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異世界文通  作者: 在り処
10/14

トリスさんー翌日談ー

 

「では、始めるぞ」


 夜更け過ぎ。3大将軍が指定の場所につくと、術王が超巨大な水球を作り出す。

 打ち出された水球が空一面に広がると、竜王の灼熱の炎が焼き払う。

 私は水の瞬間的な蒸発による爆発を結界で抑え込み、残った全魔力を放出した。


「絶対零度!!」


 凍り付いた全ての水蒸気より遥か上空にいた幽王が光を発する。

 それは幻想的な光景だった。

 美しく薄い光が夜空を彩る。


「ほーん、これは奇麗ですなぁ」


 魔力切れでへたり込む私の前に座った獣王は、そのまま体を預けてきた。

 こうやって擦り寄る時は機嫌が特にいい時。満足してくれたようだ。

 そういえば、獣王と夜空を一緒に眺めるなど何百年ぶりだろうか。


()()()()もたまには気の利いたことができるでありますなぁ」

「あぁ、()()()()()にはいつも世話になっているからな」


 昔の呼び方に、私も昔の呼び方で応える。

 小さな時から一緒に育った仲だ。今回の目的は別にあったが、こう喜んでもらえるのは嬉しいものだ。

 まぁ、ついでといったら殺されるだろうが。


 私は西に見えるバーリシアン城に視線を向ける。

 トリスさん……トリニシティア=バーリ王にこの光景は届いているだろうか。

 そして今は亡き()は見てくれただろうか?







 トリスさんは南の国でも最も南方、海に面した小さな土地を収める領主の次男として生まれた。

 その頃の南の国は荒れていた。

 親王と呼ばれる象徴はいたものの、国の覇権を巡って毎日のようにどこかで戦いが起き、命が失われていた。

 その戦乱は長く続き、領主とその長男の戦死をきっかけにトリスさんは次代領主となる。

 戦乱の中、一人の英雄が現れたのはトリスさんが領主となった頃だ。

 神算鬼謀をもって領土を拡大し、国の統一を目指す男……ノブライア=ダウリオン。


 トリスさんはノブライアに憧れ、忠誠を誓った。

 配下となったトリスさんはその才能を開花させ、気が付けばノブライアの右腕と呼ばれるまでに成長した。

 国家統一を目前に控えた頃、私は一度だけノブライアに会ったことがある。

 稀代の英雄を一目見ようと近づいたのだが、彼はあっさりと私の変装を見破った。

 だが彼は私に敵意を向けることなく、代わりに酒を差し出してきた。

 杯を交わし、一晩中二人で話をしたものだ。

 去り際、私はノブライアに言った。

 手助けすることは出来ないがちょっとした餞別くらいはいいだろう。明日の晩、空を見上げろと。

 ノブライアは嬉しそうに笑うと、次は俺が国を統一したときに飲み明かそうと手を差し出した。

 それが私が見た彼の最後の姿だ。

 間もなくして彼は配下の裏切りによってその人生を終えた。

 トリスさんは裏切りの配下を討ち果たし、主の夢を引き継いで国家統一を果たす。

 主の理想を叶えるため、身を粉にして働き続けた。

 現在の南の国が豊かで平和なのは、その尽力の賜物だろう。

 年を重ね、死期を悟ったトリスさんには忘れられない思い出がある。


 主が謀反で死ぬ1ヵ月前。

 南の国の夜空を彩る幻想的な光景を見ながら主はこう言った。


 この美しい光景を見ていると、人の争いなどなんと愚かしいことか。

 だが、あと一歩、あと一歩でこの国に平和が訪れる。

 最後までついてきてくれるか?

 平和になった国で、再びこの光景を見ながら酒を酌み交わそう。


 トリスさんは涙を流しながら何度もうなずいた。


 果たされなかった約束。

 主の理想には及ばないかもしれないが平和な国は造り上げた。

 ただ一言褒めてもらいたかった。

 よくやったと言われたかった。

 だが、約束の相手はもういない。

 せめてあの幻想的な夜空を見ながら主の墓標の前で報告したいが、あの現象が訪れることはなかった。

 間もなく自分は死ぬ。

 夢に見るのは、ノブライアと駆け抜けた日々と主が消えた絶望の日。

 平和になった今でも、あの裏切りを阻止できなかった後悔は消えることはない。


 もし、もしもまたあの幻想的な夜空が国を覆うことがあったら。

 空に報告して欲しい。


 あなたのお陰でこの国は平和になったと。

 トリニシティア=バーリはノブライア=ダウリオンと共にあったと。


 震えた字で手紙の最後はそう締めくくられていた。








「おっ、しーくんが泣いてる」


 いつの間にか頬を伝う涙を、獣王は細い指でふき取った。


「泣き虫は昔から変わりませんなぁ」

「昔からさんざんいじめられたからな」


 視線が絡み二人で笑いあう。

 心地よさを感じていると、ふいに獣王が半目状態でじっとり見てきた。


「で、もちろんしーくんはアタシの誕生日はいつか知っているのでありましょうなぁ?」

「も、もちろんだとも」


 体中から汗が噴き出る。

 やばい、まずい。確かこのくらいの時期なのは間違いないのだが。

 慌てる私を見て、獣王は吹き出すように笑った。


「ま、アタシの誕生日は来月ですけど、この光景にめんじて許してやるしかないですなぁ?」

「うっ」


 徐々に夜空を彩った光が散っていく。

 幻想的な時間も、もう終わりだ。


「さ、今日は酒が旨いでしょうなぁ。当然付き合ってくれるのでしょうなぁ?」

「断る選択肢はないんだろう?」


 笑顔で応える獣王に手を引かれ、私はその場を後にする。

 私と亡き友との約束は果たされなかったが、トリスさんの思いが叶ったと信じて飲み明かすとしよう。

















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