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異世界文通  作者: 在り処
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幕間ー郵便ギルドー

 


「いつもご苦労様です!」


 アタシが楽しみにしているいつもの曜日、いつもの時間。

 扉を開け、ギルドに入ってそう声をかけるのは爽やかな青年だ。

 無造作に伸びた銀髪を右手で掻き上げ、人懐っこい笑顔で話しかけてくる彼とのやり取りは、アタシの至福の時間だ。


「マルコスさん、今日は二通届いてますよ」

「本当ですか!?」


 アタシの言葉に青年の笑顔はさらに輝きを増している。

 あまりの尊さに鼻血が出そう。


 満足そうに手紙を取り出しても、彼がこの場で読む事はしない。

 大事に懐に仕舞い込み、「ありがとうございました」と足早に去っていくだけだ。


 ほんの数分だけど、アタシにとっては何事にも変えがたいご褒美。


 彼は有名人だ。

 大陸でも栄えている都市とはいえ、この帝国西郵便ギルドの利用者は100人いるかどうかだ。

 上流階級の利用者が大半を占めることもあり、従者が代わりに来ることも多い。

 だが、その中で青年は一風変わっていた。


 刺繍の入った白いシャツに、裾を細く締め上げた黒いパンツ。胴には長くきらびやかなベルトを巻いている。

 裕福な商人のようにも感じるけど、仮にどこぞの公爵子息と言われても納得するだろう。

 性格は明るく穏やかで、人懐っこい。

 よく来る従者たちのように見下すような態度もなく、さらに整いつつも少し幼さを残す容姿となれば、受付嬢達から熱のこもった視線が寄せられるのも無理はない。

 見た目から察するに20代前半で結婚指輪もしていない。

 アタシだって1発で心を持っていかれてしまった。



「あーあ、行っちゃった」

「レイニー、気持ちは分かるけど見過ぎだぞ」


 ため息とともに呟くと、アタシの肩に優しく手を置かれる。

 振り返るとユミル先輩だった。



「でも、ユミル先輩も気になるでしょ?」

「まぁ、彼ほど特殊な人はいないからね」


 ユミル先輩はおどけたように笑ったけど、結構本気で彼を狙っていたのは知っている。

 いや、ユミル先輩だけじゃなく、ここにいる女性職員全員が狙っている。


 それほどに彼は特別な存在だった。


 この大陸には未だ共通言語はなくて、ほぼ国ごとに使う言葉が違っている。

 識字率そのものが低いこの世界で、読み書きが出来るとなると裕福な者がほとんどで、外交の役職でもなければ2カ国語が出来るのがせいぜいだ。

 だから郵便ギルドには大陸12カ国語(魔の国を除く)に対応する為に10人のギルド員が存在する。

 アタシも一応三カ国語が出来る体で郵便ギルド員として所属しているけど、その三カ国語も基本的なことだけで、細かな表現となれば怪しいものだ。


 彼の文通相手といえば、国も言語もバラバラ。

 今現在では5人とのやり取りに過ぎないけど、ここ1、2年を見る限り、彼の使う文字は十カ国にものぼっていた。

 おそらく彼の存在を知れば、欲しがる国はいくらでもあるだろう。


 国にとって様々な言語を使える者は貴重な存在。

 年に数回、郵便ギルドにはその言語スキルを求めて情報を出せというお達しが来るほどだ。

 だが、彼に関しては皆がガードしていた。


 彼のスキルはさておき、あの愛くるしい姿を拝めなくなると、ギルド員一同で阻止しているからだ。

 そもそも女性の方が語学に向いているかは知らないけど、うちの郵便ギルドにいる10人のうち7人は女性。


 以前、彼を国に紹介しようとギルド長(男)から話が出た時は、女性全員が一丸となって拒否を示した。

 その剣幕にギルド長は土下座の準備を始めたほどだ。

 国に取り立てられれば彼がここに来ることはなくなる。

 そんなこと、許されるはずもない。


 ちらと私は自分の机の引き出しに目をやる。

 そこには1通の手紙が入っていた。


 そう、彼とさらなる繋がりを持てる唯一の手段。

 郵便ギルドの女性職員の机に一通づつ眠っているのは皆分かっている。

 そしてお互いにけん制している。


 誰かが仕事の振りをして彼の受け箱に近づけば、他の誰かが確認し、また違う誰かが確認する。

 故に男性ギルド員のみが彼宛の手紙を入れることが出来るという暗黙のルールができた。

 手紙を忍び込ませるには、男性ギルド員の買収は必須事項だろう。

 そんなことを考えながら手紙の仕分けをしていると、私は目を見開いた。


「あっ!」


 それはマルコスさん宛ての手紙だった。

 差出人はクイルさん。

 マルコスさんと文通している羨ましい存在だ。


 私はこの瞬間にかけた。

 まだそれほど時間は経っていない。

「トイレに行ってきます!!」とギルドから飛び出し、周りを見渡す。


 いた!!


 多分生まれてきてから一番必死に走っただろう。

 ようやく追いついたものの、私は肩で息をするほどに疲れ切っていた。

 きっと見せてはいけない顔になっている。


「あれ? レイニーさんでしたね? どうしました?」


 ーーっ!!

 私の名前を呼ばれる嬉しさで腰が抜けそうになる。


「こ、これ。入れ忘れがあったみたいで」


 私から()()の手紙を受け取ったマルコスさんは満面の笑みを見せた。

 私のみに向けた笑顔。

 人生の最絶頂。


「ありがとうございます。またこれからもよろしくお願いしますね」

「は、はひ!!」


 去っていくマルコスさんの姿が見えなくなっても、私は手を振り続け、その場を動くことは出来なかった。

 やった。やってしまった。

 私の書いた手紙も一緒に渡してしまった。


 混乱した頭ではどんなことを書いたのかは思い出せないが、家に練習書きはたくさん残っている。

 早く帰って読み返したい。






 ギルドで冷たい視線を浴びながらも、夢心地で仕事を終わらせるとダッシュで帰宅。

 練習書きを見て、私は絶望に震えた。


「差出人名、絶対に書いてない!!」


















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