甘い痛み
僕は、期間労働者の旅人だ。
特に当てのないまま、期間だけ働き、終わればまた、流れていく。契約期間を満了しても延長することは出来たが、もう幾度も就労しては期間満了で辞めてきた。
途中、嫌なことも沢山あったが、楽しいことも嫌なことよりは数少ないが幾つかはあった。その幾つかの中で、多くて大きかったのが仲間ができる事。語り会えた友は、良いものだった。
今回の派遣先では、以前の職場で仲間だった奴が僕より先に就労していた。
会うのは久々だったが、お変わりなく、関係性も変わらなかった。
一緒に、海を見た。北の大地の海は夏でも寒かった。
一緒に、山を見た。冬の山は雪を被り、空気が澄んでいてハッキリ視認できた。
一緒に、流氷を見た。氷の海に乗ろうとして、全力で止められた。
一緒に、湖を見た。凍っていたので乗ろうとしたら、やはり阻止された。
一緒に、お酒を飲んだ。お酒なんて飲まなさそうな顔をしていたくせに、かなりの酒豪だった。
一緒に、誕生日を祝った。わざわざケーキまで買って来やがって、大いに笑った。
あぁ、楽しかった。
楽しかった、けれど、楽しかった日々には必ず直ぐに終が来る。
前回は私が雇用期限で更新しないで先に去ったが、今回はアイツが先に雇用期限満了で去るらしい。
仕方のない事だ。僕らは旅人なのだ。無限に近い因果の交差路で、すれ違えただけでも幸運なのだ。
最後に、アイツが退去をする前に僕の家に挨拶に来た。
見送られる側のくせに、僕にお菓子を買ってきた。僕が選別に買っていたアルミのマグカップと交換だ。
「・・・なんだろうな、今まで沢山の人と、さよならしたけど、今回が一番寂しいや。」
正直に、最後くらいは正直に自分の言葉を伝える。
アイツは笑いながら、
「それが見送る側の寂しさなんだよ。知らなかっただろ。」
そう言った。
あぁ、そうか、これが見送る側の寂しさか。確かに誰かを見送ったのは、今回が初めてだ。寂しさにも、種類があったのか。
二人で顔を見合わせて笑って、「それじゃぁ、またね。」と泣きそうな笑顔で手を振った。
だんだん遠くなっていく車の後ろ姿。それに反比例して大きくなる胸の洞。
見送る側の寂しさは、暫く僕の胸にあるのだろう。
こんな、甘い痛みは知らなかった。