも、目の前で読まれるのは話が別だ。
二見さんはコーヒーを飲みながら、品定めをするように私の文章を読んでいる。 どこでつまらなさそうな顔をするか、楽しみね。ふははっ!w
私は周りのことはほどほどに、自分もいま何をしようか改めて考えた。 私もここで小説を書いてみようかな。 それ以外の選択肢はなさそうだ。
自分のスマホを取り出していると、ふと関係ないことが頭をよぎった。 隣の葉月に、今まで気になっていたことを聞く。
「ねぇ、葉月って、なんでそんなに人によって接し方が違うの?」
スマホで爆速で指を動かして文章を書いていた葉月は、顔を上げた。
「最初に会った時もそうだったけど……自分と関係ない人にそっけなさすぎない?」
私たちの会話には興味がないのか、二見さんは黙ってパソコンを見続けている。
葉月はふんと鼻息を鳴らした。
「別にいいでしょう、どうせ深く関わらない人たちですよ。 そんなの、どうでもよくないですか」
葉月はそう言って、再びスマホに向かい始める。
うーん、そんなもの? 私も親しくない人に対してコミュ障気味だから、人のことは言えないが、なんか引っかかる。
私が一人でもやもやしていると、葉月は俯いて文章を打ちながら続けた。
「それに、これから次元衝突が起きて、そんなこと全部どうでもよくなるんですよ」
「へ?」
私は思わず間抜けな声を出して、横を見た。 次元衝突? 何の話? オカルトの話か?
葉月は顔を上げてこっちを見た。 めちゃくちゃ真剣な顔である。
「今の世界は次元変動の軌道上にあって、もうすぐ色んな次元が衝突するんですよ。 そうなれば、世界のすべてがぐちゃぐちゃになって、何もかもがひっくり返るんです」
葉月はそう言って、真面目な顔で説明してくれる。 自分が言っていることは当然で、世界の道理みたいな言い方だ。 ヤベぇ、この子本物だ。
私は眉をひそめて、思わず「えぇ?」と聞き返す。
すると葉月はいきなり満面の笑顔になり、私の腕をガシンと掴んできた。 馬鹿にするように笑いながら、ガクガクと私の体を揺らしてくる。
「知wらwなwいwんですか、先w輩wwwっ?!w こんなの、常識ですよっwww もうみんな噂してますよっっ! Xデーですよ、Xデーっっ!! キャーーーッっっっっ!!!!!!wwww」
葉月は気持ちが高ぶったのか、大声で叫んで騒ぎ始める。 ぎゃー、うるさいっ!w 周りの客が、変な目で見てきている。
それから葉月は調子に乗って、オカルト話を弾丸のように話していった。 一旦話し出すと、止まることなく話し続ける。
私はもうついていけなくて黙っているのに、こっちが聞こうが聞くまいが関係なしだ。
「それでですねっ、別の方にはこういう話があって……」
「zzz……」
「先輩っ!! いま眠ったら宇宙人に誘拐されますよおおおおぉっっ!!」
「ぎゃーっ!!! 宇宙人んんんっっ?!」
「お客様、静かにしてください」
結局、時間のほとんどを葉月の無駄話に耳を傾けることで潰した。
前に座っていた二見さんは、ずっと一人で私の小説を読んでいた。 私たちの会話に関わろうとしなかったし、もう何の集会だかさっぱりである。
そんなこんなで、活動終了!
夕方の空が広がる中、私たちは喫茶店を出てきた。
「さあ、帰りましょうっ!」
葉月は充実した顔で言うと、ウキウキで歩き始める。 あぁ、疲れた。 私はその横で、ぐったりとしながら店の外に出てくる。
私たちは駅まで話しながら歩き、一緒に電車に乗った。
葉月はようやく二見さんと打ち解けたらしく、普通の調子で話している。 学校のことや、普段のことなどを話しているみたいだ。
2人が話す横で、私は扉の近くに立って、窓の外の景色に目をやった。 外はもう暗くなっている。
結局大したことはしなかったが、これでいいんだろうか。
でも葉月のやりたいことは理解できる。 学校内に自分が合う人がいないなら、外に求めればいい。 学校内で孤立しているよりは良いだろう。
それに正直、この二見って子も友達いなさそうだ。 どうせ夏休み中もずっと暇だろうし、ちょうどいいんじゃないか。ははっ!w
「聞こえてますよ、黒縁さん」
あれ、心の声が漏れてた。
少しすると、葉月たちは順々に電車を降りていった。 最後に電車に残った私は、ホームに立つ二見さんと手を振りがら別れていく。
思わぬ形で、日常が変わった。 今までずっと一人で生活してたのに、たった2日間で生活が大きく揺さぶられた。
学校を退学してから2年間、ずっと変わらない生活を送っていた。 でも変わり始めると一瞬だ。
……いったい、これからどうなるんだろう?
私は息を一つ吐いて、再び動き出した電車の外の景色を見つめた。
そうめん食べよっか。(黒縁)