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異世界文通  作者: 在り処
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ヨシアさん、アガタさんと文通

 

 私の文通相手にヨシアさん(女性)、アガタさん(男性)という2人がいる。

 ヨシアさんは北の国でよく使われるダフタナス語で、アガタさんは東の国でよく使われるヤーリック語で手紙を送ってくる。


 二人との文通歴は1年ほど。

 

 やり取りを開始してしばらく経つと、私はその奇妙さに気付いていた。


 ヨシアさんは北の国の騎士団でも名のある人のようで、アガタさんは東の国の教団で偉い人のようだ。

 同じ人間同士とはいえ、武力を重んじる北の国と、魔力を重んじる東の国は仲が悪い。

 一応は同盟国である両国。1年前、ヨシアさんは国の代表の一員として東の国に親善大使として訪れた。ちょうど私とヨシアさんが文通を始めた頃だ。


 表向きは親交を深める為の視察だが、歓迎されているわけではなく、周囲からは冷たい視線に晒されていたらしい。

 そんな中、両国代表による魔物の討伐が行われたらしい。

 毎年の恒例行事なのだが、国に住み着いた魔物を討伐することで、お互いの力を見せ合い、牽制するのだ。


 まぁ、魔物といっても、私の国から出て行ったはぐれ魔物。私が管轄することはないのだが、中にはそれなりに力のある魔物が、よそ様の国に縄張りを作ってしまう。その怒りや恨みが魔王である私に向くので弁明したいところだが、今は置いておこう。


 ヨシアさん達が討伐に向かった魔物は当たりを引いてしまったらしい。

 お互いに自分の力を誇示するだけの集団。

 連携など取るはずもなく、何人もの騎士達が崩れ落ち、何人もの魔道士達が逃げ出した。

 崩れる戦線にヨシアさんも死を覚悟したらしい。

 それでも騎士らしく立ち向かおうとすると、不思議な事が起こった。

 傷が癒え、力が湧く。

 それが自分の後ろに佇む魔道士の力だと気付いたのは、魔物の首を落とした後だったそうだ。





 ヨシアさんはその男性に心惹かれながらも国に戻ることに。

 その頃から彼女の手紙には、叶うことのない恋がいつも綴られていた。

 で、アガタさん。

 ヨシアさんと同じような時期からやり取りする間柄になったのだが、アガタさんの手紙には国に視察に来た女騎士への思いが書かれていた。


 人間の恋愛に疎い私でも、最初は「あれっ?」と、思ったものだ。

 そんな偶然はあり得ないだろうと。


 だがこの一年のやり取りで確信している。

 ヨシアさんの想い人はアガタさんであり、アガタさんの想い人はヨシアさんであると。


 かといって、私がお互いの想いを伝える事はしなかった。

 ただ、何も知らないフリをして応援していただけだ。



 そんな2人にはもう時間がない。

 間も無く毎年恒例のあの行事が行われる。

 ヨシアさんの手紙にはこう書かれていた。


『私は今年も代表として親交の席に着きます。

 ですが、これが最後。

 今回の親善大使を最後に、私はある伯爵家に嫁ぐことになります。

 騎士として生きてきた私が結婚出来るだけマシかも知れませんが、胸の中にはあの人が住み着いたままです。

 もし何もかも捨ててあの人の胸に飛び込めたなら……。

 

 所詮は私の妄想。

 あの人は私のことなど覚えていないでしょう。

 でも、もし、またもう一度あの人に会えたなら。

 たった一言でも気持ちが伝えられたら。


 マルコスさん、貴方はいつも私を勇気付けてくれました。

 だから、最後にちょっとだけ……ほんのちょっと、背中を押して下さい』


 ほぼ同じ内容の手紙がアガタさんからも来ているので、『めちゃくちゃ通じ合ってますよ!』と、教えてあげたいが、万に一つ別人同士だったら笑い話にもならない。

 2人を本気を応援するのであるなら、私のとる道は一つ。


 私は小さく息を吐くと、マントを翻し転移した。




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