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異世界文通  作者: 在り処
8/14

ビートさんと文通

 


 私は10通を超える手紙を机の上に並べている。


「これは、凄いな」


 文通を始めて以来、こんなに手紙が来たことは初めてだ。

 もちろん理由は分かっている。

 私は月間文通で初めて募集をしてみたのだ。


 始まりは一通の手紙だった。

 私がもっとも頻繁に手紙をやり取りしているミハエルさんという方がいる。

 彼とは特に馬が合い、まるで親友のように接してきた。いや、私の文通親友であると断言していい。

 南の国出身である彼の父は体調がよろしくないらしく、彼は父の仕事を受け継ぐ為に多忙だそうだ。

 手紙のやり取りは出来るだろうが、今までのように頻繁に交わす事は無理になったと手紙で謝罪していた。

 仕方のないことだし、むしろ手を貸せない自分が恨めしい。

 応援の手紙を出しつつも、こちらから何通も手紙を出すわけにはいかない。


 すでに文通は私のライフワーク。

 この癒しなしに魔王などやってられない。

 新たに『月間文通』の募集欄を眺めていたが、ふと思い立ったのだ。

 一度募集欄に掲載してみようと。

 ちなみに出してみた募集はこんな感じだ。





 ————————


 ペンネーム:マルコス


 使える文字:帝国語、ブリガル語、ヤードック語、ダフタナス語、ヤーリック語


 自己紹介:文通歴2年のマルコスです。さりげない日常、ふと思ったことを手紙を通じて共感しあえる文通仲間を募集します。

 もちろん愚痴や相談などでも大丈夫です。長く文通を続けられたらと思っています!

 返事は早い方だと思いますが、仕事の関係上トラブルに巻き込まれることもあり、たまに遅くなることもあります。


 ————————



 こんな簡単な募集ではあるが、書くのに丸二日もかかってしまった。

 会話に近い文通とは違い、中々難しいものだ。

 最初は使える文字に12カ国語を書いたのだが、郵便ギルドのユミルさんに「それだけは絶対やめてください!!」と真剣な眼差しで怒られてしまった。

 結局、現在文通している人と使っている言語だけに書き換えたが、もう少し減らせないかと言われたくらいだ。


 私はドキドキしながら順番に手紙の封を1通ずつ開けていく。


「あっ、アルストさんにクイルさん。こっちはヨシアさんにアガタさんまで」


 既に文通仲間である彼(女)らからは『月間文通見ましたよ。初募集いっぱい来るといいですね!』と書かれていた。

 やっぱり文通人は皆読んでいるんだなと嬉しくなってしまう。


「あれ? これは?」


 差出人は郵便ギルド職員一同と書かれている。

 中味はいつも郵便ギルドを使っているお礼と、普段顔を合わしているので、もっとお互いを知るべきだと、事細かな質問が散りばめられていた。

 質問といっても素性に関したものではなく、好きな物や食べ物。私の寝るときの服装や、風呂に入った時の洗う順番、好きな男性のタイプなどだった。

 よく分からない質問やなぜか心理テストなどもあったが、お世話になっている以上返事はちゃんと書かなければならないだろう。




 一通り読んだ後、私は2通の手紙を再度読み直した。

 私が今回特に興味をもった手紙だ。


「ビートさんか」


 そのうちの1通の差出人、ビートさん。

 その名前は随分と前から知っている。

 『月間文通』募集欄の常連さんだ。

 募集欄に毎月投稿している人は少ない。

 今回身を持って知ったが、募集をかければ何通もの手紙が来るからだ。

 それなのに毎月募集を出すということは、よほど文通が続かない人か、恐ろしい数の文通相手を求めているかだ。

 文通は癒しだ。だから毎月募集を出す人は特殊なんだと敬遠される傾向にある。

 正直私はビートさんをそういう目で見てきたし、手紙を送ることもなかった。

 手紙を読むまでは。


 彼女が使うのはヤードッグ語。南にある国の言葉だ。

 同じヤードッグ語を使うミハエルさんと散々手紙をやり取りしてきた私は、その美しい筆跡を見てすぐに好感を覚えた。

 内容も簡単な自己紹介から始まり、ちょっとした光景を見た時の感動や、ふとした日常の失敗など、とても共感できることが書かれていた。

 恋愛相談なども書かれていたが、その内容も面白かった。


 どうやら彼女は自分の従弟に恋をしているらしい。

 とても好きなのに本人の前ではつれない態度をとってしまうのだとか。

 しかし、今さら子供の頃から一緒に過ごしてきた相手を前に、素直な気持ちで向き合うことも出来ず、もやもやしているらしい。

 ちょっと勇気を出したこともあったが、相手の方はなにも気づいてないと怒ったりもしている。


 読みながらニヤニヤしてしまうくらい文章も上手い。

 既に私は早く返事を書きたくて仕方なかった。


 なにせ私にはヨシアさんとアガタさんをくっつけた実績がある。

 すぐに紙とペンを机に出すと、私は文章を書き綴った。


 気が付けば20枚を超える長文の手紙になってしまったが、それでも私が思ったことを書ききれていないくらいだ。

 彼女はどんな返事を書いてくるのか今から楽しみだ。


 私は口元を緩めながら、手紙の推敲に移るのだった。







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