表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界文通  作者: 在り処
7/14

クイルさん後日談

 



「ごめんなさい」


 郵便ギルドへ訪れた私に、急に頭を下げてきたのは受付のレイニーさんだ。


「ええと、どうかしましたか?」


「実は……この前お渡しした……手紙ですが、別の手紙まで……渡してたみたいなんです」

「えっ?」


 話を聞くとあの時慌てたレイニーさんは、私宛ではない間違った手紙も一緒に渡してしまっていたと。

 宛名も差出人もなかった手紙は、郵便ギルドの記録に残せない特殊な手紙だったらしい。

 しどろもどろに説明するレイニーさんだが、言葉が詰まる度に周りの受付達に体をつつかれている。

 極秘の手紙を渡してしまったことで、多分かなり怒られたのだろう。


「あの、その手紙読んじゃいましたけど、まずかったですよね」

「いえ、いや、その、大丈夫です! むしろ読むべきぃぃぃぃぃぃーー!?」


 顔を真っ赤にしたレイニーさんは同僚に有無を言わさず捕獲され、引きずられて裏口に消えた行った。


「失礼しました。担当をお代わりします。今回はこちらのミスで大変ご迷惑をおかけしました」


 代わりに前に座ったのは男性職員。確かこの郵便ギルドのギルド長だ。

 微妙に口元をぴくぴくさせている。


「あの、間違った手紙はどうすれば?」

「燃やしてください」

「えっ?」

「書いた本人よりそう申し使っています。灰も残らぬくらいにこの世から消し去って欲しいと」

「そ、そうですか」


 確かに他人が見るには恥ずかしい内容だった。

 きれいさっぱりなかったことにしたい気持ちは分からなくもない。

 しかし間違いだったのか。


「それで、今日はお手紙をお預かりすればよろしいのでしょうか?」

「いえ、今日はもういいんです」


 私は出す予定だったクイルさんへの手紙をしまい込むと、クシャリと握りつぶした。

















 なんとも爽やかな気分だった。

 これからも気兼ねなくクイルさんと文通できる喜びに浮かれていると、背後から声を掛けられる。


「こんな所でお会いするとは奇遇ですなぁ」


 振り返るとそこに立っていたのは、紅く長い髪を無造作に束ねた長身の女だった。

 呼吸が荒くなり、心臓が鼓動が早まる。

 私は顔を背けると、震える声を絞り出した。


「ど、どなたかと勘違いされているのでは?」

「ほーん、勘違いですかぁ。忠誠心たっぷりのアタシが、まさか主を見間違うなんてありえませんなぁ」


 肩に回された腕に力が入っていくのを首で感じる。


「ど、ど、ど、どうしてここに?」

「それはアタシのセリフなんですけどねぇ。竜王(魔王4大将軍)が人間の街を歩くのも中々面白いと言っていたので出てみれば、まさかこんなに面白いものを発見するとは思いませんでしたなぁ」


 くそ、竜王め!

 あいつ最近東の砦にいないことが多いと思ったら、街に遊びに出ていやがったのか。


「こ、こ、こ、これはあくまで視察。そ、そう人間の情勢を知るための視察だ」

「ほーん。では、アタシも視察とやらにご一緒しましょうかねぇ?」

「そ、そうだな。に、人間の飯でも食べてみるか」


 その後、私は必死に獣王のグラスに高い酒を何度も注ぎ、酔いつぶれるのを待つのであった。











 ーーーーーーーー


「ねっ、言ったでしょ。あんな好物件が空き家なわけないでしょ?」

「「「えぇぇぇ!! そんなぁぁぁーー!!」」」


 私が皆から抜け駆けの説教を受けていると、マルコスさんは美人さんと仲良さげに肩を組んでいた。

 スラリとした体型なのに出るとこは出ているし、オシャレをしていないのに、その美貌は絵画から出てきた女神のようだ。

 とてもじゃないけど私が太刀打ちできる相手じゃない。

 悔しいけど、理想のカップルとはこの人達を指すのだろう。

 私だけじゃない、ユミル先輩を除いた郵便ギルド女性職員が涙で頬を濡らしている。


「ユミル先輩は悔しくないんですか?」

「ん、私はもうそんなレベルはすでに超越しているからな」


 そういってユミル先輩はギルド証を裏返して見せてくれた。


「「「ええぇぇぇぇぇぇーー!!」」」


 そこにあったのはマルコスさんの写真。

 そう写真だ。写真なんてギルド務めでは手が出ない、めちゃくちゃ高価な代物。


「どどど、どうやってそれを!?」

「ふっ、業者を手配してこっそりとな。婚活費用全てを失ったが、私は満足だ。いいかお前たち。推しがいる生活は素晴らしいぞ! ちなみに自室にはマルコスさん特大ポスターもある!!」

「「「う、羨ましい!!」」」


 こうして私達郵便ギルド女性職員は推し活に目覚めていく。

 その噂が街に隠れ住む腐女子の間に広まると、カップリングという新たな属性が誕生した。そこから数多の尊い本が生まれていくのだが、きっとマルコスさんは知らないだろう。

 ちなみに『郵便ギルド女性職員達×うぶなマルコスさん』は伝説の本として、郵便ギルドに厳重に保管されるのだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイファンタジー学園コメディ

王立高等魔術学院の日常  

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ