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第02話 小説サイトのイベント会場!

 私は会場に入ると、ブラブラと歩いていった。 約束の時刻はまだなので、イベントを見て回ろう。

 会場の中は、ネット小説サイトの具現化のような様子だった。

 見たことのある有名作品を始め、割と小さな作品も並んでいて、ジャンルも多様たようだ。 大きなポスターや等身大ポップなどが並んでいて、いかにも創作系のイベントという感じだ。


 今の時代、ネット小説も巨大化して、一大市場になった。

 アマチュアの小説が当たり前になり、プロとアマの境は曖昧あいまいになった。 そこらに並んでいる作品群も、きちんとした奇麗きれいよそおいいをしているが、専門性の強いプロなのかは分からない。

 作者本人が区画の中にいて、イベントに来た読者と楽しそうに話しているのが見える。 アマチュア寄りの人なんだろうが、大きなポスターも用意してるし、グッズも作って売っている。

 あんな風に、個人でも工夫して売っている人は割と多いのだ。


 私は一つ一つの区画の間を、うようにして歩いていく。

 細かく見ると、展示して売っている作品には工夫がみられる。

 小説イベントなんだから、基本的には小説を売るわけだが、小説の中身を伝えるのは難しい。

 ただ本のページを開いて、文章を置いておくだけだと、いちいち読まなきゃいけないから分かりにくいからだ。

 そういう理由もあって、作品を売っている区画の中では、やたらと絵が張ってあったりする。 景色の絵や、登場人物のキャラのイラストなど、さまざまだ。

 こうすることで、直感的にどんな作品なのかを理解しやすくしているようだ。

 気合いを入れたシーンだけを、漫画化して読めるように置いているところなんかもあるみたいだ。 これも作品の魅力みりょくをアピールする有効な方法だ。

 最近では、AIで音楽を作って売る人とか、本編すべての漫画を自分で作って売る猛者もさもいるらしい。


 へぇ、なかなか手が込んでて凄いなぁ。 私は感心しつつ、流れるように素通りしていく。

 え、見ないのかって? うーん、あんまり興味ないのよね。

 このイベントの大手小説サイトには、日々大量の作品が投稿とうこうされる。 でも人気なものは、好みでないことが多いのだ。

 私がマイナー人間だからか、気に入った小説に出会うことはあまりない。


 ちなみに私が書いているのは、民間伝承を使ったファンタジーや、自分の地域の歴史をもとに世界観を構築していくような、ニッチなものばかりだ。

 一般的なファンタジーを書いたことはないし、恋愛ものや、ミステリーもない。

 色んなジャンルに興味はあるが、まだ余裕もないし、ダラダラと自分が好きなものを書き続けている。

 高校はやめたが、知識には興味がある。 本当はもっと勉強をして、色んなジャンルに挑戦してみたいのだが。


 私は会場の中を歩いていると、近くに親子の姿を発見した。 まだ小さい赤ちゃんを、母親が抱っこしてあやしている。

 その光景を目にして、私は歩くのが遅くなった。 あぁ、いいなぁ……。

 そういえば、私は授乳じゅにゅうものの小説も書いている。 母性が強すぎてひたすら授乳したい母と、必要以上におっぱいを飲みたがる赤ちゃんの、ドタバタコメディーである。

 あちこちでやたらと授乳をせがんでくるから、大変なのだ。 海辺で、スーパーマーケットの中で、ハンバーガー屋の中で……。 色んな状況を設定して、そのたびに主人公の母親はあたふたしつつも、頑張って授乳するという、意味不明の妄想劇もうそうげきである。

 私ももうおばさんだし、母性が出てきてるのかな。ははっ!w

 ……あぁでも、こんな会場の中で授乳を求められたらどうしよう。 人もたくさんいるし、広くてすみっこにも行けない。

 等身大ポップが立ってるから、一緒にポーズを取りながら授乳しようかな。 かっこよく腕を上げて、さぁ飲みなさいっ!っておっぱい出してね。ぶははっ!ww


 私はニヤニヤしつつ歩いていると、ここに来た理由を思い出した。

 そういえばメッセージをくれた人は、いったい誰なんだろう?

 プロフィールを確認したけど、本名は分からないし、私に関係している人なのかも分からなかった。

 その人は私と同じように、小説を書いている『作者側』の人らしい。

 その人が書いた小説を、ここに来るまでに電車の中で流し読みしたのだが、オカルト系の小説ばかりだった。 今までに書いた小説の量も多かったが、全部オカルトものだ。

 陰謀論いんぼうろんや都市伝説などが題材だが、現実に聞いたことがないようなものばかりで、今までに見たので一番ぶっ飛んでいたかもしれない。

 でも文章は読みやすく、読者も結構いるようだった。

 私もオカルト系はちょっとだけ書いたことはあるが、ほとんど知識がないし、実験的な作品だった。 果たして話が合うだろうか。


 私は考えながら歩いていると、また会場内の様子に目が行った。

 その辺の小説の作者の人に、夏用の学生服を着た女の子が声をかけられているのだが、対応があっさりしすぎて凄い。 「いらないです」「いえ、結構です」「知りません」。

 言っている言葉は変ではないが、言い方と表情が冷たすぎるのだ。 あまりに機械的で、人のぬくもりを感じたことが無いんじゃないかと、赤い血が通っているとは思えないほどの冷淡れいたんさである。

 こういう人もいるよねぇ、私には感覚がよく分かんないけど。

 もうちょっと社交性を持った方がいいんじゃない?とは、私も言えない。

 実を言うと、私も社交性が現在進行形で低下中なのである。 引きこもった生活を続けるうちに、社会性が落ちてきたのだ。

 女の子は冷たすぎる対応を終えると、なんとなしに私のほうを見た。 距離を置いて、一瞬目が合う。

 私のことを観察するように見つめてくると、女の子は突然ぱあっと笑顔になって、大声で呼びかけてきた。


「あっ!! 黒縁さんですかぁぁっっ??!! 会いたかったですうぅぅつっ!!」


 女の子は叫びながら、土煙つちけむりを上げながら勢いよく走ってくる。 さっきの冷淡すぎる対応とは、雲泥うんでいの差である。

 なんだなんだ、何が起こってるんだ?! もしかして、私のファンとか? いやいや、まだ顔は公開してないと思うけど。

 目の前に来た女の子は、立ち止まり、大きな声で自己紹介を始めた。


「私、葉月っていいますっ!!! 黒縁先輩の高校の、後輩ですっっっ!!!!」


 めっちゃ良い笑顔である。 こんなキラキラした純粋じゅんすいな笑顔を、私は久しぶりに見た。

 なるほど、この子がメッセージを送ってきた子なのか。

 私は状況がよく分からないながらも、エネルギーに圧倒されながら、口ごもりながらボソボソと挨拶あいさつした。


「あぁ、こんにちは。 えーと、とりあえず行きましょう」

「はいっ!!!」


 かくして、私たちは2人で歩き始めた。 再び周りの景色に目をやりつつ、会場内を適当に回っていく。

 横を見ると、後輩ちゃんは黙って周りを眺めているだけで、別に何も話しだそうとしない。

 私は久しぶりの人とのコミュニケーションに戸惑とまどいながら、ぐるぐると頭を回転させた。

 えーと、こういう時なんて話せばいいんだっけ。 なんとか話題を見つけようとしていると、今まで抱いていた疑問が浮かんだ。


「あ。 そうだ、なんで分かったの?」

「はい?」

「私が黒縁だってこと」


 そこまで言って、気づいた。 私が高校を辞めたのは、高校1年生の時だ。

 1年生は入学したてだから、学校内に後輩はいない。 この子が後輩なら、私が辞めた後に高校に入学してきてることになる。 私たちは、まったく面識めんしきがないはずだ。

 そう考える私の横で、後輩ちゃんは、生き生きと話しだした。


「高校の文芸部に、先輩の小説が残ってたんです。 先輩、昔文芸部に所属してましたよね?」


 たしかに私は、文芸部に所属したことがある。 高校1年の時、入学してまもなく文芸部に入部したのだ。

 文芸部の活動で、『小説を書いたことがある人は持ってきて』と言われて、自分の小説を一度持っていったことがあった。

 私は中学の頃から小説を書いていたが、一番出来の良いものを持っていった。

 あの原稿げんこうが、部室に残っていたのか。 後でネットにも投稿したから、それで同一人物だと気づいたんだろう。

 文芸部は最初の頃に、やたらと写真をとって活動記録を作っていた。 それで顔もバレたってところかな。


「それで、ネットにもたまたま同じ小説を見つけたんです」

「あぁ、なるほど」


 私たちは話しながら、会場の外に張り出している、2階の大きなテラスみたいな場所にやって来た。

 屋根は無く、日差しがガンガンに照り付けている。 あっつっ!! 空調のきいた室内から、いきなり外気がいきを感じて、私は思わず顔をしかめる。

 この場所にも、人がいた。 アマチュア系の人が出展していい場所なのかは知らないが、頑張って小説を売ったりしている。

 やめなさいよ、こんなところでやってると死ぬわよ。 運営側も、無理やりやめさせればいいのに。


 私たちは太陽の熱気をじかに感じながら、テラス部分を歩いていった。

 後輩ちゃんはコミュニケーションの波に乗ったらしく、今度はグイグイと聞いてくる。


「先輩、学校を退学したんですか?」

「うん」

「なんでですか?」

「えーと……まあ何となく」

「私のこと、知ってましたか?」

「知るわけないでしょう」


 話していると、後輩ちゃんはズンズン体を近づけてくる。 気づけば体が密着していて、なんか顔が近い。

 ちょっとちょっとっ!!ww 何この子、なんか危険な香りがするんだけど。

 私が雑な返事をしていると、後輩ちゃんは、「ふーん」と言ったっきり黙りこくった。

 私も黙ったまま、暑すぎる外気の中を歩いていく。

 1,2,3歩……。 ギャーッ! ヤバいっ!w 話すことが全然思いつかない。

 数年間人としゃべってないのもある。 加えて私は、無駄むだなことは喋りたくないという、変な頑固がんこさも持っているのだ。

 でも、この状況はなんか違う気がするぞっ!

 私は話すことがなくなり、無理やり言葉を発した。


「……暑いね」

「そうですね!」


 後輩ちゃんはそう言ったっきり、また黙る。

 何やってんだろう、私。 気温なんて話題にしても、ふくらむわけないじゃん。

 私たちは歩き続けて、会場内へと戻っていった。 途端とたんに暑さが和らぎ、解放されたような気分になる。

 私は頭をフル回転させて、話題を見つけた。


「文芸部には所属してるの?」


 実にしょうもない質問である。 文芸部の部室で私の小説を見つけたんだから、入ってるに決まってるでしょ。 馬鹿か私。ぶははっ!ww

 しかし後輩ちゃんは、意外にも首を振った。


「いや、入ってないです」

「なんで?」

「文芸部は、古臭いし真面目なんですよねぇ。 私の小説を持っていったけど、笑われたし」


 そう言って、後輩ちゃんは沈み込むように黙る。

 ……え、笑われた? どういうことだろう。


 話しながら歩いていると、オカルト系のコーナーを通りがかった。

 後輩ちゃんはやはりオカルトに興味があるらしく、その辺の作品に目をうばわれて、吸い寄せられるように向かっていく。

 一つの作品のコーナーの前で立ち止まると、後輩ちゃんは試し読み用の本をめくり始めた。

 絵もたくさん張られているが、企業ではなく個人の人らしい。 目の前では、作者らしき人がいて、私たちに小さく会釈えしゃくをしている。


 小説を、笑われた……。

 例えば、記号や絵文字を大量に使ったような『軽い』小説は、ネットにはある。 人によっては、そういうのを馬鹿にしているかもしれない。 あるいは、語彙ごい力がとぼしかったとか?

 でも、いずれにせよ後輩ちゃんには当てはまらないような気がする。 文章は古臭くてしっかりしてたし、語彙力も十分だったのだ。


 私は分からず、ペラペラと冊子さっしをめくって中身を流し読みする後輩ちゃんに聞いていく。


「なんで、笑われたの?」

「何言ってるんですか、先輩。 こういうの、世間じゃ電波っていうんですよ」


 後輩ちゃんは振り返って、当然というように言い放つ。 あぁ、そっちか。 ていうか、電波て自覚してるんかいっ!w

 目の前に同じオカルト系の作者がいるのに、お構いなしである。 作者の人は笑顔を崩してないが、内心どう思ってるんだろう。


 私たちはそのまま歩いて、会場を抜けて出口を出た。

 ……あれ、なんとなく出口に来ちゃったけど、どうしよう。 もう一回、会場の中に入りなおすかな?

 私がそう思っていると、後輩ちゃんは振り返った。


「じゃあ、先輩! ありがとうございました!」


 そういって、いきなり頭をペコッと下げる。

 え、どういうこと。 もう終わりでいいの?

 私は「あぁ」とか意味のない言葉しか出てこずぼうっとしていると、そのまま後輩ちゃんは一人で歩きだした。 本当にこれで、解散ということらしい。

 後輩ちゃんは、歩き始めてすぐに後ろを振り返った。 「先輩っ!」と大声で言いながら、笑顔で手を振ってくる。

 私はよく分からないながらもつられて手を持ち上げて、適当に振り返した。


 ……これでよかったの? なんか、コミュニケーションが失敗したように見える。 うーん、会話が上手くいかなかったからだろうか。

 まあいいか……。 会話のリズムがそろわなかったし、互いにだまる瞬間もたくさんあった。 あの子も、居心地いごこちの悪さを感じたのかもしれない。


 遠ざかっていく後輩ちゃんは、去り際にもう一度振り返って、笑顔で手を振ってきた。 り付けたような笑顔で、表情の奥で考えていることが読めない。

 会場の中で最初に見た、他の人に対する冷たい対応といい、この妙に淡白たんぱくな笑顔といい、そして私も私で、馬鹿みたいにコミュ障全開で立ち尽くしていることといい……。

 一見、普通の光景に見えるのに、ちょっとした社会のやみ凝縮ぎょうしゅくされているような瞬間である。


「……まあ、いっか」


 私は残されて一人になると、考えるのをやめて、家路いえじを歩き出した。

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