ボーン文豪出版
ネットで知り合った小説家希望の友だちから久しぶりに連絡があった。
最近のお互いの出来事を話し、小説についての情報交換をしていた。
パソコンに映し出された友だちから訊かれた。
「お前さ、ペンネーム、かえた?」
「かえてない、何?」
「お前の文章にそっくりな小説見つけたんだよね」
「マジ」
「見てみ」
友だちは、その小説が載っていたというボーン文豪出版のサイトを教えてくれた。
僕は、早速そのサイトに行き、”AIは敵か味方か”という小説を検索した。
その小説を読んでみた。
なるほど、確かに僕の文章に確かに似ている。
自分でも気づかない文書の癖みたいのが現れていた。
驚いたことにこの小説は、今まさに僕が作成中の小説とそっくりだった。
<パクられてる?>
咄嗟にそう考えてしまったが、この作品はまだ投稿していない。
偶然か。
この作者にメールを入れてみた。
<そう言ったことには、関わりたくないんだ。
言いたいことがあるのならリボーン出版に聞いてよ>
との事だった。
僕は、ボーン文豪出版のサイトに書かれている住所を訪ねることにした。
そこは、古臭いアパートだった。
ボーン文豪出版と段ボールに書かれた看板が張ってあった。
呼び鈴を押す。
「はい」と低いドスの利いた男の声だった。
「ボーン文豪出版ですか?お話したいことがあるのですが」
鍵の開く音がして、扉が開いた。
「中へ」
見るからにヤバそうな男が戸を開けた。
機械的なモーター音が聞こえる。
入口の直ぐそばにソファとテーブルが置かれていた。
ヤバそうな男が座るように促す。
僕は、キョロキョロと部屋の中を伺いゆっくりと座った。
男は、部屋の奥に置かれているパソコンに向かって、社長と声を掛けた。
パソコンのディスプレイの陰から、顔が覗いた。
小学生くらいの子ども、名探偵コナンのようだなと思った。
「社長さん?」僕は声を掛けた。
「そう、僕が社長」
ムッとした顔でこちらを睨むと吐き捨てるように言った。
僕は思わず、ヤバそうな男の顔を見た。
「悪いけど、僕は忙しいんだ。仕事しながらでいい。早速だけど要件はナニ?」
彼は、キーボードを叩いていて、こちらを見ていない。
僕の作品にそっくりな作家に問い合わせたところ、ここに連絡するようにと言われたのでと伝えた。
「分かった。あのメールの人ね。メールを打ったのは僕。
僕は作家もやってるんだ。
正確には、作品を発表しているだけで作品は造らないよ」
「発表しているだけ?」
「僕は、発表すれだけ、造るのは生成AIってヤツ。
今は、AIをいっぱい持っているんだ。
作品が売れたからね。もうすぐ、三ケタに突入する。
AI作家をいっぱい持ってるってコト。
貴方の作品は、いっぱい居るAI作家の作品とカブったってコトですよ」
奥の部屋を覗くと、机上に多数のパソコンが並んでいた。
カタ、カタ、カタとキーボードを叩く音は止まらない。
「何も問題はないはずですけど……
同じことを考える人は沢山いるのですよ。
あなたの考えることは、誰かも考えている。
世の中に出したもん勝ちなんですよ」
小学生社長は、デスプレィから目を放さずに話を続けた。
「発明品だって同じですよ。
先に出した者が称賛され富を手に入れた。
それだけですよ」
カタ、カタ、カタとキーボードを叩く音は止まらない。
「部屋の奥が見えるでしょ。
並んでいるパソコン一つ一つがAI作家です。
ある作家に焦点を当てて、データを集めるんですよ。
作家の作品はもちろん、インタービューやら全部。
データ収集はこいつらが得意じゃないですか。
有名な作家は、バレるからやりません。
人気が出できたのを狙うんですよ。
全てコイツが勝手に学習します。
AI作家が、その作家の次の作品のアイデアに検討がついたら、勝手に書かくんです。
なので、その作家に文も発想もそっくりのが出来上がるかもしれない。
私は、直ぐに発表する。このスピードに勝てませんよ。数分で出来上がるんですから。
さっきも言ったように、世の中に先に出したモン勝ちなんです」
カタ、カタ、カタとキーボードを叩く音は止まらない。
「貴方の様に、作品を盗んだなんて言う人が現れても大丈夫。
僕の方が、早く発表しているんですから、盗んだのは貴方の方だ。
たまたま、同じ作品になっても事らの方が早く発表しているので、著作権侵害で訴えるだけです」
タンと大き目なキーボードを叩く音、エンターキーを叩く音が響くと僕の方を向いた。
「わかったでしょ、帰ってもらえます」
小学生社長の勝ち誇った笑顔だった。顎でヤバそうな男に合図すると僕は男に背中を押され部屋から出された。
僕には、返す言葉が見つからなかった。
AIに勝てるのか……。