第01話 私の名前は、黒縁文っ!
汗が滴り落ちる。
夏の日差しがガンガンに部屋の中に照ってくる。 窓は締め切っていて、冷房もつけていない。
私はパソコンに向かって、キーボードを指で叩きまくり、一心不乱に文字を書きこんでいた。
私は小説を書いている。 家に引きこもって、ひたすら小説を書いている。 それをネットに投稿して、小金を稼ぐ日々なのだ。
夏も真っ盛り、私は一人で部屋の中にいる。 自分の体から、汗臭いにおいが漂ってくる。 長い髪の毛から、雑菌にまみれたシャンプーのにおいが漂ってくる。
文字を打っていた手を止めると、体を前へ揺らした。 机の上に置いてあった2リットル入りペットボトルの水を引っ掴み、ゴクゴクと喉を鳴らしてラッパ飲みしていく。
それにしても暑いっ! 日本の夏はおかしくなったんじゃないのか?
午前中だというのに、いま室温は35℃だ。 日が昇るにつれて、部屋の中はますます暑くなってくる。
加えて、音もうるさい。 窓の向こうにいるセミの鳴き声が、わんわんと頭の中で反響する。
……あぁ、さすがにちょっと辛くなってきた。 私は一息つくと、立ち上がって外へ向かった。
自己紹介が遅れたっ! 私の名前は、黒縁文。
高校をやめて、今年18歳になる女です。
実家に暮らしていて、小説で小金稼ぎをしている、ただそれだけの人間です。 紹介終わりっ!
……え、早いって? でも私の人生、まだ短いしなぁ。 経験もないし、何も話すこと無いのよ。ハハッ!w
どうでもいい私の自己紹介は置いておいて、外に出て散歩してみましょう。
私は家を出て、住宅街を抜けて、繁華街に出てきた。
うるさい音楽が流れてて、ビルが立ち並んでて、人がごちゃごちゃと歩いている。
あぁ、暑い。 ビルの合間に見える青空から、暑い日差しが降ってくる。
足を進めるたびに、街の様子が目と耳に入ってくる。
誰もが馴らされたように歩いている。 面白いことは何も起きないし、貼り付けたような日常が流れているだけ。
店も新しくなっているのに、時代は進んでいるのに、中身がすっからかんなのは気のせいかな。
私は、ふだん小説を書いてネットで投稿している。
でも、それ以外は何もない。 毎日、小説を書くだけ! 他にすることは何もない。
友達は一人もいないし、家族とすら喋らないし、ネットでコメントを書くこともない。
ただ小説を書いて、散歩するだけ。 毎日、その繰り返し。
交差点に差し掛かると、立ち止まっている人々の後ろで、私は距離を取って立ち止まった。 そばにあった電柱に身を預けて、腕を組む。
キャップ帽子をかぶっているから、頭が蒸すように暑い。 動くたびに汗が滝のように滴り落ちてきて、私の無駄に長い髪の毛に絡まってくる。
「暑い……」
私は顔を上げると、空は恐ろしいほどの快晴で、日差しと青さ以外は何もなかった。
今まで数年間、ずっとこんな生活をしてきたわけだけど。 でも、こんなんでいいのかしらね。
家に帰ると、私は再びパソコンに向かった。 再びカタカタとキーボードを打って、文章を書いていく。
気づけば昼の12時少し前だ。 さて、今日の分は書き終えた。 私はパソコンを操作して、書き終えた分をアップロードしていく。
椅子から立ち上がると振り返って、ようやく今日初めて窓を開けに行った。 続けて、机とベッドの間に置いてあるカセットコンロへと向かう。
お湯を沸かして、そばに積んであったそうめんの袋から1人分を取り出すと、パラパラと鍋に入れる。
ほどなくしてそうめんが出来た。 椅子に座りなおして、私はあぐらをかいて食べ始める。 ずぞっ!といい感じの音を出しながら食っていく。
うーん、やっぱそうめんって美味しいわよね。 夏に食べると最高なのよ。 毎日でも食べてしまう。
本当はしょうがとネギを入れたいんだけど、面倒だから用意していない。 冷蔵庫は向こうの壁際に、小さいのが置いてあるんだけど。
そうめんを啜りながら、私は再びパソコンに向かった。
さぁて、他の人の小説でも読もうかな。 12時になると、お昼時を狙って小説を投稿する人が、山のようにいるのだ。
私が普段チェックしてる小説は更新されてるかな? ブックマークのページを表示して見ていくと、更新アリのマークが光っていた。 おっ! 更新されてんじゃん。
……ん? 気づけば、私宛のメッセージが来ていることに気づいた。 私は小説を投稿している『作者』だから、たまに読者の人からメッセージが来ることがあるのだ。
私は気になって、メッセージボックスを見てみた。 メッセージは簡潔だった。
『葉擦高校の、黒縁先輩ですよね?』
ひーっ! 怖いっ!!w
なんということだ、誰かに正体を見破られたらしい。 私は本名などは出してないので、分かるわけがないのだが。 一体、誰なんだろう?
そんなわけで、私は恐喝されたかの如く、外へ出てきた!
メッセージの差出人は、私と会いたがっているようだったのだ。 その人の言いなりになって、会うことになった次第である。
向かった先は、とあるイベント会場である。 私が普段利用している大手小説サイトが主催している、小説のイベントがあるらしい。
電車に乗って、海の近くの地域にある、未来的な巨大な建物にやってきた。
会場に入る前に、近くの銀行に寄ってお金を下ろした。
貯金はほぼなく、一応いくらかは稼げてはいるものの、一人暮らしできるかは微妙なぐらいである。
職業を聞かれたときに、『小説家です』と言っていいのかは謎だ。
面白いと思ってくれたら、ブックマークと高評価をよろしくっ!(黒縁)