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もう、思い出せない昨日  作者: 白都アロ
12/12

甘い痛み

 僕は、期間労働者の旅人だ。

 特に当てのないまま、期間だけ働き、終わればまた、流れていく。契約期間を満了しても延長することは出来たが、もう幾度も就労しては期間満了で辞めてきた。

 途中、嫌なことも沢山あったが、楽しいことも嫌なことよりは数少ないが幾つかはあった。その幾つかの中で、多くて大きかったのが仲間ができる事。語り会えた友は、良いものだった。

 今回の派遣先では、以前の職場で仲間だった奴が僕より先に就労していた。

 会うのは久々だったが、お変わりなく、関係性も変わらなかった。

 一緒に、海を見た。北の大地の海は夏でも寒かった。

 一緒に、山を見た。冬の山は雪を被り、空気が澄んでいてハッキリ視認できた。

 一緒に、流氷を見た。氷の海に乗ろうとして、全力で止められた。

 一緒に、湖を見た。凍っていたので乗ろうとしたら、やはり阻止された。

 一緒に、お酒を飲んだ。お酒なんて飲まなさそうな顔をしていたくせに、かなりの酒豪だった。

 一緒に、誕生日を祝った。わざわざケーキまで買って来やがって、大いに笑った。

 あぁ、楽しかった。

 楽しかった、けれど、楽しかった日々には必ず直ぐに終が来る。

 前回は私が雇用期限で更新しないで先に去ったが、今回はアイツが先に雇用期限満了で去るらしい。

 仕方のない事だ。僕らは旅人なのだ。無限に近い因果の交差路で、すれ違えただけでも幸運なのだ。

 最後に、アイツが退去をする前に僕の家に挨拶に来た。

 見送られる側のくせに、僕にお菓子を買ってきた。僕が選別に買っていたアルミのマグカップと交換だ。

「・・・なんだろうな、今まで沢山の人と、さよならしたけど、今回が一番寂しいや。」

 正直に、最後くらいは正直に自分の言葉を伝える。

 アイツは笑いながら、

「それが見送る側の寂しさなんだよ。知らなかっただろ。」

 そう言った。

 あぁ、そうか、これが見送る側の寂しさか。確かに誰かを見送ったのは、今回が初めてだ。寂しさにも、種類があったのか。

 二人で顔を見合わせて笑って、「それじゃぁ、またね。」と泣きそうな笑顔で手を振った。

 だんだん遠くなっていく車の後ろ姿。それに反比例して大きくなる胸の洞。

 見送る側の寂しさは、暫く僕の胸にあるのだろう。

 こんな、甘い痛みは知らなかった。

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