第05話 かつての学校へ!
後輩ちゃんから、また呼び出しを受けた!
そんなこんなで、学校に着いた!
私は道路を歩いていきながら、敷地の中の古びた校舎を眺める。 あぁ、懐かしいなぁ。 ここに通ってたのも、もう2年前かぁ。
校門の前へと歩いていきながら、私はスマホを取り出す。
あれからメッセージをやり取りしたが、なぜ学校に行くのかなどの質問には、後輩ちゃんは一切答えなかった。 とにかく来い、みたいな感じだったので、私は言われるままに学校へやって来たのだ。
昨日会った時から思っていたが、あの子はやはり社交性に問題があるんじゃないか? 進行形で障害を抱えつつある私が言うのもなんだが。
『学校についたよ』とメッセージを送ると、すぐに返信が来た。 『中に入ってきてください!』とある。
中にって……。 いま私はバリバリの私服で、制服を着てるわけでもない。 誰かに見つかったら、どうすればいいのよ。
まあいっか。 バレたらバレた時だ。ははっ! 私はこういう時、楽観的に考えるのである。
私は校門へとたどり着くと、そのままズンズンと歩いて中へと入っていった。
校舎に近づいていくと、2人の女子生徒が話しているのが見えた。 1人はまさに昨日見た後輩ちゃんだった。 昨日と同じく、半そでの夏用の制服を着ている。
話している相手は上級生っぽい人で、事務的な話をしているようだ。
「上代さんが申請した部活は、今回はダメでね……」
「なんでですか?」
「前にも言ったけど、人数が5人にならないと、部活として認められないんだよね」
「そうですか、分かりました」
部活の申請に関する話かなにかだろうか。 後輩ちゃんは理解したように頷くと、差し出された紙を受け取っている。 申請した部活が、却下されたとかだろうか。
普通の受け答えに見えるが、妙な違和感がある。 後輩ちゃんはあっさりしすぎて、相手の目も見てない感じである。
やり取りを終えた後輩ちゃんは、上級生と別れると、こっちを見た。 私服で歩いていく私を見て、いきなり笑顔になる。
「あ!先輩っ!」
そう大声を上げて、生き生きと体を弾ませて走ってきた。
さっきまでやり取りしていた女子生徒は、思わず振り返って、その変貌ぶりにぎょっとしている。 そうよねぇ、びっくりするわよね。 分かるわw
後輩ちゃんは目の前に来ると、私の手を掴んできた。 両手で持って、握手するようにぎゅっと握ってくる。
「先輩、また会いましたねっ!」
後輩ちゃんはそう言って、キラキラした満面の笑顔で言ってくる。
また会いましたねって、あなたが呼んだのよ。
私は心の中でツッコミを入れながら、頷く。
「うん。 で、用事って……」
「こっちに来てくださいっ!」
後輩ちゃんは私の言葉も聞かずに、校舎の中へ向かって歩き始めた。 私は力に任せてグイッと引っ張られていく。 あぁちょっと! 元気な子だなぁ。
それに昨日もだったが、体の距離が近い気がする。 スキンシップが多い子なんだろうか。
私は後輩ちゃんに連れられて、校舎と校舎の間を通る、渡り通路みたいなところを歩いていく。
通路の途中で、教師の人が向こう側から来ていることに気づいた。
げっ、あれ教師じゃん。 私、制服じゃなくて私服なんだけど、大丈夫かしら。
私の手を引いたまま、後輩ちゃんは冷静に歩き続ける。 後輩ちゃんは急に無表情になり、軽く一礼した。
「こんにちは」
驚くほど調子の差が激しい。 今までとは別人のようである。 表情も声も機械的で、もはや人間味を感じないほどだ。
教師は挨拶されて、小さく会釈を返してきた。 知り合いでもないらしく、特に話すことはないようだ。
私は手を引かれたまま、キャップ帽子に顔を隠すように俯きつつ、無言で通り過ぎていく。
教師は私の姿にも目をやったが、特に気にしていないみたいだ。 私たちはそのまますれ違っていった。
私は後ろをちらりと振り返る。 あの教師は、私も見たことがある。 違う学年だったから面識はないが、何度か廊下で見かけたのを憶えてる。
私の手を引っ張ってる後輩ちゃんは制服を着てるし、たぶん私のことも生徒だと思ってるんだろう。 夏休みだし、別にそれぐらいのことは起こりうる。
ほとんど人のいない校舎の中に入って、私たちは少し歩くと、一つの教室の前にやってきた。
「ここが、私がふだん授業を受けてる教室です!」
後輩ちゃんは教室の前で振り返ると、満面の笑みで言ってくる。
うん、分かるよ。 そりゃ、どこかで授業受けてるでしょう。
私が意味も分からず立ち止まっていると、後輩ちゃんは教室の中へと入っていった。
……え、入るの?
私は困惑しながらも、教室に入っていく。
中には、生徒は誰もいなかった。 夏休みだし学校に来ている人が少ないんだろう。
後輩ちゃんはズンズンと歩いて行って、机が並べられている中を縫うようにして歩いていく。
窓際から2列目、教室の後ろの方の席で立ち止まり、後輩ちゃんは振り返った。
「ここで、いつも授業受けてるんです!」
机に手を触れながら、満面の笑みを浮かべて言ってくる。
私が困惑したままでいると、後輩ちゃんは机のそばに立ったまま、相変わらずキラキラした笑顔でこっちを見てくる。
……え、座って欲しいってこと?
私は意味が分からないながらも、なんとなく後輩ちゃんに誘われているような気がして、その机に座ってみた。
よっこいせ……。 ふーぅ。
前を見ると、黒板がある。 近くには窓があって、向こう側には廊下があって……。
なんてことない景色だが、懐かしい。 もう2年かぁ、早いなぁ……。
でも、実は私は最初の数か月で辞めたから、大した思い出はないんだけどね。 実際に教室に通ったのは、たったの1か月だし。ははっ!w
数少ない思い出をかき集めるようにして、ぼんやりとしていると、遠くから声が聞こえてきた。
「先輩、何やってるんですか。 次、行きますよっ!」
振り返ると、後輩ちゃんは教室の出口にいた。
あら、早いわねぇあなた。 まったく、なんで私は振り回されてるんだろう。
私は言われるままに立ち上がり、黙って後輩ちゃんについていった。
後輩ちゃんはそれからも校舎の中を歩き回り、自分が普段活動する場所を、こまごまと紹介していった。
「ここが、私がふだん生物の授業を受けてる教室です!」
「あぁ、そうだっけ」
「先輩、ここがプールですよ」
「うん」
「先輩っ! ここのトイレは詰まるからやめといた方がいいですよ」
「マジぃ?!w ウケるww」
校舎の中を無意味に連れ回されながら、私は考える。
本当に、この子は何がしたいんだろう? 昨日初めて会った時も、何がしたいか分からなかった。
なんとなくだが、私と思考回路が色んな意味で真逆なタイプのように思える。
ところで、名前は何ていったっけ。 後輩ちゃんと心の中で呼んでいたが、そろそろ名前で呼んでみるかな。
確か『葉月』とか言ったような気がする。 さっき苗字が上代と判明したから、上代葉月さんかな。
私たちは歩いているうちに、1階に戻ってきた。 葉月は校舎を外れていき、さっきと同じように渡り通路のような、外に設置されている屋根付きの通路を歩いていく。
校舎から少し外れたところに、一つの小屋みたいな建物があった。 窓ガラスからは中が見えていて、普通の教室みたいな部屋が見える。
葉月は扉を開けて、言った。
「ここで、いつも部活をしてるんです!」
机が置かれていないが、見た目は教室って感じだ。 卓球用のコートが畳んで壁際に立てかけられている。
思い出した。 確かここは、部員の多い卓球部が、第二の活動場所として使っている場所である。
葉月は奥の方へとズンズン歩いていって、奥の壁際へと向かった。 卓球用の用具入れの棚なんかが、奥には置かれているみたいだ。
……あれ? いま葉月は、『部活をしてる』って言わなかった。
昨日聞いた話では、文芸部には所属してないということだった。 どういうことだろう?
私は部屋に入らず、入り口で立ち止まったままでいた。 部屋の中を眺めながら、呼びかけるようにして聞く。
「部活?」
「そうです。 ここは卓球部の活動場所なんですけど、夏の間はほとんど使ってないんです。 だから、ここで一人で活動してるんです」
一人で活動してる? 部活って、一人でやるものだっけ。
葉月は部屋の隅っこに行くと、ガサゴソと何やらまさぐり始めた。 そこに自分の荷物を置いているようだ。
可愛い布がかかっていて、それをはがすと、一台の古臭いパソコンがあった。 ブラウン管のディスプレイに、クリーム色の古臭いキーボードがセットになった、太古のパソコンである。 学校のどこかから、調達してきたものなんだろうか。
私は疑問を感じて、聞く。
「一人で?」
「はい。 新しく部活を作ろうとしたけど、誰も集まらなかったんです。 『新文芸部』でもダメだったし、『オカルト文芸部』もダメ、あと『未来文芸部』もダメでしたね。 だから、一人で活動することにしたんです」
なるほど、元々の文芸部が嫌だから、第二の新しい文芸部を作ろうとしたみたいだ。
でもさっきの様子を見ると、人は集まらなかったんだろう。 人数が揃わないながらも無理やり書類を提出して、却下されたってところだろうか。
じゃあ、ここでこの古いパソコンを置いて一人で活動してるのは、勝手にやってるってことか。
ふぅん、なるほどねぇ。 なかなか力強くて、いいじゃないの。
「先輩は、いつも何してるんですか?」
葉月はパソコンを見せて満足したようで、駆け足で入り口のところに戻ってきた。
部屋を出てきながら、弾むようにこっちに顔を近づけて聞いてくる。 20cmぐらいしか離れてなくて、一瞬ドキッとする。
あぁ、まただ。 さっきからから、距離が近いんだけどw
私は顔を引きながら、別の方に目をやって答えた。
「えーと、小説書いて、散歩して……」
「じゃあ、先輩の散歩に連れて行ってくださいっ! 先輩がいつも歩いてるところ、私も歩いてみたいです」
葉月はそう言って、さらに顔を近づけて言ってくる。 吐息がかかってきて、キラキラした目が見つめてくるぅっ!!
ぎゃーっ!w なんじゃこの子、ひょっとしてヤバい感じか?
私は若干気圧されつつ、口ごもりながらも、結局頷いた。
「ぁq%★……うん、まあいいよ」
別に私も、大した用事はない。 どうせ帰って小説書くだけだし、書く内容も思いついてない。
もうちょっと一緒にいてもいいかも。
そんなわけで、よく分からないながらも一緒に散歩に行ってみることにした!