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異世界文通  作者: 在り処
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トリスさんと文通

 今回『月刊文通』で文通相手を募集をしたわけだが、手紙をくれた方の中にトリスさんがいた。

 私が気になった二通の手紙のうち、一通を書いてくれた人だ。

 彼もヤードック語を使うのだが、どうやら南の国の、さらに南の方の訛りが見られる。


 気になったのは最初の一文だ。


『募集を見て手紙を書かせて頂きましたが、実のところ私は長く文通を続けることは出来ません』


 私は募集欄に『長く続けたい』と書いたので、私の意図とは合わない手紙ということになる。

 最後まで読んでみたが、その内容も私が求めているものではなかった。

 彼は文通相手を求めていなかった。

 簡単に言えば、彼は自分の歩んできた人生を誰かに知って欲しかったのだ。

 何故私なんだと思わなくもないが、簡単な返事を書いた。


『お手紙ありがとうございます。

 本来であれば私の近況などを書いたりするのですが、おそらくトリスさんが求めているものとは違うと感じました。

 ですから私は聞き役に徹しようと思います。

 あなたの歩んできた人生を教えてください。

 気の利いた返事を出すことが出来ないかも知れませんが、それでも良ければ。


 マルコス』



 私の書いた中で一番短い手紙に、トリスさんは返事をくれた。

『ありがとう』から始まる、私が貰った中で一番長い手紙を。


 200枚からなるその物語は、既に手紙ではなかったが、読み終えた私は泣いていた。

 号泣だ。


 いつものように許可もなく入ってきた獣王が「えええっ!?」と、ドン引きするほど泣いていた。

 私が落ち着くのを待って、ようやく獣王が口を開く。


「ど、どうしたんですかぁ、魔王さまぁ?」

「ぐぶっ、びゃふっ、分かるか? ぐふぉん、分かるか獣王?」

「な、なにがですぅ?」

「トリフュさんの、この、びゃひゃ、この、熱いおもぉいが!」

「ちょ、ま、魔王さまぁ?」


 獣王が珍しく慌てているが、そんなことなどどうでもいい!

 居ても立ってもいられないこの思い。

 私はペンを持つと書き殴った。


『明日の夜更け、東の空を見上げてください』


 これ以上の言葉はいらない。


「すぐに4大将軍に収集をかけろ!」

「ちょっ、魔王様はどちらにぃ?」

「すぐ戻る!」


 手紙を持ち、私は獣王にそう命令した。

 郵便ギルドを通す時間もない。

 相手の居場所も分かっている。

 一刻も早く手紙を渡したい衝動にかられ、私は転移した。


 南の大国、バーリシアン城の王の寝室へと。


 見つかれば大問題だが、天がそれを望んだかのように、私は誰の目に捕まることもなく目的を果たした。














 誰だって感情に身を任せる時はある。

 まぁ、大抵の場合、その後に待ち受けるのは後悔だ。

 私は今、正座している。

 魔王4大将軍に囲まれて正座している。

 後悔はしてないが、反省はしている。


「で、魔王さまぁ? もちろん説明はあるんでしょうなぁ?」


 獣王の尻尾が左右に振られ、床に叩きつけられる。

 これめっちゃ怒ってる時の行動だ。

 隣にいる幽王は何か喋っているが聞き取れない。

 その横には嬉しそうに無邪気に笑う竜王。

 久々にみた術王はあやとりで魔方陣を作っている。


「こ、これはだな」


 文通相手の自叙伝に感動して4大将軍を呼び出したと言えば、間違いなく拷問が始まる。

 そして私がしたいことには4大将軍の力が必要だ。

 いや獣王は要らないけど、それを言ったら間違いなく肉片も残らない。

 どうすれば……。

 その時私は閃いた。


「じゅ、獣王の誕生日がもうすぐだろう? ちょ、ちょっと今年は盛大なことをしたいと思ってな」

「ほーん? アタシの誕生祝いですかぁ? そういえばここ300年ほど祝われてないですなぁ?」

「だ、だろ?」

「で、先ほど魔王様はどこに転移されていたんでしょうなぁ?」

「げ……現地の下見?」

「ほーん。泣きながら慌てて現地の下見ときましたかぁ」


 助けを求めるように幽王、竜王、術王に視線を送る。

 幽王、なんか明滅してる。

 竜王、視線を逸らされた。

 術王、出来たと言わんばかりにあやとり魔方陣を見せてくれた。

 あぁ、この場に文通相手のように心を通わせる相手がいないことが悔やまれる。


「まぁ、祝ってくださると言うのならぁ、無下にはしませんがねぇ。で、アタシは祝われる側なんで、何もしなくてよろしいんでしょうなぁ?」

「も、もちろんだ」


 徐々に獣王の尻尾に揺れが収まり、上向きになっていく。

 機嫌がなおっているいる証拠だ。


「ふ、普段から世話になっている礼だ。楽しみにしていてくれ」

「で、いつその祝いをしてくれるんですかねぇ?」

「あ、明日?」


 獣王の上がっていた尻尾が再び床を打ち付ける。

 やべっ、獣王の誕生日っていつだっけ?

 言い訳を考えていたが、獣王は大きくため息と吐くとくるりと後ろを向いた。


「ではアタシは西の砦に戻りますんで、明日は迎えに来てくださいねぇ」

「わ、分かった」


 どんな気分の変化があったのか、獣王は部屋を出て行った。

 私は胸をなでおろし、残った3大将軍に向き直った。

 こいつらの言動はともかく、力は本物だ。


「明日の獣王誕生祝いの詳細だがーー」


 私は南の国で行う大規模作戦の説明を始めるのだった。





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