第26話 瑞と真面目な話!……社会から線を引いてる?
パソコンショップの女が押しかけてきた!
……と思ったら、瑞が戻ってきた?
「あれ、瑞、どうしたの?」
「うん、ちょっと……」
瑞はなにか言いづらそうにして、もじもじしている。
というか、瑞は帰ったんじゃなかったのか? さっきから30分以上たってるから、もう電車に乗って帰っているはずなのだ。
私は何が起こってるか分からないまま、瑞を中に誘い入れた。 瑞は部屋に入ってくると、パソコンを組む作業をしている女を一瞥している。
「帰ったんじゃなかったの?」
「いや、電車に乗ったけど、引き返してきたの」
一度乗ったのに、降りてから引き返した? 一体どうしたんだろう。 別に、話したいことがあれば、スマホでメッセージでもすればいいのに。
そんなに大事な話なんだろうか? それとも、私と一緒に寝たいとか?イェイっ!!!wwww
瑞は落ち着いた所作で畳に座り込むと、私に向かって話を始めた。
「……わたし思ったんだけどさ、フミって、社会と自分を切り離して考えてない?」
ぎゃー、ばれたっ!ww なんてことだ、瑞はいきなり核心をついてきた。
話の流れも何もないが、私はなぜか瑞が何を言いたいか分かった。 私は意表を突かれて、うっと声が詰まる。 何も言えない。
「なんとなくフミを見てて思ったんだけど、社交性が落ちてるのって、引きこもってるだけじゃないと思うの。 それって、フミが自分と社会を切り離して考えてて、うーんなんていうか、誰に対しても、何を言っても無駄って思ってる感じがしたんだ」
「あぁ、そういうこと……」
私は理解しながら、ため息をつく。
博物館からの帰りの電車の中で、瑞がちらちら私を見てたのを思い出した。 瑞はこういうことを考えていたのか、なるほどなぁ。
今まで瑞の考えていることが分からなかったが、少しずつ見えてきた。
瑞は何も言わないし、黙ってついてくるだけだが、私たちのことをちゃんと見ていたのだ。 それで、今になってこういう話を持ち出したんだろう。
話に戻ると、正直、瑞の言っていることは間違ってない。 私は、社会に言いたいことは山ほどあるが、もう諦めたのだ。
私が考えることを、他の誰も考えてないんじゃないか。 私が感じることを、他の誰も感じてないんじゃないか。 そう思うことが、たくさんある。
私は思ったことを、そのまま話した。 瑞は頷く。
「それは、私もそう思う。 フミを見てても、なんとなく……他の人が感じてないことまで感じてそうって思う。 でも、うーん……なんか、違う気がする」
瑞はそう言って、うつむいて黙り込んだ。
何か違う……? どういうことだろう。 それ以上のことが、何かあるんだろうか?
私は分からず黙っていると、瑞は再び口を開けた。
「……正直に言うと、なんとなく、私のことも社会と同じように、切り離して考えてるんじゃないんじゃないかって思う時があるの」
「瑞のことを?」
私は予想外すぎて、驚いて聞き返す。 そんなこと、思ったことは無い。
一緒にいて思っていたが、瑞は落ち着いていて優しい。 最初はつまらないだの特徴がないだのボロクソに言っていたが、一緒にいると素直で優しい人なんだと分かってきた。
だから、私は一緒にいて心地よかったんだけど……。
しかし瑞は、それを否定するように頷いた。
「うん。 一緒にいるときも、離れたように感じるっていうか……。 すぐそばにいるのに、私を見てない時があるっていうか……」
瑞は言いにくいような、表現するのがもどかしいような口調だ。
うーん、そうだろうか? 自分のことだからか、私はよく分からない。
浅いところでなく、深い感覚の話だとしたら、もはや自分では気づけない気もする。
私が社会と線を引いているというのは事実だ。
でも、それもしょうがないと思ってしまう。 さっきの話に戻るが、それは性質の違いによるものだと思うからだ。
性質が違えば、話は合わない。 興味のない話を熱心に聞くふりをして、心にもないことを言わなきゃいけない。 私はそれが嫌なのだ。
私は思ったことを言うと、瑞は頷いた。
「それは、私も分かるよ。 別に、誰もかれもと話す必要はないと思う。 でも、もう少し、他の人に歩み寄ってもいいような気がするんだ」
話し終えても、瑞はまだ何かを考えているようだった。 うつむいたまま畳を見つめていたが、やがて小さく呟く。
「私も、ネット小説部に、もうちょっと行けばよかったかもって……」
「え? ネット小説部? ……いま行ってないの?」
私は思わず眉をひそめて、聞き返す。
今度は、瑞自身の話のようだ。 話の流れで言いたいことがあるんだろうか。
……でも、ネット小説部にもうちょっと行けばよかった? どういうことだろう。 瑞は普段から、部活に行っているんじゃなかったのか?
瑞は、きょとんとした顔で答えた。
「あれ、言ってなかったっけ。 私いま全然行ってないんだよ」
全然行ってない……? どういうこと?
瑞って、いつもノートパソコン持ち歩いてるじゃないの。 自分の学校のネット小説部に行くためじゃなかったの?
私が混乱していると、瑞は説明する。
「最初ちょっとだけ行って、自分と話が合う人がいなさそうだったから、すぐに行かなくなったの。 でも後から考えると、もっと頑張って行ってもよかったかなって。 ……もうちょっと他の人と話してみれば、本当は話が合う人がいたかもとか、今になって考えるんだ」
なるほど、そういう経緯があったのか。 本当に行くところがなくて暇だったから、毎日、葉月や私についてきてたんだ。
今まで感じていた違和感が、消えた気分だ。
瑞はうつむきがちに、自分の過去を省みるように話し続ける。
「中学の時とか、今までずっと、私ってそうだったの。 私ってプライド高いから、他の人に無理に合わせなくてもいいやって思ってるところがあるんだ。 ……あ、フミも、そういうところあるかも?」
瑞は少し笑って、そう言ってくる。 え、私がプライド高いって? 知ってるわよ、でも私のはそんなレベルを超えてるから、この際どうでもいいんだけど。
たしかに瑞も、意外と自分を強く持っているところがあると思う。 特に最近の行動を見ていると、ちょっと強気なところもあったりして、意志薄弱には見えない。
でも同時に、周りに合わせようとする性質もすごく強いように感じるんだけど。 本人は、気づいてないんだろうか?
目の前の瑞は話し続けている。
「それで一人になることが多かったんだけど、それでもいいって思ってた。 ……あ、学校で話す人も、ほとんどいないの。 ちょっと見栄張って、いるとか言ったけど、高校に入っても全然友達出来なかったんだ」
瑞はそう言って、少しさびしそうに笑った。
私はそれを聞いて、腑に落ちた気分になった。 あぁ、やっぱりなぁ。 なんとなくだけど、そんな気はしてた。
校舎の外から見えた授業中の瑞も、校門から出てきた時の様子も、そして毎日私たちと一緒にいるのも、そう言われれば全部納得できる。
結局私たち3人は、友達がいないものの集まりでもあったってことだ。
瑞は話を締めくくるように、力をこめて言った。
「……でも、最近はちょっと変わってみたいと思ってるんだ。 フミも、……そして葉月もだけど、もっと粘り強く他の人とふれ合ってみれば、何か変わるかもよ?」
そう言って、語り掛けるように言ってくる。 私は思わず拒否したい気持ちが先走り、うーんと唸りながら黙った。
思わず反論したくなるけど、瑞の言ってることは筋が通ってる。 でも、納得しきれない部分がどうやってもあるけど……。
「私も、他の人に歩み寄れるように頑張るから。 フミも、一緒に頑張ろう!」
「……分かった」
明るい声で言ってくるのに、私は納得していないながらも、一応頷いた。
瑞は話を終えるとすぐに立ち上がり、「じゃあね」と言って部屋を出て行った。
瑞の言うことは、分かる。 私も、このままだとダメだとは分かっていた。
しょせん個人は、全体の一部だ。 誰かが持っている性質は、必ず世界の一部だ。
そういう意味では、個人が全体を離れるのは、私にはさほど自然には見えないのだ。
私はため息をつきながら、近くにあったそうめんの袋を手に取っていった。
ふと、銀杏たちが部屋の中にいたことに気づいた。 機械をいじっている女もいて、2人は黙って聞いていたみたいだ。 あぁ、この人たちのこと忘れてたわ。
私はなぜか急に恥ずかしくなり、うつむいたまま黙り込んだ。 ぼんやりとそうめんの袋の成分表を眺める。
もう一杯そうめん食べよう。(黒縁)




