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もう、思い出せない昨日  作者: 白都アロ
8/12

 十五年。

 十五年間、待って、焦がれた日。

 どうだろう、私はあの日から精一杯生きられたかな。

 二十九に、三十に近い程重ねた年月を思い返す。

 今までの薄い願望ではなくて、決定的に確信的に死のうと思った十五歳。受ける事、成す事全てが苦痛の味で、自分を苦しめる理由の輪郭すらも朧げで。何が嫌で、何が好きかすらも分からせてもらえなかった、そこに自分がいない、遠くて近い思い出の中の幼い日の自分。

 希望なんてなかったけれど、確実性のない死による社会的な詰みを恐れて、当時触れていたであろう何かを真似て、「三十歳になって、人生が楽しくなかったら死のう。だから、それまで、やれる事をやろう。」そう虚ろに思い、自殺による苦役からの解放と、死への恐れを未来に託して、破壊衝動を内に向けた深夜ラジオの流れる暗い夜。

 そこから、人に出会い、自分を捉える苦痛の理由で出来た檻の形を捉え、逃れる為に足掻いた七年間。帰る場所なんてどこにもない事を自覚して、何を犠牲にしても、前に進む事を選んだ暗くて重い修羅の日々。共に歩んだ友との日々を、越権行為をして迄も護って救ってくれた恩師たちを、自覚の無いまま傷だらけになっている私を見かねて声をかけてくれた同僚達を、同じ学舎の学友だと思い歩み寄って来てくれた母校の同窓達を。与えられるモノ、何もかもが必要で、不要で、当たり前のことが傷に沁みて、痛くて、分からなくて、何もかもを罪悪感も無しに、裏切り続けた。

 そんな、何もかも全てを犠牲にして手に入れた資格という名の幸福への切符は、偽りだった。鼻先の人参に騙された馬鹿な馬。地獄の最下層で縋ったものは蜘蛛の糸。社会の澱みの浄化槽の様な場所で課される生きる為の仕事。それが正義だと思い、盲信して業務に従事した。沢山、沢山、罪を重ねて。傷だらけの手や身体を汚泥と汚水で洗うかの様に。痛い痛いと叫びながら、その痛みの本質も知らないままに。四年が経って、拘束期間が解けたのと、飼い主の意に従わない用済みの人材として扱われた事もあり、その獄からは解放された。

 その後、生まれて初めて、枷の無いまま娑婆に出た、一年間。念願叶い、社会の最下層の下請けの国の狗でなく、正式な形での国の犬。それで救われたと思った。ようやくそれで、今迄の人生の取り返しがつくんだと。けれど、これもまたそんなわけはなく。その綺麗な椅子に座り続けるための、蹴落とし嵌め合いの椅子取りゲーム、無言下で行われる爆弾ゲーム、チェス盤の様な真綿で首を締めていく日常の人間関係。この国の縮図の様な人間の穢れの巣窟に踏み込んだのと、これまでの十一年のうず高く積み重ねた罪の到来した清算。この一年で、自分が何者なのかを知り、微かに残った宝物も、夢も希望も失った。

 そんな、犬を辞めて、椅子から降りて、約束の日まで三年に差し迫ったあの日。最後の最後に残った、何もかもを犠牲にして手に入れた地獄行きの半券の残りと、地獄巡りの最中に紡いできた縁の切れ端を手繰り寄せ、人生最後の旅に出た。それでも、私の罪は私を苛み、私の傷は私を蝕み、縁の切れ端は擦り切れて。それでも、初めて、生きていて楽しいと思える時間があった。罪はまだまだ消せないけれど、傷は深くなる一方で癒えないけれど、手に入れては失い続ける日々だけど。死ぬ時に居たい景色も決まったけれど、私は、生きていて、初めて光を見た。

 そんな苦楽の3年は長く短く、約束の時は訪れる。

 生きていて良かった?

 生きていて良いの?

 生きていたいの?

 答えは出ない。

 けれど、不確定のない確実性のある死も結局いまだに分からない。

 答えは認められないけれど、約束の日の夜が来る。


 拝啓、籠の中の十五の私。苦しんでますか?

 私は今も苦しんでいます。

 その苦しみは今の所、延々と糸を引いています。

 あのさ、明日、私は生きていても良いのですか?

 貴方が、そこまで決めていてくれたら、良かったものです。

 だけど、まぁ、良いです。

 仕方のない事ですから。

 では、私はイキマス。

 貴方も精々良い地獄を。

 草草不一。     


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